合弁企業の100%外資企業への転換

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

計画投資省(MPI)は1998年11月上旬、100%外国投資企業の設立を引き続き認可していくとの方針を示した。この方針に沿って100%外国投資企業が生まれており、政府は新規外国投資が増加することを期待している。

P&G問題

外資比率の引き上げが注目されたきっかけは、1997年秋に始まった P&G 社の合弁P&GVN社における出資比率引き上げ要求であった。P&G 社は、赤字経営を理由にベトナム合弁パートナーのフォンドン社に追加投資を求めたが、資金力に乏しいフォンドン社は要求を拒否した。このため、P&G社は100%外資転換を求めたが、MPI はこの要求を受け付けなかった。ところが1998年、シティバンクが赤字企業P&GVN社との取引を停止したため、P&G社は「撤退か100%外資か」の選択をベトナム側に迫った。1998年初めには P&G 問題はベトナム・アメリカ合衆国政府間でも取り上げられたと見られ、同年3月、P&GVN 社の資本金3700万ドルから8300万ドルへの引き上げと、P&G 側出資比率を70%から93%にすることで決着した。一方、フォンドン社は7%の出資比率で、経営管理会議における実質的な拒否権を確保した。このときベトナムが P&G 問題で強硬姿勢を取らなかった背景には、1997年の外国投資減少が1998年に明らかになり、さらに米国との関係正常化もようやく軌道に乗る兆しが見えてきたことがある。とりわけ、ベトナムの1997年の輸出の6割がアジア経済危機の影響を受けた国々に向けたものであるため、米国の関税率の引き下げによる米国への輸出拡大にかける期待は大きい。現在、米国から最恵国待遇を得ている国が4%未満の関税を課せられるのに比べ、最恵国待遇がないベトナムは50%にも達する関税をかけられている。

急増する100%外資企業

1998年11月上旬、コカ・コーラ社はホーチミン市の合弁企業を完全に支配する許可を取得し、ベトナム合弁パートナーChuong Duong社から株を買い取った。Chuong Duong社が、コカ・コーラ社のマーケティング・宣伝戦術を拒否したため、同合弁企業は巨額の赤字を出していた。コカ・コーラ社の大々的な宣伝は、市場占有率を高めるための世界的戦術の一環とされるが、資本力のないChuong Duong社には宣伝費を支払うことができなかった。これに先立ち、米国ヘルスケア用品のコルゲート・パーモリブ(Palmolive)社にも、MPI から資本金1000万ドルの合弁企業の100%支配が許可されている。MPIによると、ホーチミン市にある同社の資本金は4000万ドルに引き上げられるが、製品の80%を輸出するように義務づけられている。

上記 P&GVN 社の件でも、売上げの35%に相当する宣伝費をめぐってベトナム側パートナーとの対立があったが、資本として土地しか持っていないベトナム側ができることはマーケティング・宣伝戦術を拒否することくらいしかない。そこで外資は100%支配に転じ、経営権を完全に確保することに努めるのである。この点について、100%外資転換した外国投資企業の、かつてのベトナム側合弁企業パートナーはインタビューで、ハイテク産業ではベトナム側が大きく劣っているとは思えないので合弁も有益だろうが、(マーケティング・宣伝などが極めて重要な役割を果たす)家庭用品・消費財産業では、ベトナム側と多国籍企業との合弁は成功しないであろうとの見解を示している。その理由は、ベトナム経営者は資本が不足しているため、すぐに収益が上がる事業にしか投資できないが、多国籍企業は市場占有率を高め、ブランド・ネームを確立するために巨額の先行投資をして宣伝・マーケティングにあたり、5~10年後から利益を上げることも多いからだという。なお、ペプシ・コーラ社が参加している合弁企業IBC社も1997年までは黒字だったが、1998年にコカ・コーラと激しい価格競争をしたため赤字に転じ、ペプシ社は、同合弁に30%出資していた外国パートナーの Macondray 社から株を買い取り、支配的な株主になっている。

サイゴンタイムス(1月23日)は、21の100%外国投資企業の名を掲げているが、この他にも100%外国投資企業がある模様である。なお、P&GVNは外国企業が支配的な株主である企業とされている。

エネルギー・通信・自動車製造などの産業では、外国投資企業はベトナム企業をパートナーにした合弁企業として活動することが必要である。しかし100%外資が容認される産業は年々拡大している。ただし、ある弁護士によると、外国投資企業にとって100%所有を目指すことが常に最適であるとも言えない。例えば、ベトナム側のパートナーなしでは各種の認可を得にくい産業もあり、ベトナム側パートナーと組むことにより、既存の販売網を利用できたり、労使紛争を回避できるといった利点もあるためである。

100%外資転換は、どのような新しい問題をベトナムに提起しているのだろうか。外国投資企業部門には雇用の拡大に果たす役割が期待されているが、国内の弱小企業に対する影響も無視できない。事実、1996年から1997年にかけて、国内の洗剤製造企業から外資企業の宣伝・マーケティング活動に対する批判が高まり、宣伝活動費のない国内企業の市場を奪っているとされていた。さらに、100%外国投資企業での労働条件をどのように把握するかという課題も残されている。最近、ベトナム労働総同盟(VGCL)が外国投資企業部門での組織化に力を入れ、労働・傷病兵・社会問題省が外国投資企業での雇用条件や採用を把握するための施行細則を出している背景の一つに、外国投資企業における外資支配の強化があると思われる。

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