職場関係省長官が労使関係改革案を提示

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年8月

政府は1999年5月に「The Continuing Reform of Workplace Relations:Implementation of More Jobs, Better Pay」という文書を公表した。政府は総選挙の際の公約の1つに労使関係改革を掲げており、今回の文書でその具体策が示されることとなった。ただ、ここで注意すべきなのは、この文書があくまでも政府案であるという点である。この政府案が上院を通過するためには民主党の合意を取り付けなければならず、その過程でかなりの修正が行われることになろう。以下では政府案の骨子について説明したい。

オーストラリア労使関係委員会の役割

政府案は労使関係委員会の役割と活動をさらに制限することを提案している。第1に政府は同委員会の名称を「オーストラリア職場関係委員会」に変更するよう求めている。「労使関係」という言葉を排除することは、非常に象徴的な意味を持つことになろう。

また現在は終身である同委員会の委員の任期を7年間とすることも提案されている。さらに、同委員会は強制仲裁権限を失うことになる。また委員会の仲裁権限はアワード対象項目である16事項に限り行使することができる。他の事項については、民間の仲裁人が処理にあたる。使用者と労働者は、その利用にあたり料金を負担することになる。労使当事者は委員会による調停・仲裁を選択することも可能であるが、その際にも応分の負担が求められる。

不利益審査について

現行法では、アワードからオーストラリア職場合意(AWAs)や認証協定に移行する際には、「不利益審査」の要件が満たされねばならない。不利益審査とは、職場合意や認証協定が従前のアワードに比べ労働者に不利になってはならないというものである。現行法では職場合意等を審査する雇用援護官(Employment Advocate)がその疑いを持った場合、当該事案を労使関係委員会に付託しなければならないことになっている。政府案は、この手続を廃止し、その代わりに雇用援護官に対し当事者に再考を求める権限を与えるとしている。このことは事実上不利益審査の廃止を意味する。

スト禁止規定

職場関係法のストライキ禁止規定強化も盛り込まれている。第1にストライキにあたり秘密投票の実施を課し、さらにその費用の20%を労組に負担させることが提案されている。また、労組幹部は、組合員による要請文書がない限り職場への立入が禁止される。

第2に現行法では、使用者が労働者の職場復帰を求める際にはまず労使関係委員会による職場復帰命令を申請し、それが労働者により拒否されて初めて裁判所による差し止め命令を求めることができるようになっている。これらの手続きがあまりに煩雑であると批判されており、政府案は申請から48時間以内に職場復帰命令を出すよう求めている。第3に、これらの命令を実行する権限は連邦裁判所から州最高裁判所に移される(連邦裁判所は労組寄りと見られているため)。

アワード簡素化

アワードに定められる事項は現在20項目に限定されているが、政府案はさらに16項目まで減らすことを求めている。退職年金や長期勤続休暇、陪審公務、労組による訓練といった事項が除かれる。

これ以外に、不当解雇禁止規定や若年者の賃金率等に関しいくつかの提案が示されている。

オーストラリア商業産業連盟(ACCI)は今回の政府案は不十分であると非難している。これに対しオーストラリア労働組合評議会(ACTU)は、今後の進展如何によっては全国ストも辞さない構えを見せている。ただし、上院の議員構成を考慮すると、政府提案の多くは実現が難しいと見られている。

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