新「僅少就業」規定に対し、批判相次ぐ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

ドイツでは従来社会法典第4編で、週労働時間が規則的に15時間を下回り、かつ月額一定限度以下(従来は西独地域620マルク、東独地域520マルク)の低賃金労働を「僅少就業」と規定し、本業の有無、僅少就業の数を問わず、22%の所得税納付義務は課するが、社会保険加入義務を免除していた。そしてこの僅少就業者は主に学生、主婦、年金生活者等で、ドイツ全土で約650万人がパートタイム雇用で就業していた。しかし、僅少就業に従事する女性が年金に加入できない、事業主が社会保険料支払い義務を免れるためにこの形態を乱用し、ヤミ労働を助長する等の弊害が指摘されて見直しの動きがあり、折から財政危機が迫る年金保険や疾病保険の保険料収入を確保するために、シュレーダー政権は僅少就業規定の改正案を提出し、これが1999年1月に連邦議会で、3月に連邦参議院で可決され、4月1日から施行された。

新規定の内容は、旧規定と対比して概略以下のとおりである。

  1. 僅少就業の基準額が東西両ドイツ地域で月額630マルクに統一された(したがって、この就業は通常「630マルク労働」と呼ばれることになった)。
  2. 僅少就業者を雇う雇用主は、一括して賃金の12%を年金保険料、10%を疾病保険料として窓口の保険機関である疾病保険金庫(Krankenkasse)に支払わなければならない(ただし、年間2カ月又は50日以内の就業者は、従来どおり社会保険加入義務はない)。これによって僅少就業者も年金給付を受給できるが、リハビリ給付等も含めたフルサービスを受けるには、本人がさらに7.5%の保険料を別途負担せねばならない(通常の雇用においては、雇用主と雇用者が折半する現行年金保険料率は19.5%である)。
  3. 僅少就業者は従来課された22%の所得税を免除され、これは配偶者の課税所得の有無を問わないが、所得税免除申請書を本人が税務署に提出せねばならず、これを怠ると所得税の源泉徴収義務が生じる。旧規定では、雇用主が源泉徴収して税務署に支払い、僅少就業者には税務申告の義務はなかった。
  4. 本業の他に副業として僅少就業に従事し、又は複数の僅少就業に従事して、賃金合計が630マルクを超える場合は、旧規定と異なり、通常の雇用と同様の所得税納付義務と社会保険加入義務が課される。
  5. 僅少就業者を雇う雇用主は、本人が他の本業、僅少就業に従事しているか、社会保険に加入しているかなどを調べて賃金台帳に記載し、その入職、離職を窓口機関に申告せねばならない。

このような新規定に対して、使用者団体、野党は当初から雇用の喪失につながる等の理由で反対していたが、施行後2カ月が経過するとともに、従来の僅少就業者の離職がサービス業を中心に、小売業、ビル清掃業、ホテル・飲食業等各業種で相次ぎ、新規定に対する批判が高まり、反対デモなども行われた。

この間ドイツ商工会議所連合会(DIHT)は、合計7700の企業が加盟する50の商工会議所を対象として僅少就業について調査を行った。その調査結果によると、新規定の施行によって42%の僅少就業が消失することになり、20人以下の小企業では消失する僅少就業は50%を超えることになる。これは慎重に見積もっても商工業部門だけで80万人の僅少就業者が職を去ることであるという。

対象企業が回答した僅少就業が減少する主な理由として、調査結果は以下のようなものを挙げている。(1)僅少就業者の負担が増え(特に本業を持って副業として僅少就業に従事し、又は複数の僅少就業に従事して、収入合計が630マルクを超える場合)、この仕事が割に合わなくなっている(76%)、(2)雇用主が繁雑な保険事務手続きに対処しきれない(約50%)、(3)雇用主の労働コスト負担が増え、雇用契約の解約を余儀なくされている(44%)。また僅少就業の減少で、企業の7%は新規定によって存続の危機に立たされていると答え、ホテル・飲食業ではこの割合は23%にも達した。

このような批判の中で、5月になってホムバッハ前総理府長官の諮問による代案が研究者から提出された(政権内部でリースター労相との確執が取り沙汰された同長官は、6月にコソボ紛争後の東南ヨーロッパ安定協定のための調整官に回された)。その内容は、1500マルクまでを社会保険加入義務から免除し、それを一括して補助金で補うというもので、次の「雇用のための同盟」の会談でも取り上げるべきだと提案されて物議を醸したが、この案にはリースター労相、野党、労働総同盟(DGB)、使用者団体ともに反対し、結局提案は立ち消えになった。

他方、新規定自体については、DIHTをはじめとする使用者団体、野党は廃止を要求し、IGメタルを含めて労働側は支持を表明して使用者団体を批判しているが、新規定の立案者リースター労相自身は、何百万もの通常の雇用が630マルク労働に取って変わられるのを手をこまねいてみている訳にはいかないと、新規定の維持を重ねて表明している。しかし、従来社会民主党(SPD)を支持していた低賃金労働者層が新規定に不満を表明しており、これを受けて与党内部でも州政府レベルでは反対を表明するものも出てきており、7月6日の雇用のための同盟の第3回会談でも僅少雇用は議題として取り上げられる予定だが、事態は依然として流動的だと言える。

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