基礎情報:ブラジル(2005年)

基礎データ

  • 国名:ブラジル連邦共和国 (Federative Republic of Brazil)
  • 人口:1億8420万人 (2005年12月)
  • 実質GDP成長率:2.3% (2005年)
  • GDP:7,963億米ドル (2005年)
  • 一人あたりGDP:4,323米ドル (2005年)
  • 労働力人口:8,880万人 (2003年)
  • 就業者数:8,016万人 (2003年)
  • 失業率:9.8% (2005年)

資料出所:ブラジル地理統計資料院(IBGE)、ILO(LABORSTA)

I.労働関係の主な動き

1.概況

2003年1月1日大統領に就任したルーラ率いる労働党政権は、その就任と同時に過激な政策を打ち出すのではないかという不安感と、労働党の長年公約していた労働者の地位の向上が実現するのではないかという期待感とが交錯する中でスタートを切った。就任当初は、労働党の主張であった外債支払い停止、IMFとの断交、グローバル化反対、労働者の権利拡大といった課題に、労働党政権がどのように取り組むのかという様子見の姿勢が支配し、企業は投資をほぼ全面的にストップ、ブラジルは国際市場から隔絶された状態となった。このため2003年のGDPはプラス0.5%と低迷した。2004年のGDPは前年の反動からプラス4.9%に戻ったが、これは前年の落ち込みに対しての成長であり、2002年の水準にも戻っていない。2005年も2003年の落ち込みからの反動の年であり、年前半のGDPはプラスとなったが、最終四半期はマイナスに落ち込み、最終的に2005年のGDPは2.3%となった。労働党政権は「安定的高度成長期に入った」と発表しているが、エコノミストや企業家は、GDPの激しい変動に不安感を抱いている。

2.政治経済の動向

2005年は年初から政府の不正汚職告発がなされ、3月以降は労働党幹部の総辞任やルーラ大統領側近の政府高官たちが多数辞任に追い込まれるという事態が続いた。政府は国民のための政治よりも政治対策に追われた。国会では法案審議は放置され、2006年10月の総選挙をにらみ、多数の不正調査委員会が設置され、調査が開始された。

しかしながら、国会の不正汚職調査は2005年3月から開始されながら、調査自体が政府と与野党間の政治的な取引きや攻撃材料に利用されているために、2006年2月を過ぎても、何一つ結論は出ていない。このまま行くと政治混乱のまま総選挙を迎えるということになるが、こうしたことに慣れている経済界では、政治混乱が与える経済への影響は限定的という見方が大勢のようだ。

3.労働市場の動向

ブラジル地理統計資料院(IBGE)によると、2005年末のブラジルの人口は前年度比で1.4%増加し、1億8420万人となった。(注1)また、労働力人口の公式デ-タ(6大州都圏対象)では、2005年6月現在2188万5000人、失業率(6大州都圏対象)は年間平均9.8%となった。一方、中央労組の研究機関DIEESEは、サンパウロ州都圏の2005年の平均失業率は16.9%と発表している。

また、IBGEの調査による2005年の労働力率は56.6%であり、2003年の55.4%、2004年の56.3%と、若干ずつ上昇を示している。労働省の発表では2005年の雇用増加数は125万4000人となり、2003年の64万5000人、2004年の152万3000人と3年間で342万2000人の雇用増となったが、ルーラ大統領の公約だった任期3年での1000万人の雇用創出には届かなかった。また2002年以降は、女性の就労割合の増加が目立っている。2004年に男性の雇用は96万8000人、6.5%の増加であったが、女性は55万5000人、6.9%増加した。

4.総合労働法の改正問題

ブラジルの総合労働法は、全922条からなり、1943年5月1日に発令されたものである。制定以降長い年月が経過し時代の変遷に不相応な条文も出てきているため、抜本的な改正が必要といわれてきたが、歴代政権は労働法の改正に着手してこなかった。現労働党政権では、発足当初労働法改正を公約に掲げ、改正に強い意欲で取り組む姿勢をみせていた。

労働法はいわば労使の利害対立をコントロールするものである一方、政府がこの改正に取り組むと労使双方はそれぞれ権利の拡大と義務の軽減を主張するだけで、政府にとって政治的な利点はなく、政権運営が危なくなるだけだという思惑がある。こうした状況を背景にどの政権も根本的改革を放置してきたわけだが、労働党政権下においても実現の可能性は極めて難しくなっていると見られる。

5.労働組合法の改正問題

労働党政権は労働組合法改正も公約に掲げており、2004年5月同法改正案を国会に提出した。しかし前述のとおり2005年1月からの労働党政府及び与党による大規模な不正、汚職が発覚し、国会は法案審議よりも、政治工作に専念しているために、組合法改正案の審議も放置される状態となっている。

ブラジルの労働組合法では、労働省が組合設立を認可し、監督する規定となっている。正式登録された労働者は、1年に給料の1日分に当る納付金を給料から強制的に徴収され、連邦貯蓄銀行によって、単組へ60%、全国連合会へ5%、労働省へ20%、州連合会へ15%の割で配分される。この他、単組や連合会は独自の分担金を労働者から徴収できる仕組みとなっている。

このため、ブラジルには労働者を代表しない、単に納付金目当ての、名目だけの労組が無数に存在すると言われている。労働省は、これら「幽霊」組合を取り締まる機能を持っておらず、そのため政府と大手中央労組は、今次組合法改正案の中に、幽霊組合を根絶する規定を盛り込んでいた。

政府案立案のために政府は、企業団体、各中央労組代表、政府代表による委員会を設置して協議を行っていたが、労働党政権と直結している中央労組CUTの主張が多く採用され、他の中央労組の反感を買い、企業家団体は、労働者の組合ではなく、中央労組の権限だけを拡大しようとしているとの非難が高まった。

政府は、労働法よりも組合法の方が改正は容易であると考え、まず組合法の改正から着手してみたが、これも単に双方の権利主張に終始し、現政権の1期目中の改正の見通しは消えた。労働省によると登録された組合数は全国で1万8000に達し、さらに組合認可を要請している件数が8000件累積しており、2005年だけで254件が申請された。

6.年金問題

ブラジルは南米の中でもGDPに対する負債が特別に大きく、2005年末の連邦政府の負債はGDPの51.7%に相当する1兆レアル(約4348億ドル)を突破した。徐々に下げてはいるが標準金利も年19.1%と依然高い水準にあり、国債の平均償還期限を28カ月という短期債券で運用しているために、債務は短期間で増加していく構造になっている。
政府は2005年、GDPの4.84%に達するプライマリー黒字(注2)を出したと自賛したが、債務の金利支払いはGDPの8.1%に当る1571億4000万レアル(約683億ドル)に達しており、実際はGDPの3.3%に当る636億4000万レアル(約276億6957万ドル)の赤字となって、実質負債は増加する一方である。

国家予算の9割は、憲法による支出義務に拘束されており、財政均衡に向けて節約するためには憲法改正を要する。このため増税や投資を削減するなどの応急措置に留まっている。

社会保障支出は毎年赤字を更新している。中でも年金の支払いは国庫にとって時限爆弾と言われ、納付金と給付金の均衡は全く期待できない状態に陥っている。最大の問題は公務員が現役の時の給料と同等の金額を終生受け取る制度で、このため民間部門の納付金と年金交付に収支均衡はできても赤字は増大する構造になっている。

社会保障制度の中で年金と疾病扶助を行っている社会保障院の赤字が急速に拡大して、財政破綻を起こしているが、行政と立法は改革の必要性を主張するだけで、実際に着手はしていない。現在60歳以上の人口は総人口の8.8%であるが、年金支払いは人口の15%に対して行っている。重複受取りや不正受給が多い結果である。

社会保障院では、2005年の年金制度が、収入は前年より実質15.6%増加して1084億3000万レアル(約471億ドル)、支出は1460億1000万レアル(約635億ドル)となったことにより、375億7000万レアル(約163億ドル)の赤字になったと発表した。また、2006年は455億~460億レアル(約198億~200億ドル)の赤字になるとの予想を発表している。しかしこれは最低賃金を2006年5月1日から321レアル(約139ドル)へ引き上げた場合の試算であり、最低賃金がそれより高い水準に引き上げとなった場合、赤字幅は更に増加するものと見られている。

注:

参考:

  1. 海外委託調査員赤木数成
  2. ブラジル地理統計資料院(IBGE)
  3. ILO(LABORSTA)
  4. 1米ドル=114.87円(※みずほ銀行ホームページ2006年6月22日現在のレート参考)

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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ブラジル」

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