第8分科会:勤労者生活の質の向上のために―均衡処遇とワークライフバランス
JILPT研究フォーラム2007 「労働市場の構造変化と多様な働き方への対応」
第26回労働政策フォーラム(2007年9月7日)

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第8分科会
勤労者生活の質の向上のために―均衡処遇とワークライフバランス

阿部正浩 / 堀 春彦 / 原ひろみ / 新井栄三 / 渡辺木綿子

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この分科会では、勤労者生活の質の向上にかかわる問題として、【1】非正社員の均等待遇【2】過剰な労働時間の影響――の2つについて、調査と事例を中心に研究報告が行われた。

まず、堀春彦・JILPT副主任研究員が「正社員と非正社員の均衡待遇」をテーマに、女性正社員と女性パートタイム労働者の賃金格差の主要な要因を報告した。それによれば、年齢、勤続年数、企業規模などの個人属性をコントロールしても、女性正社員と女性非正社員の間には22ポイント程度の賃金格差が生じていることが明らかとなった。

堀研究員は、賃金格差の要因として、非正社員の基幹労働力化による賃金引き上げ効果はかなり限定的であり、そのほとんどが年齢の効果で説明できると結論づけた。つまり、両者の賃金格差は、賃金制度の差によるものであり、具体的には加齢による賃金の上昇率が女性正社員と女性非正社員では大きく異なることによるとしている。

続いて、渡辺木綿子・JILPT調査員は、企業労使が正社員と非正社員の待遇格差の是正に向けて、どのように取り組んできたかについて事例報告をした。例えば、卸売・小売業の総合スーパーの事例では、正社員の職能資格制度から年功的な要素を排除するなどの改訂とともに、正社員・非正社員の区分基準を見直したとしている。同社は、転居転勤のない区分を「コミュニティ社員」に一本化し、これにより正社員とコミュニティ社員の処遇体系なども一本化され、より均衡に配慮した処遇がなされたという。

また、地方信用金庫の事例では、フルタイムで働けるパートについて、「キャリアスタッフ」というフルタイム契約社員の区分を新設し、キャリアスタッフから正社員(一般職)への登用、身分転換できるような制度を導入していると指摘。パート社員にも正社員と同様の自己啓発奨励金制度を適用しており、転換の後押しも行っている。渡邊調査員は、均衡待遇や、非正社員の正社員への転換制度は、非正社員の待遇改善につながるとしている。

次に、原ひろみ・JILPT研究員が「過剰な労働時間の影響」をテーマに、ワーク・ライフ・コンフリクトを解消し、ワークライフバランスを実現するための課題について報告した。「ワーク・ライフ・コンフリクト」とは、仕事上の役割と家庭や地域における役割が両立できず、両者が対立している状態のことだ。

調査結果によれば、労働時間を短くしたいと考えている人ほど、仕事上で、身体の疲れや健康を損なう危険、ストレスをより強く感じている実情が明らかとなった。つまり、労働時間を過剰に感じている人ほど、ワーク・ライフ・コンフリクトに直面している。とくに週あたり労働時間が50時間以上の人ほど、自分の労働時間を過剰だと感じており、長時間労働の是正が必要だと提言。また、他の就業形態に比べ正社員ほど、自分の労働時間が過剰だと感じているため、正社員の働き方の見直しも課題だとした。

続いて、新井栄三・JILPT調査員は、実際にストレスを感じている長時間労働者の実態について4つの事例報告を行った。例えば、建設業現場監督A氏(40代前半・男性)の事例では、残業時間は、作業現場の終了後、建築計画の見直しや必要書類の整理、報告書等の作成に費やされている。納期・経費等がギリギリの工期設定を達成するために、気の抜けない状態に常におかれているという。

求人企業と派遣スタッフのコーディネートを行っている人材派遣会社社員D氏(20代後半・女性)のケースでは、トラブル対応での業務量が多く、人手不足のため「何でも屋」になっている面もあるという。不明確な役割分担と派遣スタッフへのきめ細かいサービス提供がストレスを高めている。

新井調査員は、人手不足状態で代替要員がいない(その人でなければ対応・指示ができない)ことがストレスをより深刻なものとしており、役割分担が不明確な「グレーゾーン」が多いことも、個人の自己判断によるサービス残業を増やす結果に結びついていると示唆した。

報告を受け、コメンテーターの阿部正浩・獨協大学准教授は、「均衡処遇を実現するためには、従業員の教育訓練機会の確保や、配置・配属の平準化、それらの適正な運用が重要」との考えを紹介した。一方、過剰労働については、仮に長時間労働について当事者間で合意が成立していても、例えば、労働者側が過労死した場合に家族に迷惑がかかるなどの外部不経済が生じる可能性を指摘。外部不経済の解消には当事者間だけでなく社会全体で取り組む必要性があることを強調した。

そのためには、労働基準の厳格な運用に加え、労働者自身の交渉上の地歩を上げることも重要だと述べた。労働者の交渉力向上のためには、労働組合の関与だけでなく、労働者個々人の交渉力の向上も必要だ。阿部氏は、外部労働市場の流動化が進むことによる、労働者自身の離職確率の高まりが、企業の威嚇となる可能性についても示唆。そのためには、「教育訓練問題が重要な役割を担うだろう」などと指摘して、分科会を締めくくった。



第2部 分科会 INDEX
  page6 第1分科会 「地域雇用における公共職業安定所のマッチング機能の強化」
  page7 第2分科会 「中小企業における労使コミュニケーションと労働条件決定システム」
  page8 第3分科会 「職業情報提供の最前線と政策的展開」
  page9 第4分科会 「育児と仕事の両立」
  page10 第5分科会 「非正社員からのキャリアと能力形成」
  page11 第6分科会 「変容する雇用システムの実態」
  page12 第7分科会 「中高年齢者のためのキャリア・ガイダンス─ツールの開発と活用を通して」
(現在表示ページ) page13 第8分科会 「勤労者生活の質の向上のために─均衡処遇とワークライフバランス」

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