政府委員会が調停制度の強化を示唆
―Oberg委員会報告書研究側調査員

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

国家経済予知研究所(Konjunkturinstitutet)理事長に続いて労使関係王立委員会(The Oberg Commission)は、1998年11月30日に労使関係改革に関する最終報告書を提出した。この報告書に盛り込まれた諸提案は、ストライキ権の制限と労使関係における政府機能の強化を主な内容としている。

報告書の内容

報告書は次のようにまとめられる。すなわち、現行の調停局(Conciliation Bureau)を調停機関(Mediation Institute)に改組し、賃金決定の調整を行わせる。同機関は、賃金決定に関する利害関係を有すると判断した場合に労使当事者を招集する権限を持ち、また労働協約の有効期間を考慮して賃金交渉を促進することになる。現行規定ではストの事前通告がスト実施日の7日前とされているが、これを14日前に変更する。さらに同機関は労使紛争について2週間の冷却期間を設ける権限を持つ。常設の仲裁委員会が設立され、当事者は同委員会に問題を付託できる。

調停機関は、賃金統計や国外の賃金事情に関する年間レポートを発行するなどにより交渉当事者に情報を提供する。

スト権は制限されるべきであり、スト行為は経営側のコストに見合う程度にすべきである。家族経営企業はスト権規定の適用除外となり、同情ストも制限すべきである。

最後に王立委員会は、政府に対し労使当事者の理解を深めるために三者協議会の設立を提案した。

解説

現行の調停制度は、調停委員に対して労使当事者が合意に至るよう支援する以外の役割を与えていない。ただ産別協約交渉の際には、交渉を取りまとめる議長が冷却期間を設ける権限を持っている。今回の王立委員会提案は、団体交渉の当事者に対して責任と共に最大限の自由を与えている現行制度への政府の介入を意味する。同委員会が示唆したように、協約が平和的に締結され、またその結果がインフレを誘発しないという論拠はどこにもない。以前にもいくつかの政府委員会が似たような対策を提案していた。例えば、ニクラソン・レポート(ニクラソン氏はLO傘下の公務員労働組合の前会長で後に議長に任命された)があるが、そうした提案も法案化されずに終わっている。今回の王立委員会の報告書の発表は、「経済成長を目指す同盟(Alliance for Economic Growth)」に関する SAF、LO、TCO、SACO(注1)間の会談と同じ時期に行われた。

この会談では、税制やヨーロッパ通貨同盟(EMU)への加盟、労使関係制度(特にストライキ権、先任権制、臨時雇用者の雇用期間延長)などが課題として挙がっていた。労使双方の最高幹部は、1938年に締結されたサルチオバーデン協定(注2)を思い起させるような交渉結果を期待しているようである。

現時点において政府は、労使当事者が受け入れ可能な交渉結果を見いだせれば、法律改正を行うつもりがないと述べている。1938年と状況は異なり、ストはそれほど多くなく、パターンバーゲニングによる賃金交渉で賃上げ幅も合理的な範囲に落ち着いている。賃金インフレはなく、反対にここ数カ月間はデフレ傾向になっている。

製造業の場合は既に交渉制度に関する協定を持っており、1998年の賃金交渉もこの枠内でストもなくスムースに行われた。このことを前提にすると、同産業の労使当事者はこの分野での立法を望んでいないと思われる。

前述の「同盟」については、LOが賃金交渉から排除されないよう、もう1つの団体TCOを誘ったのではないかとの疑惑が浮上している。つまりTCOは賃金交渉において何の役割も果たしておらず、TCO傘下の最大労組 SIF(事務系職員労働組合)もTCOに何らかの役割を与える準備をしていない。公共部門やサービス部門の労組は、パターンバーゲニングにうまく対処してきたこともあり、これらのナショナルセンターの介入を望んでいない。

「経済成長を目指す同盟」は、税制やEMU加盟などについての共同声明を出すと予想されているが、一方で賃金決定や雇用保障に関する合意は実現されないと思われる。政府は共同声明を受け入れざるを得ないであろうが、労組の権限を制限する立法は政治的にみて実現可能性が低い。

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