連邦労裁、労働協約強化の判決で波紋

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

労働協約法が施行後50年を迎えて、戦後ドイツ社会の安定に貢献したことが評価される反面、IGメタルの1999年賃上げ交渉手法を巡って、労働協約運用方法の改革を巡る最近の議論が注目度を高めている。このような中で4月20日、労働協約の事業所協定に対する優位を強化する判決が連邦労働裁判所で出され、今後の労使関係に対する実際的影響という面でも注目されている。

事案はは4つのケースに関するが、その中心は以下の通りである。

使用者団体に所属する出版会社ブルダ社の印刷所がその経営協議会と、従業員に2000年末までの雇用保障を与え、それと引き換えに労働協約で定められた週35時間の労働時間よりも長い週39時間の労働時間を定め、超過する4時間のうち2時間に対してのみ支払いを行うという内容の事業所協定を締結した。そして、これと同じ内容の契約が、同社と95%を超える従業員の間に締結された。そこで印刷労組が、事業所協定が労働協約に違反することを理由に、ブルダ社に対して訴えを提起したのが本件である。

経営組織法77条3項、労働協約法4条によれば、賃金・労働時間等労働協約の所管事項は事業所協定で従業員に不利に定めることはできず(労働協約優位の原則)、これをなし得るのは労働協約の開放条項の活用等によってである。したがって本件では、開放条項等によらない労働協約違反の事業所協定が企業と経営協議会によって締結され、企業がこの事業所協定に基づいて個々の従業員と契約を締結した場合、労働協約当事者たる労働組合が協約違反に対して企業に訴えを提起できるかどうかが争点となった。

前審では、事業所協定の労働協約違反を理由に企業に対して訴えを提起できるのは、その協定に基づく契約の当事者たる従業員で、労働組合にはこの権限はないとして印刷労組が敗訴した。これに対して連邦労裁は前審判断を覆し、協約自治の侵害を理由に同労組にこの訴えの権限を認める逆転勝訴判決を下した。

この判決に対して早速労使双方はコメントを発表し、双方ともこの判決に基づいてさらに立法的解決が図られるべきだと要望した。まず使用者側では、ラインハルト・ギョーナー使用者連盟(BDA)執行部代表が、判決では、従業員に不利に定めてはならない(有利原則)との判断にあたり、労働時間のみが考慮され、雇用の保障が考慮されなかったのは遺憾であるとし、経営組織法の改正では有利原則の判断に雇用保障の側面も加えるべきであるとした。他方、労働側では、エンゲレン・ケーフェー労働総同盟(DGB)副会長が、個々の従業員が労働協約違反を理由に企業を訴える場合には解雇のリスクを大きく背負うことになるから、労働組合が一般的に企業に対して訴える権限が立法的に認められるべきであるとした。

この判決の実際的影響としては、次のことが指摘されている。まず企業としては、雇用を削減せず(雇用保障)、立地を国外に移転しないために、労働協約よりも従業員に不利な内容の事業所協定を締結することはこれまでも行われてきたが、労働組合の提訴が認められることでこれが封じられ、国外移転の問題もさらに現実味を帯びる可能性がある。次に、これを避けるためには開放条項の活用による協約運用の弾力化が必要だが、1999年のIGメタルの賃上げ闘争ではこの弾力的運用が否定され、業界一律の高い妥結額で終結を見、他の労組にも影響が及んでいる。このような状況から、この判決によって、労働協約の拘束を受けない団体(OT-Verbande)を設立する、かねてからの使用者側の議論が新たに勢いを得る可能性がある。さらに、労働協約の拘束を避けるための企業の使用者団体離れの傾向が、さらに促進される可能性も指摘されている。

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