基礎情報:ドイツ(1999年)・続き

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

  1. 労働時間
  2. 労使関係
  3. 労働行政

1.労働時間の概要

労働時間の構造的変化の最も大きな原因は労働時間口座の導入にあり、ここ数年の間に急速に広まっている。現在では、民間企業の79%、組織内利益代表(労組)を有する公的機関の66%がさまざまな種類の時間口座の少なくとも1種類を採用している。従業員50人以下の小企業でも大部分がこの労働時間口座を導入している。もっとも導入の進んでいるのは設備投資の大きい製造業であり、約91%がすでに時間口座を活用実践している。逆に導入の最も遅れているのは商業分野であり、何らかの形で時間口座を導入している企業は全体の52%に過ぎない。

労働時間口座の導入により、企業側も従業員側も1日あるいは1週間の労働時間にバリエーションを持たせることができ、変化する需要へのフレキシブルな対応が可能になる。時間口座の活用は、企業側に大きな利益をもたらすものである。就労パターンを変化する生産やサービスパターンに合わせることができれば、在庫コストの節約が可能となり、変動する需要に柔軟に反応することができるからである。同時に、時間口座には合理化の方策としてロス時間を減らし、労働効率を高める効果もある。さらに、時間口座の活用は時間外労働の削減につながる。こうして、企業側は時間外勤務手当を25%削減することができるのである。

2.労働時間に関する法律

新労働時間法が1994年7月1日より施行されているが、新法は1938年制定の労働時間規定と1891年制定の労働時間規則、休日就労規定がベースになっている。新労働時間法制定の目的は、それまで複雑で分かりにくかった労働時間法制度を単純化し、さらに現状に即して柔軟に対応できるよう改善することであった。

新労働時間法には、とくにつぎのような新しい規定が盛り込まれている。

  1. 第3条によると、6カ月以内に1日平均8時間労働となるよう調整すれば、1週間当たりの労働時間を60時間まで、1日当たりの最長労働時間を8時間から10時間まで延長することができる。
  2. 当事者(使用者、労働者)は第7条に基づき、労働協約あるいは労働協約に基づいた企業内協定において、たとえば長期ベースの労働時間調整期間、短期ベースの最少休養時間あるいは休憩時間の割り当てに関し、法で定められた規定とは異なる独自の規定を定めることができる。
  3. 日曜、休日労働は、従来定められていた例外事項(第10条)のみならず、経済的理由(第13条第5項)で導入することができる。
特に最後の規定については長期間にわたって検討された。検討に時間がかかった理由は、製造業においても技術的理由のみならず経済的理由による日曜労働への道を拓くことになるからだ。製造業では日曜労働の導入に極めて消極的であった。

3.労働時間関連情報

労働時間についても、旧西ドイツと旧東ドイツで違いが見られる。

1997年の実質年間総労働時間は、旧西ドイツ地域の1503時間に対して旧東ドイツ地域では1594時間と100時間近く長い。同様に週当たりの労働時間(1997年)も旧西ドイツ地域の平均37.5時間1503時間に対して旧東ドイツ地域は平均39.1時間と長い。

一方、労働者1人当たりの時間外労働時間(1997年)は、旧西ドイツ地域の64時間に対して旧東ドイツ地域では42時間と短くなっている。労働時間との関連で、パートタイム労働者の割合(1997年)をみると、旧西ドイツ地域の割合(19.3%)が、旧東ドイツ地域の割合(11.8%)を上回っている。

興味深いのは育児休暇の申請件数(1997年)で、旧西ドイツ地域の36万6000件に対して旧東ドイツ地域は4万8000件と9分の1しかない。

つぎに土日と夜間労働についてみると、1997年に全就業者のうち36.2%が土曜労働を行(1991年は32.7%)い、日曜労働は全就業者のうち19.3%が行っている(1991年は17.2%)。

また、1997年に全就業者のうち17.2%が夜間労働を行っている(1991年は13.4%)。

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1.労使関係概況

以下に最近の特徴的な労使関係の動きをまとめてみる。

労働協約の適用範囲

5人あるいはそれ以上の従業員を抱える西ドイツの企業の69%、東ドイツでは52%が、労働協約に参加していない。これを労働者数の割合でみると、西ドイツで82.8%、東ドイツで74.7%にまで労働協約非適用労働者が増加していることになる。

事業所委員会の設置率

事業所委員会を有する企業は、西ドイツでは16%、東ドイツは14%に過ぎない。事業所委員会の設置率は、企業の規模が大きくなるにしたがって高くなる。従業員1000人以上の企業では、99%までが利益代表組織を有している。事業所委員会の設置率が低いのは、特に従業員10人以下の企業である。このような企業では、90%以上が事業所委員会を有していない。

賃金政策の自由化

ここ数年、賃金政策において分散化と自由化の傾向が見られる。特に賃金公開条項の導入により、使用者側と事業所委員会で労働時間および所得に関しては労働協約で定められた範囲内で協議することができるようになったことが大きな変化として挙げられる。その他の点に関しては、事業所組織法第77条第3節の定めにより、企業内で賃金および労働時間に関して取り決めを行うことは禁止されている。自由協議の例として、金属産業における協定で週当たり労働時間が35時間から30時間への短縮が認められたことが挙げられる。化学産業では、週労働時間が37.5時間から2.5時間短縮あるいは延長することができるようになった。

表:ストライキ
  1996年 1997年
参加労働者数 16万5721人 1万3472人
参加企業 200社 144社
労働損失日数 9万8135日 5万2896日

出所:Statistisches Bundesamt(連邦統計局)資料

2.労働組合

ドイツ労働総同盟(DGB)の傘下には、12の産業別労働組合が組織されている。DGB傘下以外の労組としては、ドイツ職員労働組合(DAG)、ドイツ公務員労働組合(DBB)、キリスト教労働組合(CGB)がある。推定組織率は、ドイツ労働総同盟傘下の労働組合の合計が28.4%、その他の労働組合は合わせて約6%で、ドイツ全体としては約34.4%である。

組合員数は1997年12月末現在でドイツ労働総同盟が862万3000人、これは1996年と比べて3.8%の減少を示す。とくに女性組合員数の減少が顕著で減少率は4.1%となり、男性の3.7%を上回る。地域的には、旧東ドイツで組合員の減少が顕著である。ドイツ労働総同盟は1991年以降、合計26.9%の組合員を失い、組合員数は1991年の1180万人から860万人に減少している。

3.使用者団体

ドイツの代表的な使用者団体はドイツ使用者連盟(Bundesvereinigung der Deutschen Arbeitgeberverbande:BDA)である。BDAは15の地方組織、47の業種別・産業別使用者団体を加盟メンバー(個別企業は直接のメンバーではない)とし、1000以上の使用者協会を間接的に傘下におき、ドイツの民間企業従業員の80%をカバーする組織である。業種別・産業別使用者団体は業種別・産業別労働協約の交渉、締結を主要な目的として活動しており、地方組織は主として教育問題を扱っている。

BDAは1949年に創立されて以来、長らくケルンに本部を置いていたが、ベルリンへの首都機能移転に伴い、1999年10月に本部をベルリンに移転することにしている。

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1998年1月、労働政策が大幅に変更された。これは1969年以来続けられていた労働市場政策の法的根幹である雇用促進法(AFG)が、前政権により総括的に改正され、社会立法法典IIIに組み入れられたことによる。

重要な改正点はつぎのとおりである。

  • 労働市場政策の分散化:労働に関する要求事項の10%については、まったく自由に対策を講じることができる。
  • 就業志願者の職業教育あるいはモティベーション判定に関する訓練プログラム
  • 企業側にリスクを与えることなく失業者の試用を可能にする契約
  • 新規設立企業への雇用のための補助金は、営業年数2年以下の小企業(従業員数5人まで)に対し、従業員2人までの賃金補助を求める権利を保障するものである。

つぎに最近の特徴的な労働政策について以下に概説する。

(1)高齢パートタイム労働者法の制定

1997年に制定された高齢パートタイム労働者法によると、高齢のパートタイム(フルタイムの50%)労働者(55歳以上で、過去5年間に少なくとも1080日間社会保険の適用される就業を行った者)を雇用し、フルタイム労働者の賃金(手取り)の70%、フルタイム労働保険料の90%を支払い、職場に空きがある場合に失業者あるいは見習い労働者を雇用している使用者は、雇用庁から最長5年間、パートタイム労働者の賃金の20%と年金保険料をフルタイム就労年金保険料の90%まで補填する補助金を受けることができる。この制度は、賃金契約に基づくつぎのようなケースにも適用される。すなわち、第1期2.5年はフルタイムで働き、第2期の2.5年はまったく就労していないケースである。

現在、25業種の大部分の企業において高齢パートタイム労働者の賃金契約に関する協定が結ばれ、パートタイム労働法の不備な点は改善されてきている。原則として、55歳以上の高齢パートタイム労働者の半日就業については、所得は旧所得の85%に、年金保険料はフルタイム年金保険料の90%になるよう補填される。

(2)「雇用のための同盟」

1998年秋に発足した社会民主党(SPD)と90年連合・緑の党の新連立政権は、失業問題の解決を中心課題として挙げている。その第一歩として、1998年末には「雇用のための同盟」が組織された。これには政府、使用者団体、労働組合の代表が参加し、調整役は首相が務めている。政府は連立政権協定において、つぎのテーマを連立両党の申し合わせ事項とみなしている。

  • すべての若年者に職業教育の場を確保する
  • 非就業若年者を労働市場に組み入れること
  • 職業経験の乏しい就業者の雇用機会改善
  • 労働時間をフレキシブルに運用し、企業活動に有効となるよう組織すること(パートタイム労働、高齢パート労働者、時間外労働の企業活動にプラスとなる形での削減)
  • 職業訓練と再教育の近代化
  • 企業を強化するための企業間、地域における対話の促進

「雇用のための同盟」作業委員会で具体的なコンセプトが作成された。第一歩として、時間外労働削減、パートタイム就労の拡大、若年者への職業訓練の場の確保が挙げられている。設立された8つの作業委員会ではすでに1999年初めから、雇用政策に関する提言の準備を行っている。これに関連して興味深いのは、作業委が同様のテーマに関してヨーロッパ各国との比較を行っている点である。

(3)若年労働者の失業対策

新政権は1998年末に若年労働者の失業対策に関する緊急プログラムを決議したが、これは25歳以下の10万人の若者に職業訓練の場あるいは職場を提供するというものである。緊急対策には、賃金補助、学校教育での不足を補う教育プログラムなどへの財政援助や、職業選択の助けとなる職業訓練の資金援助、職業再教育(他業種への進路変更)の促進が含まれている。

参考資料:

  1. WSI-Befragung von Betriebs- und Personalraten 1997/98(ドイツ経済研究所・企業/従業員委員会へのアンケート)
  2. Statistisches Bundesamt(Stat.B.A.)(連邦統計局)、Bundesanstalt fur Arbeit(連邦雇用庁)、Sachverstandigenrat(専門家委員会)の資料
  3. Institut fur Arbeitsmarkt- und Berufsforschung(IAB)(労働市場と職業調査研究所)
  4. Sachverstandigenrat; WSI-Tarifarciv(社会経済研究所/専門家委員会の賃金記録文献)

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