「ワーク・シェアリング」と「ジョブ・シェアリング」

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

「ワーク・シェアリング」が雇用者数の増加を目的とする一方で、「ジョブ・シェアリング」は労働時間短縮に関する個別の必要性を満たす制度である。現在研究者はジョブ・シェアリングの雇用効果について研究している。

ジョブ・シェアリングは、労働生活における柔軟性や、労働者の生活時間に対するコントロール権を増加させる興味深い方法として考案されてきたようである。この主張は、パートタイムで働く権利を高めるために利用されている主張と一致する。スウェーデンの労働組合がジョブ・シェアリングに否定的な態度をとっているのは、フルタイム雇用を増やすために必要な経済政策をとろうとしない政治家が主張する便法だと考えているからである。大量失業を抱えている国々のジョブ・シェアリングは、経営側の条件に左右されるパート・タイム雇用を増やす危険性をはらんでいる。

スウェーデンには、雇用を増やすために労働時間を短縮するというワーク・シェアリングの考え方はない。というのは、まず第一に、フルタイム雇用を求めるパートタイム労働者の要望が非常に強いこと、第二に労働者と労働組合は、所得低下につながるような労働時間短縮は受け入れられないし、また受け入れる積もりもないこと、第三に専門家であるエコノミストや労組、経営側は労働時間短縮が雇用の拡大につながらないだろうと主張している事などが挙げられる。

パートナーワーク

スウェーデンにおけるジョブ・シェアリングは、当事者である2人がいずれも相手方の仕事に責任を持つことを示すパートナー・ワークという言葉に置き換えられている。2人のうちどちらか一方が病気になれば、もう1人が全シフトを担当しなければならない。

ジョブ・シェアリングまたはパートナー・ワークはブルーカラー部門の労働協約では明記されておらず、どちらか一人が就労不能になったような場合など明らかにごく稀な場合に使用者と2人の労働者の間で口頭で特別に調整している程度である。

歴史的にみると、1966年のエンジニアリング産業の労働協約の注釈部分にジョブ・シェアリングという言葉を見いだすことができるが、当時は労働市場が逼迫していたので経営側が女性を採用するためにこのような方法を考えたのである。

1970年代にはイエーテボリにあるボルボ社も、製造ラインの反復作業に従事する労働者が不足したことに対応しジョブ・シェアリングを導入しようとした。1985年エンジニアリング産業の労働協約ではジョブ・シェアリングについて何も触れられていない。この他に金属産業では、製鉄所の天井クレーンを稼働させる業務が2人の女性により分担されていた。

このように製造業でのジョブ・シェアリングは、労働市場が逼迫しパートタイムで働ける女性を採用する必要性があった場合に限り、労組と使用者により受け入れられてきた。その直後に、労組はこうした考え方に反対し始めた。つまり公共保育施設の拡充や高失業率によってジョブ・シェアリングの必要がなくなったのである。

60歳以上の労働者の中には、製鉄所のシフト制労働などの仕事を分け合う者もいる。その最も一般的な方法は、2人がパートナーを組んで2週間ずつ交互に勤務するというものである。

女性がパートタイムの仕事を探していた1970年代末の公共サービス部門ではジョブ・シェアリングも人気があった。ただ1980年代になると、フルタイム雇用に対する需要が増え、現在では介護部門ではパートタイム雇用の需要もないため、ジョブシェアリングは見られない。

政府職員は半減休暇をとる権利があるので、1つの仕事をパートタイム労働者のように2人で分担することができる。

国際的な研究では小売業やホテル・レストラン産業でジョブ・シェアリングが一般的であると指摘されているが、スウェーデンの場合これらの産業ではパートタイム労働者が多く、ジョブ・シェアリングは見られない。

ジョブ・シェアリングは、ホワイトカラー労働者の間でかなり普及しているようである。例えば2人の小学校教諭が学級担任を「分担」したり、あるいは2人の既婚の医学生が教育過程の一部になっている「見習雇用」の仕事を分担する例もある。

現政権を支持する左翼党と環境保護党は、選挙運動期間中に週35時間労働制導入を求めていた。多くの国民はこれらの政党が社会民主党とこの問題を話し合うと予想していたが、結局は作業部会の発足と提言の提示に落ち着いた。おそらく今後4年間は法案化が行われないであろう。

ただ、団体交渉あるいは安全衛生監督官の職務強化、また増え続けている有給または無給の超過勤務問題のいずれにかよって、政府はこの問題に何らかの形で対応せざるを得ないものと思われる。

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