失業者は怠惰ではない

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

スウェーデンの記事一覧

  • 国別労働トピック:1999年8月

スウェーデンですら、政治家やエコノミストの一部に、失業対策の一つとして失業給付金の減額を提案している人がいる。失業給付金があれほど高くなく(直前給与の80%で2万1000クローネが上限)、給付金の支給期間が制限されていたら人々はもっと熱心に職探しをしていただろうにと言うのである。

最近では、できるだけ多くの人々に安価な労働市場政策を適用するという数量目標が廃止され、むしろ労働市場当局は、熟練労働者を重要な仕事に就かすための高度な長期訓練計画の拡充を目指してきた。こうした政策の結果多くの失業者は、仕事を見つけることができず、失業給付金の新給付期間の採用資格を付与する労働市場対策もないため、福祉に頼らざるを得なくなっている。

それでは、新しい仕事を見付けることができない労働者は怠惰なのだろうか。3500人の失業者を対象に、求職意欲について研究しているウメオ大学の研究プロジェクトの責任者マイケル・ノルドンマルク氏は、そうではないと言う。

失業者が怠惰だという見方の背景にある理論は、経済学のいわゆる探索(サーチ)理論で、失業者が仕事を見付ける機会の多寡はその人が仕事を見付けようとするやり方次第で決まるとする。すなわち失業者がもっと効率よく職探しをし、その回数を増やせば増やすほど職が見つかる機会は多くなり、一般的な失業率も下がるという。求職活動の強度は、失業時の経済状態と就業時の経済状態との差、すなわち仕事に就くことの金銭的な誘因の大きさによって決まる。そのため、この誘因を強化するため安易に失業給付金を受給できなくしたり、給付水準を引き下げたり、あるいは給付期間を制限することを提唱する。国際比較では、スウェーデンの失業補償金はかなりの水準にある。この水準を批判する者は、失業者が失業補償金に頼っていられるかぎり職探しする意欲を感じないと考える。この理論が正しいと言えそうなのは、一部の諸国で失業補償金と失業水準との間に、この理論を支持する統計的な関連があるからである。

ところが、今回の3500人の失業者に関する研究は、この理論に異議を唱える。この研究は、あらゆる部類の失業者が失業補償金の水準に関係なく、新しい仕事を探す意欲が強いことを示す。つまり、失業補償金の水準をもっと引き下げれば、求職意欲をもたらす可能性があるという説は事実と適合していない。同研究によれば、全失業者のうち93%の人が仕事に就くことは非常に重要だと考え、81%の人が失業補償に頼って人並みの生活をしていようとも失業は嫌だとし、77%の人が労働は人生で最も重要なことだと考えている。3500人に対する面接調査では、仕事を見付けようとする意欲は、失業体験が短い人も長い人も共に強かった。ほとんど全てが失業者からなる社会的ネットワークに属する不況地域に住んでいる人に対する面接調査でも、84%の人は収入が得られる雇用先を見つけることが人生の最重要事だとしている一方で、他のネットワークに属する人のうち同じように考える人は72%に止まっている。

福祉に頼って「快適に」暮らしている失業移民(大半は難民)は、スウェーデンや他の北欧諸国の労働者よりもっと強く失業を嫌っているという結果も得られた。教育水準も求職意欲に関係ない。義務教育しか受けていない人も高等教育を受けた失業者と同じように職探しには熱心だからである。若者は年配者よりさらに熱心である。この研究の結論は、失業の原因を求職意欲の欠如に求めるよりは、別の理由を探した方がいいということである。むしろ、失業者に新しい職能を身につけさせ、失業者に雇用の機会を与えることが必要とされている。

1999年8月 スウェーデンの記事一覧

関連情報