国営企業の民営化問題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年8月

政府の国営企業民営化政策に対して、労働者の反対運動が続いている。運動が一番活発なのは国営企業で最大の従業員を抱えるタイ発電公社(EGAT)で、国内最大のラチャブリ発電所の株式売却をめぐって大きな論争が起きている。また、この民営化によって、国営企業従業員約32万人の半分が職を失うとみられる。

政府が国営企業の民営化を進め、株式売却の資金で対外債務を返却し、企業の効率化を図りたいとしているのに対して、国営企業従業員組合(SEERA)は、(1)外資との提携はせずに、政府は最低でも70~75%の株式を所有すること(2)国営企業からの利益は企業の効率改善のために使用すること、の2点を要求している。

タイの対外債務に関しては、債務は非常に大きく、国営企業の売却以外に債務返済の手段はないとし、ラチャブリ発電所が売却できないとなると、政府は税金の引き上げに踏み切らざるをえない、との見方を示す研究者もいる。一方で、企業を外資に売却する前に、企業の効率化を図ることが重要なのではないか、といった声も出ている。チュラロンコン大学経済学部のラエ・ディロクビットハヤラート氏は、果たして電気や水道といった基本財を民営化する必要があるのか疑問で、民営化が進んだからといって社会が公正なものをえられる保証はない、と述べている。

蔵相の報道官サヒット・リンホーガン氏によると、通信業界の民営化は確定しているが、残りの3分野、運輸・エネルギー・水道はまだ民営化の確固たる案が出来上がっていないという。

また、ステップ運輸大臣は、政府は対外債務の支払いのために現金が必要であり、民営化は避けられないとしており、株式保有も70%維持は難しいが最低でも30%は保持するよう努めたいと語っている。

しかしながら、このような政府の意見に対して、ランジット大学のウィタヤコン・チェンフル氏は、「政府が透明で公正な民営化プロセスを示していないということが最大の問題であり、経済危機による資本不足が問題なのではない」との見解を示している。

一方、タイ国際航空は、修理・補修部門をタイエアクラフトサービス(THAI-Aesco)として分社化し、株式の半分を売却するという計画だが、これに対して5月4日、300人のエンジニアたちがバンコク国際空港のあるドムアン地域に集まり、抗議活動を行った。活動に参加した従業員は、分社化は航空機のメンテナンスにかかわるばかりでなく国の財政にもかかわる問題だ、としている。

また、タイ国有鉄道のストライキに関しては、ナフコンラチャシマで約200人の従業員が民営化に反対し、集会を開いた。政府は株式の30%を所有するとしているが、従業員は民営化は人員の半数カットを意味するとして猛反発。仮に民営化を進めた場合には、低料金の3等列車のチケットの販売が廃止される可能性があり、低所得の利用者に悪影響を及ぼすだろうとの見方も出ている。

このような反対運動にもかかわらず、チュアン首相が「民営化に関しての変更はない、タイの経済回復のためには民営化は不可欠」とコメントしたため、5月8日、ロイヤルプラザ前に約千人の国営企業従業員が集まり、国会周辺を練り歩き、チュアン首相、ステップ運相、タリン蔵相の辞任を求める抗議運動を展開した。さらに11日には、民営化を支持する内閣のエネルギー担当サビット氏の辞任要求を求める署名運動が起こり、既に3万5000人の署名が集まっている。辞任要求には最低でも5万人分の署名が必要であるが、不足分は家族や親戚の署名で補うとしている。また、ランパンのマエホー発電所でも700人がストライキを起こし、操業停止になった。

13日には、EGAT の組合側は今後検討会を開催し、行政の資金不足の問題を発電所売却以外の方法で検討していく方針で、ストライキの終了に合意した。この検討会は EGAT 従業員代表も参加し、会が終了したのちに報告書を作成、EGAT 内部と内閣に提出される予定。これにより、EGAT のストライキは暫定的に終了することとなった。

しかし、国家資源政策局(NEPO)の総長ピヤスバスティ・アムラナンドは、ラチャブリ発電所の売却にかかわらず、企業の効率性向上のためには発電率を上げることが必須条件であるとしている。ラチャブリ発電所の売却金額は400~500億バーツになるとされており、売却できない場合、電気1単位当り20サタン(1サタン=100分の1バーツ)発電力をあげなくてはならないと推計している。さらに、EGAT の資金不足によって約3万人の従業員の賃金が払えなくなるおそれや、電力設備の過剰投資といった問題も明らかになり、今後の課題は大きいと見られている。

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