最低賃金法、施行される

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

1998年7月31日に成立した最低賃金法が4月1日から施行された。地域、業種、企業規模によらない全国一律の最低賃金が導入されるのは英国では初めて。約200万人の労働者が直接の恩恵を受ける。

最低賃金額は時給3.60ポンド。ただし、18~21歳までの若年労働者は同3ポンド、また22歳以上で採用後6カ月の間一定の訓練を受けている者は3.2ポンドとなっている。

最低賃金の導入を準備してきた低賃金委員会の推計によると、労働力人口(18歳以上)の8.3%にあたる200万人の労働者が直接の恩恵を受ける。また、130万人の女性労働者(パートタイム労働力の20%)、20万人以上の若年労働者(18~21歳)が恩恵を受けると推定されている。

業種別に見ると、接客業(hospitality sector)で29万5000人、小売業で30万人、警備・清掃業で10万人、保育業で10万人、ケア・ワーカーの8万人などが恩恵を受ける。

最低賃金が全国一律であるだけに、その経済への影響について議論が再然している。低賃金委員会のジョージ・ベイン委員長は失業への悪影響はわずかであるとし、また最も悲観的な見解でも今後2~3年の間に8万職(全労働人口のわずか0.3%)が失なわれるにすぎない(経済コンサルタント、ビジネス・ストラテジーズ)。事実、最低賃金導入への対応策として企業が人員削減に乗り出そうとしている兆候は今のところほとんど見られない。

むしろ、最低賃金の影響が大きい業種の一部で過去数年間に雇用が増大してさえいる。例えば、サービス部門の雇用増加分(ほぼ39万人)は製造業の雇用減少分(約14万人)を上回っている。パートタイム労働者は17万5000人増大しており、卸し売り業・ホテル業・レストラン業でも新たに10万人が雇用されている。

インフレーションへの影響については、低賃金委員会は一時的かつわずかなものと見ており、イングランド銀行の予測と一致している。同行によると、今後2年間のインフレ上昇率は0.4%で、総賃金額も0.6%上昇するにすぎない。影響が限定的と考えられている理由として、最賃額がそもそも控え目に設定されたことが挙げられている。

経済への影響が楽観視されている一方で、同法施行の徹底について一部労組が懸念を表明している。同法の所管庁は内国歳入庁で、同監督官は違反を発見した場合、当該企業の関連書類を閲覧することができるほか、執行命令が無視された場合、最高5000ポンドの罰金を課すことができる。

ところが、労組幹部はこの罰金額が使用者に対する抑止力としては低すぎ、また2万もの職場に対して監督官はわずか115人しかいないと人員不足を指摘している。低賃金委員会は独立した施行機関を新設することを要求していたが、政府はこれを拒否した。

さらに同委員会は、同法が適用される労働者の給与明細書にその旨を明記することを望んでいたが、これも政府が却下したため、多くの労働者が自らの権利を知らないままでいる恐れがある。同委員会は引き続き施行動向を監視し、12月にその進展状況について首相に報告することになっているが、同委員会には企業や従業員からの具体的な問い合わせに応じる権限は与えられていない。

最低賃金制度の成功が使用者の態度如何によることは、ベイン委員長も認めている。しかし、労組や雇用問題の専門家は、一部企業が既に最低賃金を回避する手だてを探りあてていると見ている。従業員が自営業者であるかのように粉飾したり、従業員に現金を支払ったり、基本時給の計算にボーナスや交代手当を組み入れるなど様々な手法が講じられている。また、最低賃金を支払ってはいるものの、制服費用など他の費用を従業員に負担させる企業の存在も報じられている。

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