財政危機悪化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

1998年末にはIMFと協定を結んで財政再建計画を実施していたにもかかわらず、1999年1月に入ると同時に財政状態は急激に悪化した。1999年末に国会に提出された公務員の社会保障分担金徴収案が否決されて、国際社会から、ブラジル政府は財政調整能力について疑問を持たれ始めた。現大統領と政治的に対立しているある州知事が、1月1日の就任と同時に、前任者が協定した連邦政府に対する負債支払いに90日間のモラトリアムを宣言して、IMFと協定した財政再建計画達成に疑問を抱かせたため、外資が一斉に引き揚げを開始して、一挙に危機感が盛り上がった。政府は金融市場の外資引き揚げを引き留めようと為替を9%切り下げたが、外資の流失は止まらず、翌日、自由為替制に移行して、3日間で21%以上の通貨下落を起こす切り下げとなった。

絶対に為替政策は変えないと発表していた政府は、国際金融支援をしてくれたIMFと米国政府に対し政策変更の理由を説明するため、蔵相と中央銀行総裁を急きょ派遣して収拾を図った。GDP の8%を超えた政府財政赤字対策として、外資の短期資金に大きく依存している危険な体質と、政府部門の改革困難、インフレを国内通貨の人為的な価値維持と高金利で抑えてきた政策が、年初からほころびた形となった。一方、3日間で21%以上の為替切り下げが起ったことは、これまで維持された人為的な為替水準が正常な価値へ戻ろうとする反動だと評価されており、市場は安定に向けて模索していくと予想されている。

しかし、国際金融界は警戒の目で見るようになっている。1999年の国際収支の赤字対策だけでも590億ドル必要と計算されている金額を借り入れできるのか、IMFとの協定を履行するための基本的条件である財政調整を実現できるのかといった疑問には誰も回答を出せない。大幅な為替切り下げは当然物価上昇につながる。

リセッション傾向の中でインフレが再発すると、国民の苦難は一段とひどくなる。大統領は混乱に便乗した値上げが起きないように、値上げの兆しが見えれば輸入関税を下げて、安価な輸入品で物価を抑えると警告した。これは為替自由化と同時に、輸入部品を使う工業の一部が、国内の価格表を提示する際、ドル建てに変更し始めたことに対して発言したもので、商業も、国内通貨に不信感をあらわにした工業経営者の態度を批判している。

政府は諸悪の原因だと指摘されている財政赤字に対して対策を打ち出す意欲を示して、国際社会に対するイメージ回復を図ろうと、国会に改めて公務員の社会保障分担金義務案を提出し、条件に大幅な譲歩を行った後、ようやく成立させた。これにより、外国の評価は変わると期待している。しかし、政府案への賛成投票を行う代わりに、各議員が自分の選挙区の議員個人のプロジェクトに政府資金を支出させようとする昔からの習慣は変わっておらず、これで改革が可能だろうかという疑問を抱かせる。

国際社会も国内のエコノミストも、今後ブラジルの非常な苦難を予想しており、為替自由化直後に世論調査会社がサンパウロ市で行った世論調査でも、76%は失業増加を予想し、61%はインフレ再来を予想している。しかし、33%は今後の政府は良好または最良の行政を続けると期待しており、33%は普通の政権と期待し、28%は悪いまたは最悪の行政と予想している。また、レアル計画は49%が最良または良好、31%は普通、20%は悪いまたは最悪と評価した。現政権の採点は10点満点で5.1ポイント、大統領個人の評価は良好、最良が25%、普通42%、悪い、最悪は31%である。

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