基礎情報:ブラジル(2004年)

基礎データ

  • 国名:ブラジル連邦共和国(Federative Republic of Brazil)
  • 人口:1億7400万人(2003年12月)
  • 経済成長率:0.54%(2003年)
  • GDP:4,930億米ドル(2003年)
  • 一人あたりGDP:2,818米ドル(2003年)
  • 労働力人口:7,649万7000人(2000年)
  • 就業者数:7,545万8000人(2003年)
  • 失業率:10.9%(2003年)

資料出所:厚生労働省「海外労働情勢報告2003~2004」、
外務省「各国・地域情勢」、
ブラジル地理統計資料院(IBGE)

I.2004年の動向

1.労働市場の主な動き

(1)概況

ブラジル地理統計資料院(IBGE)は、2003年のGDPをプラス0.54%と発表した。一方1人当たりGDPは、マイナス0.91%となり、1990年から2003年までに1人当たりGDPは7回のマイナスを記録している。GDPはプラスになっても、就労者の収入低下により、2003年は世帯消費がマイナス1.5%、生産投資も5.1%低下して、生産低迷、失業増加の年となった。そのために、GDPに就労者の収入が占める割合は、2002年の36.1%から2003年は35.6%へ下がっている反面、企業の利益、個人や企業の家賃収入、投資利益がGDPに占める割合は、同期に41.9%から43%へ増加して対照をなした。

2004年は5月になってから、失業率の上昇に鈍化傾向が見られ、就労者の所得低下速度も和らいだ結果、政府は2005年度について強気の予想を発表した。政府の予想では2005年に入ると失業率は1桁台にさがり、就労者の平均収入も回復期に入るとしている。

ブラジルは長期に亘って慢性的高率失業が継続している結果、就職を諦めて自営や街頭行商人、家事手伝いなどして一時凌ぎしている労働者が多く、実際は失業中でも、データに表れない潜在失業者を多く抱えている。経済が好転し就職チャンスが生じると、これら労働力がいっせいに就職運動を開始するために、企業の求人が好転しても、失業率が下がるまでには、相当の期間を要するというのが、労働市場研究者達の一致した見方である。

2004年前半から、経済活動回復傾向がみられたが、企業の遊休設備の稼働率が上昇しただけにとどまり、生産増加と同じ率の雇用増は起こっていない。また高い賃金の労働者を解雇して、低い賃金の労働者と交代させる労働力のローテ-ションも続行した結果、就労者の平均収入低下も続いている。

(2)人口

ブラジル地理統計資料院(IBGE)によると、2004年末に総人口は1億8,200万人に達する。2003年末の1億7,400万人から1.44%の増加。幼児死亡率と、女性1人当たりの子供の数が減少したことにより、次第に人口構造ピラミッドが変わっている。81年に5歳刻み人口構造では、0~4歳層が最も多かったが、86年には5~9歳層、92年には10~14歳と15~19歳層、2001年には15~19歳層が多くなった。2003年には15~19歳が最大であったが、割合は次第に減少して、2位の20~24歳層に近づいている。同時に60歳以上が次第に増加して、81年に6.4%だったものが93年は8.0%、2003年は9.6%となった。60歳以上の54.5%は女性であったものが、2003年は55.9%となった。

ブラジルの人口は1970年に9,300万人であり、この34年間のうちに約2倍に増加した。さらに、2050年には2億5,980万人に達すると予想されている。しかし、1960年より、毎年人口増加率は低下傾向を見せており、女性1人当たりの出生数の減少が始まっている。IBGEでは、2062年頃までに人口増加率は0になると見ている。平均寿命は1970年に45.5歳だったものが、2000年には70.4歳となり、2050年は81.3歳になると予想されている。国民の高齢化が進み、2000年には0~14歳グループが国民全体の30%、65歳以上が5%を占めていたものが、2050年になると、前後者共に約18%になる。また2000年に14歳までの児童100人に対し、65歳以上が18.3人であったものが、2050年には100対105.6人と、高齢者の方が多くなることが予想されている。

(3)失業率

IBGEの統計では、2003年に平均12.3%だった公式失業率は、2004年に10.6%へ下がった。2004年の輸出が好調であったこと、経済活動が前年比で回復したことが、失業減少の理由として指摘されている。政府は失業率を2005年には1桁に下げると発表しているが、2004年12月には9.6%へ下がっており、1桁への移行はすでにその兆候が見えている。しかし、失業率は下がっても、2004年12月に、6大首都圏だけで210万人の失業者が残っており、慢性大量失業時代は続いている。また、就労者の収入低下も回復していない。前年同月比では、2004年9月からプラスに転じているが、年間では2003年に比べて2004年は実質0.8%の低下となっている。

2004年の失業率と平均収入推移
(単位:%、レアル)
  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
失業率 11.70 12.00 12.80 13.10 12.20 11.70 11.20 11.40 10.90 10.50 10.60 9.60
収入 895.00 899.83 912.48 904.53 897.97 914.58 920.38 907.30 922.81 911.58 912.26 895.40

資料出所:ブラジル地理統計資料院(IBGE)

2.分野別の動向

(1)労働行政全般

2004年は労働党政権にとって、政権担当2年目に当たり、行政能力を問われる年となり、企業や労働者から政府に対する要求が強まった年となった。政権担当1年目の2003年は、労働党政権の行政に対する不安から、企業活動が低迷し、生産投資は後退して、GDPはプラス0.54%の低い成長にとどまった。しかし、これは過去に過激な言動を取ってきた労働党が、いかなる方針を取るのか、政権の行政タイプを監察しようとする警戒感が生んだもので、経済活動低迷は止むを得ないと受け取られている。

労働党政府は、2003年の低迷について、前政権の失政がもたらしたもので、労働党政権の失策ではないと強調している。2003年の施政方針を見て、産業界には安心感がもどり、2004年には消費や生産投資が徐々に回復した結果、GDPは近年にしては大型成長となったことを受け、政府は労働党政権の成果をアピールしている。特に2004年は10月に全国市長選挙を控えていたために、労働党は、選挙対策として、経済活動を盛り上げ、雇用拡大を図るように政府機関や地方自治体へ圧力をかけた。

2004年のGDPは一応回復したが、それは2003年の低迷に対しての数値上の成長であり、ブラジルが必要とする、長期持続的成長かどうかの判断はまだできない。事実、依然高失業率構造は解消されておらず、就労者の所得低下も続行している。政府が予想しているような、高度成長を維持できる内外の条件はまだ整っておらず、生産投資も好調とはいえない。BRICsの一角を担うものの、世界の投資は中国やインドに向かっており、中南米への関心は薄い。ブラジルは原材料供給国としては関心を持たれているが、原材料は付加価値が低く、買い手市場であるために、外資も積極的な投資は行っていないのが現状だ。

(2)雇用政策

労働党政府は選挙運動中、任期4年間のうちに1,000万人の新規雇用を実現すると公約していた。年間平均250万人の新規雇用を生み出す必要があるが、2003年はGDPがプラス0.54%と言う低成長のため、新規雇用は64万5,000人にとどまった。2004年は152万3,000人増加したと労働省は発表したが、政府も1,000万人雇用拡大公約には触れなくなっている。

労働党政権は、優先計画の1つとして、雇用拡大を目指す若年者雇用計画を2003年11月に発令、年間25万人の若者に正式雇用を与えると発表した。しかし2004年12月までの14カ月間に、実際は目標の約1%に当る2,585人を就職させただけにとどまった。同計画は、貧困家庭で教育の機会に恵まれない初等科卒業までの16~24歳の青年に、就職の機会を与えようとするもので、最低賃金の2倍(460レアル、約156米ドル)以上の給料で正式採用する企業に対し、政府は中小企業の場合、給料の半額に当る月間250レアル(約83米ドル)、大手企業の場合は給料の4分の1を補助金として企業に支払う制度。この制度に賛同して、採用を行うと登録した企業は4,387社に達したが、2005年1月1日現在、残っている採用人員申し込み人数は440人に過ぎない。企業の関心が薄いために、政府は2004年半ばから、採用人員の30%まで中等科卒を採用してもよいこと、企業が雇用維持困難となった場合は、解雇できるよう条件を緩和したが、企業はさほど関心を見せていない。政府は2004年度にこの制度維持のために1億5,360万レアルの予算を組んだが、支出は2,940万レアルに過ぎなかった。企業が興味を見せないために政府は1億1,930万レアルの宣伝費を掛けて企業に協力を呼びかけたが、これも期待された効果はなかった。慢性的大量失業構造の解消を目指した補助金政策の試みであったが、企業は、依然として増産を必要とする市場が出現するかどうかに不安を持っており、補助金を受ける官庁手続きが複雑すぎるという指摘もあり、政府の意図は必ずしも成功していないようだ。

政府の補助金で雇用拡大を図ろうとした労働党政権の政策は、少なくとも発足当初の14カ月間の成果で見れば取り上げるほどの成果を見せていない。労働党は設立以来、貧困層に公的資金から補助金を支給する政策を主張しており、貧困世帯に家族手当、東北や北部の低額所得者に生活必需品セットの無料支給などを実施してきた。だが産業振興ではない、こうした財政支出型政策は、今のところ目立った成果を上げるにいたっておらず、貧困層に労働党の支持を得るための政策ではないかとの批判を呼ぶ結果となっている。

(3)労働時間

中央労組の研究所DIEESEは、サンパウロ首都圏の週平均労働時間について、2003年の44時間が2004年は43時間へ減少し、就労者全体に占める44時間以上の労働者割合は、2003年の44%が、2004年は42.8%に下がったと発表した。

(4)賃金

大量失業と、就職難は、長い期間に亘って、就労者の実質平均収入低下を起こしており、2004年もこの傾向は継続している。ブラジルは終身雇用慣習がなく、企業は業績しだいで、簡単に労働者を解雇したり、採用したりする。近年は企業合理化による人員整理のほかに、人件費節約の一手段として、賃金の高い従業員を解雇し、低い労働力と入れ替える労働力のローテーションが行われている。

ブラジル地理統計資料院(IBGE)のデータでは、2002年の6大首都圏就労者平均収入1,048.85レアルは、2003年に914.74レアル、2004年は907.81レアルに下がっている。高額賃金取得者ほど減少幅が大きく、その為に、結果として賃金の上下の差が縮む均衡化が進んだ。

(5)最低賃金

最低賃金の年間調整は、毎年5月1日から実施され、その前月に金額を決定するのが慣行となっているが、労働党政権は2005年5月1日から、最低賃金は現行の260レアル(約86.67ドル)を300レアル(約100ドル)に引上げることを、2004年12月15日に発表した。労働党の最大支持組織である中央労組CUTを中心にして、6大中央労組が、2005年1月から、最低賃金を320レアル(106.67ドル)へ引上げるよう要求して、首都ブラジリアへ、デモ行進を行い、政府へ交渉を要求したために、政府は繰り上げて発表を行うことにより、圧力緩和を図ったものと見られている。

政府は、2003年5月1日の実質1.20%調整、04年5月1日からの260レアル、実質1.21%の調整に対し、2005年5月からは9.3%の調整であると、名目引上げ率を発表し、過去このような高率の引上げ例はないと強調した。また過去15年間続いた最低賃金の実質目減りを中断するための、政府の多大なる努力の結果であると付け加えている。この発表を行った12月当日の米ドルレートが約2.80レアルであったために、この日のレートで計算して、2005年5月からの最低賃金は100ドル以上の水準になると説明した。

しかし、各中央労組はこの政府決定に不満を持ち、2005年の初国会召集と同時に、国会で最低賃金の再度審議を要求し、国会で2005年1月から320レアルへ引上げさせる運動を行うと予告している。国会の予算委員会は、2005年5月1日からの新最低賃金は、281レアル(約93.67ドル)と仮定して予算編成を行っていたために、政府決定通り300レアルなら、差額24億7.000万レアル(約8億2.333万ドル)の財源を作る必要が生じている。最低賃金は、年金支払いの計算基準や、公務員の給料水準単位となっており、最低賃金の引上げ率は、連邦、州、市の年金や人件費予算に直接影響する。

(6)主要法令の動き

1.総合労働法

現行労働法は、企業に対して重い分担金を政府に納入する義務を課しているために、企業はこの負担軽減を長年にわたって訴えている。しかし、政府は労使から徴収する分担金が、厚生や年金運営の財源となっているため、減収を招く措置はとりたくない。労働者は既得権に対して絶対に譲歩しない意向を主張する。企業は労使問題に政府の介入を制限し、負担金の軽減を主張しており、労働法の改正を巡って三者が対立する様相を呈している。企業は、この負担金納入を回避する手段として、正式登録しない雇用を選択している。非公式採用は法令違反ではあるが、取締り機関が機能していないため、半ば公然と行われている。非公式登録就労者数について、企画省の応用経済研究所労働市場研究課では、2002年のブラジル地理統計資料院(IBGE)による内国抽出見本調査を分析して、非公式就労が、2002年は就労者全体の45%に達したと発表した。この調査は、正式就労が多い首都圏のみを対象としており、非公式就労が多い地方都市や農村部を含めると、非公式就労は52%になると見ている。

このような状況にありながら、取締り強化も、あるいは労働法を根本から改革して、労使共に負担金を納入しやすい形にする取り組みもなされていない。労働法改正は、政治的に労多くして、報われるものは少ないという考えから、歴代政権は、改正を目標に掲げながら、実施は先送りにしてきた。今政権においても、任期期間中における改正実現の可能性は小さくなってきたといえる。

2.組合法改正

組合法も、改正は長年の課題となっている。一地区一業種組合設置に限定している現行法が、組合の独占専横、あるいは労働省の組合補助金を取得するための、組合員の実態があやふやな組合設立を容認しているなどの、不合理な部分が指摘されている。組合間の競合により、労働者の利益を図る組合の出現を可能にする法的整備が、労使双方から要求されているために、政府は2004年にこれを協議する労使、政府の三者代表によるフォーラムを発足させ、協議を重ねており、任期中における新組合法発令を目指している。

ただ、労組側代表は、労働党政権に強い影響力を有する中央労組CUTが、主力となって改正案編成に当っているために、中央労組の権限をさらに強化する方向へ進もうとしており、企業代表は憂慮を表明している。

3.年金制度法改正

社会保障制度の分担金納入者である正式雇用就労者が、就労者全体の約半分に減少し、社会保障制度の資金源が減少している。さらに公務員は、退職前の最終月給を終身支給とする公務員優遇制度があるが、毎年赤字が拡大している現状を打開しようと、労働党政権は2004年に、公務員も民間なみに、年金支給上限を設け、最終月給を終身受け取る以上、現役と同様に、一定割合の分担金を納入する義務を設けた改正案を国会に提出した。しかし、国会議員自体が、公務員年金制度の適用を受けているため、公務員の既得権侵害であるとして、年金制度改革案は骨抜きにされて承認された格好となり、社会保障制度の赤字縮小には何も効果を出せない、有名無実の改正に終った。

資料出所:

  1. 海外委託調査員

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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ブラジル」

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