職業編入計画の法的枠組み

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年6月

職業訓練基金

1993年7月19日法律236号の第9条は、職業訓練のための措置について定めている。同条によると、州および自治県は、全国レベルで最も代表的な労働組合と使用者団体との協定を実施するために設立された労使二者構成の機関との間で、協定を締結することができる。その際には、職業訓練基金からの資金提供を受けることができる。

この法律は、さらに、労働・社会保障大臣が、200億リラの範囲で、州雇用委員会の同意を得た上で、特別所得保障金庫の適用対象の労働者や移動労働者リストに登録されている者に対する情報提供や相談のサービスを行うための資金の拠出を行うことができると定めている。このようなサービスは、これらの者の就業(自営業や協同組合での労働も含む)を促進し、同時に労働の需給のマッチを促進することを目的とするものである。もちろん、このようなサービスを実施する上では、労働組合と使用者団体との間で締結された内容の実現が優先されることになる。

労働・社会保障大臣、州および自治県は、職業訓練の実施機関に対して、継続的訓練措置、再訓練措置などについての資金提供をすることができる。たとえば、このような資金提供の対象となる措置としては、(1)特別所得保障金庫の適用を受けている企業で就労する労働者に対する継続的訓練措置、(2)その業務コストの20%以上を投入して行われる従業員の再訓練措置、(3)企業または企業グループ、労働組合(事業所レベルのものを含む)その他の労働者団体、職業訓練を目的とする労使機関などが協同で行う、移動労働者リストに登録されている労働者のための職業訓練措置などがあげられる。

基金の助成対象の範囲

いかなる職業訓練であってもこれらの助成措置を享受することができるというわけではない。法律は基金を活用することができる対象範囲について明示的に定めている。具体的には、次のものが対象範囲に該当する。

a)鉄鋼業の再建措置に関する1989年の法律181号により修正付きで法律に転換された1989年の法律命令181号で定められた地域

b)1977年の大統領令616号の36条2項で規定されたところにしたがい、労働の需給の著しい不均衡がみられる地域。この地域については、州雇用委員会の提案に基づき、かつ EC 委員会との協定に基づき、労働・社会保障大臣が確認を行うものとされている。

c)特に深刻な危機に見舞われている地域または構造的危機に見舞われている部門で、それにより雇用の水準に著しい影響が及んでいるもの(具体的な範囲の特定は、特定の部門ごとに定められている現行法上の基準に基づいて行われる)。

d)経済発展が遅れていたり、経済不況である地域

e)事業の再構築や転換、ないし脱工業化を進めている地域

f)社会面、経済面、環境面で深刻な衰退状況にある地域、また歴史的・美術的財産の活用・保護が行われている地域

もちろん、どの訓練措置も雇用の増大を目的とするものであり、使用者・事業者に対して、フルタイムの雇用労働者を増大させるようなインセンティブを付与することを定めている。また、これらの措置は、継続性・効率性という特徴を備えたものでなければならない(公的に有用な事業、サービス産業、国民経済面で有用な建築などの事業で行われるものも同様である)。

職業編入計画

これまで職業編入計画に関連する分野で出されてきた法律は、職業訓練プロジェクトの内容を少しずつ定めながら発展してきた。1994年7月19日法律451号は、1994年から2年計画で、求職中の若年者のための職業編入計画のプロジェクトという制度を導入した。この計画では、職業訓練の期間や高い専門性のある職種での労働実務を経験させるということが定められる。

このような新しい試みは様々な目的をもっているが、まず第一に、若年者に対して労働の現場についての理解を深めさせることにより、職業選択の幅を広げるということ、第二に、一定期間、高度の職業訓練を受けさせるということである。さらに、雇用を創出しようとすることも重要な目的としてあげられる。職業編入計画は以上の目的を持っているため、新しい労働政策であるというだけでなく、しばしばヤミ労働の新たな適法化された形態であるとも見られている。

職業編入計画のプロジェクトは、18歳以上32歳以下の若年者を対象とする。職業紹介リストの第1等級に24カ月以上登録されている失業者の場合には、35歳以下の者まで対象者に含まれる。

職業編入計画は、次のプロジェクトをとおして実施される。

  • 社会的有用事業の遂行、基礎的教育、中卒資格を持つ者の能力向上、高卒資格を持つ若年者の訓練を目的とする訓練活動への参加を定めるプロジェクト。これらのプロジェクトの大部分は、関係する機関との間の合意に基づいてその内容を定め、かつ実行されなければならない。
  • 訓練期間を定めて、高い専門性を持つ職種について労働実務を経験させることを定めるプロジェクト。これは、使用者団体または職業団体が、雇用委員会との協定に基づいて企画する。このようなプロジェクトについては、労働・社会保障省は、その労働実務が行われる企業等で、同様のプロジェクトで利用されている若年者の60%以上を採用した実績がないところに対しては、この制度を用いて働かせることのできる者の人数をその企業等の従業員数比で制限を設ける。

若年者の企業での労働実務訓練への参加は最大12カ月間で、毎月80時間を超えることはできない。その労働に対しては、1時間につき7500リラが当該若年者に支払われる。

実務訓練の費用は、労働・社会保障省が1993年の法律236号で定められた雇用基金をとおして負担する。その支払は、労働・完全雇用県事務所が行う。実務訓練以外の訓練時間についての費用は、労働・社会保障省と労働実務が行われた企業等との間で、事前の合意で定められた方法で公平に分担する。

このプロジェクトにおける重要なポイントは、若年者を利用する場合、労働関係は成立しないという点である。労働関係が成立しない以上、これらの若年者は労働実務に従事していたとしても、職業紹介リストから抹消されることがないし、実務訓練の後、使用者が同じ職種に関して、当該若年者を訓練労働契約で雇い入れることが排除されることもない。

これらのプロジェクトでは、労務の遂行に関連する労災や職業病に対する保険についても定められなければならない。このような保険は当該若年者を利用する企業等が負担することになる。

若年者の配属は、州雇用委員会が定める基準に基づき、地区雇用局により行われる。その際には、家族の負担、年齢、居住場所について考慮されることがある。

次に、1996年11月28日法律608号は、失業率の高い地域における職業編入計画を規制している。労働・社会保障省は、雇用創出の要請に基づき、当該地域の状況というような特別な事情も考慮した上での措置をとることができる。さらに、この法律では、職業編入計画に関する協定は、1998年内に締結されなければならないと定められていた。

州間での移動

1998年3月20日法律52号で法律に転換された1998年1月20日法律命令4号は、工業部門の企業に編入されたばかりの若年者すべてに対して、州間移動の手続を創設している。同法1条6項により、EEC 規則(1993年の2081号)の定める州に居住する者に対して、その居住する州とは異なる州で職業編入計画に関連する業務を遂行する可能性が定められた(ただし、工業部門の企業に限定される)。

ただし、これらの措置を利用するためには、当該州の団体を通して、若年者の出身地域の団体または地方公共団体との間の共同関係についてあらかじめ合意がなされていなければならない。このような共同関係の最終的な目的は、言うまでもなく、経済発展を促進することである。

この場合、当該若年者に対しては、毎月80万リラの追加手当が支払われる。これは、職業編入計画の期間における食費や宿泊費という名目で支払われるもので、雇用基金が負担する。さらに、利用企業が負担する20万リラの手当も支払われる。

政府は、これらの活動の成果について、議会の所轄の委員会に報告をしなければならない。また、1998年に開始される職業編入計画は、1999年の間に完了させることができる。

以上の新しい規定は、団体間での個別の事前の協定を要すると定めていたことから、実務上は、著しい解釈・適用上の困難を引き起こした。しかし、州間での若年者の移動は、もしこれが成功すれば、若年者のための労働を社会的な問題としてとらえていくうえでの重要な契機となるであろうし、若年者自身がその労働に対するより強い責任感を持つことをも可能とさせるであろう。

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