合弁事業を地域発展につなげるロンアン省の試み

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

1995年にASEAN加盟を果たしたベトナムは、域内自由貿易制度AFTAにも加わることになり2006年までに域内関税を5%以下に引き下げることになっている。東南アジア諸国の中でも経済発展段階が極めて低いベトナムにとって、自由貿易への早期移行に失敗すれば国内幼稚産業が押し潰されてしまうのではないかという懸念がある。

ベトナムの主要輸出品は今でも一次産品中心で、主要な工業輸出品の衣料、靴などの委託加工業でも原材料・技術・資金・市場などのほぼ全てを外国投資企業に依存しており、ベトナムが提供しているのは安価な労働力に過ぎない。1990年代にベトナム経済を支えてきたのは直接投資だが、1999年上半期の外国投資企業の投資認可額は前年同期比52%減の6億100万ドルに落ち込んだ。半期で10億ドルを下回ったのは1990年代後半で初めてのことである。

ベトナムにとって技術力やマーケティングを学ぶ最も身近な相手は合弁事業の外国パートナーであるが、合弁事業が長期的な地域発展に結びつく仕組みが存在するのだろうか。以下に紹介するのは南部のメコンデルタ地域に位置するロンアン省工業区管理委員会のラム・ティ・ホン輸出入管理局長の分析である。

ロンアン省には現在、35件の投資許可を受けた外国投資事業があり、うち19件(総投資資本1億4700万米ドル)が操業中で、繊維業、農産物加工業、建築資材生産業が主な産業になっている。これらの事業を通じてロンアン省が得た所得は、1994年に400万米ドル、1995年に1370万米ドル、1996年2800万米ドル、1997年に5900万米ドル(うち3300万米ドルが輸出から)で、金融危機の影響を受けるまで順調に増加してきた。また省内の4500人の労働者が雇用され、他の省からの何千人もの労働者にも職を提供し、1997年に480万米ドルの租税支払いを通じて国家予算に貢献している。

しかし合弁事業を長期的な地域発展につなげるために残された課題も多い。例えば外国の合弁パートナーが合弁事業認可時に合意した条件を果たし、投資資金を回収して利潤を出した後、ベトナムに老朽設備や古い技術と共に低技能のベトナム人労働者を残して合弁事業から撤退する場合がある。さらにベトナム側元パートナーは合弁企業が持っていた海外市場への足場を受け継げないことが多い。残された老朽設備の大部分は外国では使われていないような代物だがベトナムでは高価である。外国企業が新技術に転換し高品質製品を製造し始めると、その企業と合弁を組んでいたベトナム企業は太刀打ちできない。そのため長期的な視点からラム・ティ・ホン輸出入管理局長が力を入れるべきだと考えているのは輸入品を国産品に代替することだが、この輸入代替に有望な分野である農業関連部門(肥料・機械・農業製品など)が十分な外国投資を引きつけていない。そもそもベトナム側が合弁事業の意思決定にほとんど携わることができないのは資本参加比率が低いため(現在、外国側が70%の資本を提供している)なので、貯蓄を奨励し投資を増加させる必要がある。外国側パートナーがベトナム人労働者の利益を侵害している場合に、ベトナム側パートナーが労働者の権利を守ろうとしないという問題もある。

ロンアン省は外国直接投資を社会発展につなげるために2010年までの計画を策定している。その中で内外の投資を呼び込むための行政手続きの改善や省の環境保護基準の設定などに並び、労働者の権利の擁護を重要な目標の一つに位置づけている。特に、外国側パートナーが必ず労働者に定められた通りの職業訓練制度や社会保険を提供すること、政府が労働安全基準を強化することを求めている。

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