基礎情報:ブラジル(2000年)

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

  1. 一般項目
  2. 経済概況
  3. 対日経済関係
  4. 労働市場
  5. 賃金
  6. 労働時間
  7. 労使関係
  8. 労働行政
  9. 労働法制
  10. 労働災害
  11. その他の関連情報
国名
ブラジル連邦共和国(ブラジル、南アメリカ)
英文国名
Federative Republic of Brazil
人口
1億5612万8003人(1997年)
面積
854万7403平方キロメートル
人口密度
18.29人/平方キロメートル(1997年)
首都名
ブラジリア
言語
ポルトガル語
宗教
カトリック、エバンジェリカ(Evangelica)
政体
連邦共和国、大統領制

実質経済成長率
+1.0%(1999年) +0.2%(1998年) +3.8%(1997年)
通貨単位
レアル(Real) 1米ドル=1.79レアル(1999年末売値)
GDP
5550億米ドル(1999年、伯中銀)7760億米ドル(1998年、伯中銀)
1人当たりGDP
4792米ドル(1998年、伯地理統計院)
消費者物価上昇率
8.49%(1999年、伯地理統計院)
主要産業
大豆、オレンジ、砂糖、自動車、鉱業(鉄鉱石)、製造業

対日主要輸入品目
乗用車、金属加工機械、通信機、自動車部品、有機化合物、原動機など
対日輸入額
2051百万ドル(1999年)2600百万ドル(1998年)2945百万ドル(1997年)
対日主要輸出品目
鉄鉱石、 アルミ・同合金、 鉄鋼、 パルプ、 大豆、 肉類、 有機化合物、 果実など
対日輸出額
2675百万ドル(1999年)2890百万ドル(1998年)3768百万ドル(1997年)
日本の直接投資
730億円(1999年) 597億円(1998年) 1451億円(1997年)
日本の投資件数
25件(1999年) 29件(1998年) 34件(1997年)
在留邦人数
7万9560人(1999年10月)

出所:

  1. 『ブラジル年鑑1998年』
  2. ブラジル地理統計資料院
  3. 日本:大蔵省(財政金融月報、外国貿易概況)、外務省(海外在留邦人数調査統計)

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1.労働市場の概況

1994年7月1日の経済安定計画発令まで、慢性的な高インフレのために、労使ともにうまくインフレに乗ることが重要視され、企業の生産効率や労働者の技能向上などは二の次と考える風潮が生まれていた。企業は景気次第で労働者を簡単に解雇し、労働者も働きながら職業紹介所には別に求職を申し込み、賃金の高い職が見つかるとすぐに転職し、1つの職場に長くとどまることは、挑戦意欲がないか、他の職場で通用しない労働者と見られる時代であった。

しかし経済が安定し、世界市場に組み込まれる産業が増加し、競争のためのコスト節減から人員整理が開始されるとともに、失業増加、就職難時代となり、ようやく労働者の間に現在の職を大事にする感覚が生まれつつある。また技術を持たない労働力の市場が縮小されており、労働者の間に技術を身に付けようと、訓練や講座を受ける者が増加している。

一度失業すると、再就職は非常に困難であり、フォーマルセクターの就労者が年々減少して、社会分担金納入者が全就労者の50%以下となったために、政府はフォーマルセクターにおける就労を維持する政策を模索し、1998年には雇用を「一時中断」するという制度を導入した。同制度は以下のようなものである。

  1. 雇用維持が困難に陥った企業は、労組との協定で2~5カ月間に限って雇用契約を中断して、自宅待機させ、賃金支払いを中断しながら業績回復を待つ。
  2. この間に労働者は労働省の労働者保護基金から毎月100レアル(発令当時約84米ドル)を奨学資金として受け取り、職業訓練を受ける。訓練設備経費は企業が負担し、休業期間が終わればその日から正常に出勤する。
  3. 雇用一時中止期間を過ぎても市場が回復せず、そのまま解雇される場合は、休業期間中の賃金全部と、解雇に伴う正当な補償を受け取る。

経済開放によって、1997年までは工業部門で解雇される労働者が最も多かったが、1998年以降は商業部門における解雇が増加し、雇用が増加した部門はサービス業だけとなった。

労働法では14歳以下の児童の就労は禁止していた(見習いを除く)が、1998年12月に16歳以下の児童の就労禁止へと改正された。しかし実際には、義務教育を受けないで労働に従事している学齢期の児童が多いことが、国際社会から指摘されている。また労働者の学歴の差が大きいように、収入の格差も大きい。1996年に10歳以上の国民の13.61%は文盲、初等科8年以下の学力しかない国民が64.96%も存在する。このため1996年の10歳以上の国民1億2362万人のうち、3478万人は、最低賃金の2倍以下の収入、5129万人は収入なしとなっていた。技能を持たない労働者が多く、失業者が大量に存在する一方で、専門技術者は不足しており、設備を更新した企業、新規進出したハイテク部門は専門技術者確保に苦労している。

2.労働市場関連情報

労働力人口
10歳以上の経済活動人口、7521万3283人(1997年)
労働力率
55.43%(1997年)
就業者数
6933万1507人(1997年)
完全失業率
7.6%(1998年) 7.6%(1998年1~10月平均)(6大都市圏のみで調査)
失業者数
124万1000人(1999年10月、6大首都圏のみ)

注:ブラジル年鑑のデータは、アマゾン地区のパラ州を除く他の州の農村地帯の調査が困難なため、農村地帯の人口は除去して集計されている。

出所:

  1. ブラジル年鑑1998年
  2. ブラジル地理統計資料院の資料

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1.企業の一般的な賃金制度の概要

年功序列的賃金の考え方はなく、能力主義が優先する。しかし業種別の労使の年間労働契約によって、職種別に、また企業規模に応じて、業界の職種別最低賃金が決まっている。このために、成績の悪い労働者も職種の最低賃金以下にはできない。1997年までは業種別労使協定に従って年間賃金調整をしていた。しかし、1998年にインフレ率がゼロ近くになったために、企業が賃上げ要求に応じなくなり、年間調整ゼロの企業が増加している。また賃金には社会分担金が控除されるために、企業利益参加、あるいは生産性向上プレミアムとして支払い、分担金を回避する企業が増加している。

2.最低賃金

夫婦に2人の子供を有する4人家族が最低の生活を維持するのに必要な金額が1945年に最低賃金法によって制定された。その後、定期的に政府によってインフレ率を考慮した修正がなされてきた。1998年5月以来130レアル(2000年1月1日現在約77.7米ドル)となっており、大体毎年5月1日の労働者の日に変更される。全国共通で、すべての業種に適用され、年金支給の基準にも使用されている。現在の最低賃金は法令で定めた基本的な生活を維持する必要額には足りない金額に下がっている。

参考:1999年5月1日の最低賃金法

3.賃金関連情報

平均賃金

1996年の労働者の平均月額所得は289レアル(男性415レアル、女性172レアル)となっているが、地域間格差が大きく、東北部の平均は158レアル、最も発展した南東部は366レアルである。

また都市部の平均は331レアルだが、農村部は119レアルとなっている。なお労働力人口のうち、1591万8126人は最低賃金の1~2倍クラス、1553万4103人は半分から1倍、332万2891人は半分以下の収入となっており、経済活動人口の47.56%は最低賃金の2倍以下の月額収入となっている(2000年1月1日現在の最低賃金は約108.33米ドル)。

賃金上昇率

高インフレ時代には6カ月、あるいは年1回、過去のインフレ率に応じて自動的に調整され、強力な労組はインフレ・プラスアルファーを獲得していた。物価安定後は自動調整が法令により廃止され、労使の自由交渉になった。しかし労組の中には1994年以降の調整遅れとして補充を要求する行政訴訟を起こしているところもある。経済安定後も過渡期の減少分の見返りとしてインフレ分を自動調整する企業もあったが、最近は本給は据え置き、生産性向上分で調整する方法が増えている。法的な調整義務は廃止されている。

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1.企業の一般的な労働時間制度の概要

法定労働時間に従って、就業時間は8時30分から12時、昼食時間をとって13時30分から18時という制度が一般的である。熱帯圏が多いために、リオデジャネイロや東北部、北部では以前、昼休みを2~3時間取るために朝は早く出勤し、夕方に遅く退社する制度をとっていたが、冷房の普及で次第に上述の一般的な時間帯になりつつある。

2.労働時間に関する法律

法定労働時間は原則として1日8時間、週48時間以内、連続24時間交替制の職種は1日6時間、労働終了時間から次の就労まで最低11時間の休息時間を置く。女性の深夜労働は原則として禁止。労働法は12歳以下の労働を禁止し、12~14歳以下の労働は見習い以外の労働を禁止していたが、1998年末に憲法改正案が国会を通過して、14歳以下は労働禁止、14~16歳は見習いとしてのみ許可と修正された。16歳以下を見習い以外の労働者として雇用すると369.58レアル(約308米ドル)の罰金が科される。義務教育就学中の労働者は通常勤務時間より30分早く退社できる。エレベーター、電話交換ボックスなど閉鎖された空間の勤務は1日6時間に制限される。

参考:総合労働法

3.企業の一般的な休暇制度(有給、無給)の概要

同一使用者のもとに雇用されている場合、勤続年数に関係なく12カ月ごとに30日間の休暇が与えられる。休暇の月の賃金支払いは3分の1の割増しが義務づけられている。また休暇は週末が終わって週日となる最初の日から数え、祝祭日の始めから数えない。休暇は分割できる。欠勤日数を休暇から控除することは禁止されている。一部の企業では年末年始など連休が多い時期に集団休暇を与えて休暇の一部を消化しているところもある。

参考:総合労働法

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1.労働組合

中央労組 CUT(Central Unica Dttrabalhador:労働者単一センター)には、連邦、州、市の公務員労組、公社労組を主体に金属、化学、銀行など強力な労組が参加しており、CUT 本部では2702組合、1926万7953人の労働者を傘下に有すると発表している。

2大中央労組の一方といわれる Forca Sindical(組合の力)は加盟800組合以上、加盟組合員は600万人と発表している。

出所:CUT および Forca Sindicalのパンフレット

2.使用者団体

  • 内国工業連合会。全国各州の工業連盟の中央組織。各州の工業連盟には州内の業種別の団体や協会がある。
  • 自動車工業協会。州の工業連盟に加入せず、独自の組織となっている。
  • 内国商業連合会。全国各州の商業連盟の中央組織。各州の連盟には各市の商業協会、小売り商組合、卸商組合などが参加している。
  • 州ショッピングセンター協会。サンパウロ州では商業連盟に加入せず、独自の組織にしている。

注:「労働組合数」「労働組合員」「組織率」「争議件数」「争議参加人数」「労働損失日数」などに関する公式データはない。

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1.最近の主要な労働政策の概況

2000年1~3月の中央銀行基本金利は年率19%という世界でも極めて高い金利となっており、外資の国外への引き揚げを高金利で引き留める政策をとっているが、外資の引き揚げは止まらず、高金利、経済活動冷え込み、失業増加の悪循環に陥っている。政府は財政再建を IMF と約束して415億米ドルの融資を受けることになっているが、政府部門の改革を政治が阻止しているために、国際社会から政府の財政再建実現能力に疑問が持たれている。IMF との協定を守ろうとすれば、政府部門は大きな構造改革と支出削減を実施せねばならず、この結果、政府部門からも大量失業を生む。IMF 協定と政府部門の改革を許さない政治勢力にはさまれた政府は、国際社会から危機の震源地と憂慮を持って見られていながら、実効性のある政策を採用できず、国民はリセッション、労働者は失業に怯えている。

2.労働関連行政機関

カルドーゾ大統領は1999年1月1日から、2期目の政権を担っている。

また、労働省は労働雇用省と改名され、大臣も元商工相、下院議員のフランシスコ・ドルネーレス氏が任命された。

労働・雇用省(Ministerio de Trabalho e Emprego)
所在地:
Esplanada dos Ministerio Bloco F CEP-70059-900 Brasilia, Brasil
電話(061)317-6000
Fax.(061)321-5375

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ブラジルの労働関係法は「総合労働法」(1943年5月1日付、政令第5462号)にまとめられている。総合労働法は毎年部分的に改正されているが、以下には総合労働法の目次のみ示す。

総合労働法の目次

  • 第1編 総則
  • 第2編 労働保護に関する一般基準
    • 第1章職業上の身分証明/第2章1日の労働時間/第3章最低賃金/第4章休暇/第5章労働の安全、および衛生
  • 第3編 労働保護の特別規準
    • 第1章労働時間および条件に関する特別規則/第2章労働の国民化/第3章婦人労働の保護/第4章未成年者労働の保護
  • 第4編 個人労働契約
    • 第1章総則/第2章賃金/第3章契約の変更/第4章停止および中断/第5章契約廃棄/第6章予告/第7章雇用の安定性/第8章不可抗力/第9章特別規則
  • 第5編 組合組織
    • 第1章組合制度/第2章組合の種類/第3章組合の負担金
  • 第6編 団体労働契約
  • 第7編 行政罰金の訴訟手続
  • 第8編 労働裁判所
    • 第1章序則/第2章調停・裁定委員会/第3章司法判事/第4章地方労働裁判所/第5章最高労働裁判所/第6章労働裁判の補助役務/第7章罰則/第8章総則
  • 第9編 労働検察庁
    • 第1章総則/第2章労働裁判検察局/第3章社会保障検察庁
  • 第10編 労働裁判手続
    • 第1章総則/第2章賃金/第3章契約の変更/第4章停止および中断/第5章契約廃棄/第6章予告/第7章雇用の安定性/第8章不可抗力/第9章特別規則
    • 第1章序則/第2章一般訴訟手続/第3章個人的争議/第4章集団争議/第5章執行/第6章控訴/第7章罰則の適用/第8章最終規則
  • 第11編 最終および暫定規則

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労働災害を阻止しようとする政府の長期的な観点に立った政策により、労働災害件数は減少している。

事故を起こした時のコスト高を企業が認識して、事故防止対策への投資と労働者の訓練に積極的になったことも指摘できる。ただ労働災害は公式雇用契約をした労働者だけが記録されているだけで、国内労働力の50%以上が就労しているインフォーマルセクターの事故は統計上表面化しない。建設業、農村地帯、中小、零細企業が多い地方都市ではインフォーマルセクターで働く労働者が多く、事故や職業病の正確な実体は残念ながら不明である。

労働災害者数:21万110人(届出事故件数のみ)

出所:ブラジル地理統計資料院の資料

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1.社会保険

(1) 退職給付制度

退職給付金(一時金)は定年退職、途中退職にかかわらず、その企業に勤続した年数に応じて1年勤続ごとに1カ月分の賃金が加算され、法定補償金とともに、勤続年数補償基金から支払われる。

その支払いのために、企業は賃金支払い額に応じて規定された金額を労働者の名前で基金に毎月積み立てている。インフォーマルセクター就労者には当然ながらこれがない。企業は法的に法定以上の退職金を支払う義務はないが、任意に勤続年限に応じて、企業の方針により、法定退職金積み増し分を支払うところもある。

民間の退職者に政府が支払う上限は1200レアルであるが、公務員は退職時の賃金をそのまま終身受け取る制度になっている。このため1998年は90万5000人の公務員年金生活者に195億レアルを支払ったのに対し、民間人1770万人には494億レアルの支払いにとどまったという不均衡が生じた。ブラジルの社会保障制度は公務員年金のために破綻する恐れが出ている。

(2) 医療保障制度

すべての国民は政府の無料医療保障制度を受けることができると保障されている。このため、公立病院がない地域では民間の施設と契約して対応している。しかし財政事情からこの制度を十分に維持できなくなっているため、次第に個人が民間医療サービスと契約して自己負担により、各自で対応せざるを得なくなっている。

2.人的資源開発、教育訓練

政府が直接実施する教育訓練制度はブラジルにはまだない。

政府は労使の団体に資金を援助したり、税制上のインセンティブを与える形により、間接的に教育訓練を行っている。工業労働者訓練は内国工業連合会が SENAI (内国工業見習いサービス)を、内国商業連合会がSENAC (内国商業見習いサービス)は運営している。教育訓練期間は必要に応じて1~3年行われる。必要経費は商工業企業が労働者への支払賃金の1%を拠出した基金と、団体が受け取る税制インセンティブによって賄われる。労組が労働者訓練を行う場合は労働省の労働者保護基金から資金補助が受けられる。

3.学校教育制度の概要

初等科8年、中等科4年は義務教育となっているが、学校から遠距離、あるいは家庭の事情で義務教育年齢に通学できない児童があり、学齢期児童の労働が国際社会から指摘されているために、政府は1994年に義務教育に子弟を通学させない父兄を処罰する法令を設けた。

4.その他

1998年7月1日から実施された経済安定計画であるレアル計画は、通貨安定手段として、為替を実質価値以上に維持し、高金利で補佐する手段をとってきたが、国際通貨投機に耐えられず、1999年1月15日から自由相場に変更し、大幅な切り下げを実施した。

政府財政再建と通貨安定を図る上で重要な政府財政再建案は国会の政治的抵抗で進まず、リセッションとインフレの再来に対する懸念が強まっている。1999年は経済活動が低下し、失業が増加すると予想されているところに、加えて為替切り下げが起こり、財政調整計画が実現しなければどうなるかと先行き不安が高まった。


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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ブラジル」

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