社会経済状況

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年6月

ブラジル地理統計資料院(IBGE)は、1997年に行なった抽出見本調査を、1999年3月に発表した。新聞はこの調査結果を「様々な矛盾と問題を抱えながら発展していく国」と評価している。一口に言えば所得配分が非常に不均衡な、社会正義を欠く国であり、男性の平均寿命を下げるまでに殺人が増加するほど犯罪多発となったこと、その中で国民の社会条件はかなり好転していることを示している。調査結果の要点は次のようになっている。

  • a)所得配分の不均衡

    1997年の国内給料生活者の平均給料は最低給料の4.3倍であるが、南東部の5.2倍に対して、東北は2.5倍と、南東部の半分以下である。同年の経済活動人口は7500万人、総人口に対する活動人口率は男性73.9%、女性は47.2%と女性はまだ低率だが、女性の就労率は年々増加している。所得の構造はほとんどが変化なく、国民の40%を占める貧困層の所得に対し、10%を占めるトップの裕福層は、約21倍の収入を上げている。
  • b)未成年労

    10~14歳は児童としての義務教育年齢で、労働を禁止されているが、この年齢層の16.9%が労働に従事している。特に貧困地帯である東北に多いが、教育水準が高い南部でも、家族労働の伝統が残っていて、就労させている家庭がかなりある。
  • c)高齢化社会

    60歳以上の人口は全体の8.7%に当たる1350万人となり、高齢人口数では世界有数となった。先進国では60歳以上の率はもっと高いが、総人口ではブラジルの方が欧州諸国より多い。ブラジルは近年出生率が毎年減少しており、IBGE の試算によると、2020年に60歳以上の人口は現在の2倍の2700万人となり、社会保障、医療保護などの制度を根本から変更する必要が生じる。
  • d)出生率

    1970年代にブラジル人女性は1人当り平均5.76人の子供を生んでいたが、1996年には2.24人に減少した。また、教育水準の高い女性ほど出生が少なく、学歴が低い女性は出生率が高い。初等科以下の学歴の女性の平均子供所有は3.4人、中等科以上の学歴の女性の平均は1.7人となっている。また東北は平均3人、最も開発が進んだ南東は2人となっている。
  • e)幼児死亡率

    1980年代には1000人の出生のうち平均12.75人の幼児が、生後1年以内に死亡していたが、1996年には37人に減った。しかし、地域格差が大きく、東北の州の幼児死亡率は70人であり、貧困地帯と、低額所得層に死亡が多い。貧困層には医療保護、衛生面の不備があり、幼児死亡率を高くしている。
  • f)平均寿命

    1996年の平均寿命は67歳8カ月であるが、女性は71歳7カ月、男性は64歳6カ月と、全国平均と大差はない。その理由の一つとしてIBGEでは都市で増加している殺人が男性により多くの犠牲者を出しているからだとしている。IBGEの集計によると、殺人の増加でブラジル人の男性の平均寿命は2年6カ月縮まった。南東部の大都市の殺人増加の為に、南東部の男性平均寿命は3年6カ月縮まった。殺人は19~25歳クラスが最も多く、平均寿命を下げている。1996年の男性の殺人は女性の12倍である。ブラジルで最も殺人が多いリオ州では殺人の79.5%が15~19歳であり、19~29歳では、人口1000人当りの女性の殺人が13人に対し男性は215人となっている。
  • g)就学率増加

    7~14歳の義務教育年齢にある児童の就学率は、1990年に92.9%であったものが、1996年は94.5%になった。しかし14歳になると76.6%が落第経験者である。7歳で22.8%、10歳で57.8%と、年齢が進むにつれて落第率は高くなっていく。こうして落第が増加するに従い学校から遠ざかるので、ブラジル人の10歳以上の経済活動人口の平均学歴は5.4年となっている。年々学歴を要求される労働市場では通用しない労働力が増加して行く。
  • h)人種、地域、所得別学歴

    人種別の就学率の差は大きく、10歳以上の白人の平均学歴は6年であるが、黒人と褐色は約4年である。また東北の貧困家庭の就学率は76~87%の水準だが、南東では貧困層でも90%以上である。

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