第7分科会:中高年齢者のためのキャリア・ガイダンス―ツールの開発と活用を通して
JILPT研究フォーラム2007 「労働市場の構造変化と多様な働き方への対応」
第26回労働政策フォーラム(2007年9月7日)

※無断転載を禁止します※

第7分科会
中高年齢者のためのキャリア・ガイダンス―ツールの開発と活用を通して

山下利之 / 松本純平 / 長縄久生 / 室山晴美

関連リンク: [プロフィール] [配布資料]

職業やキャリア・プランについて見通しをもつためには、自己理解を深め、自分の能力や興味といった特性を知ることが重要になる。第7分科会では、中高年者の再就職やキャリア形成にどのような援助が可能かを、プロジェクト研究「ホワイトカラーを中心とする中高年離職者等の再就職支援に関する研究」の成果をもとに発表した。

分科会では、中高年離職者の再就職支援サービスを充実・強化するために必要な自己理解をサポートする新たなツールや、キャリア・プランニングを円滑にする新たなガイダンス・システムに関する研究成果を披露した。

分科会光景5(写真)

首都大学東京の山下利之・都市教養学部教授は、中高年齢者の再就職を困難にしている心理的要因である心の「硬さ」について論及。山下教授は、今までの経験が成功経験であればあるほど固執が強くなり、若年者だと容易にクリアできてしまう些細な問題が再就職の妨げになることがあるとした。しかし、これまで蓄積されてきた研究で、心の「硬さ」は、学習能力や問題解決能力とは関係なく、「硬さ」に気づくことが、問題解決につながると指摘。そのため、中高年齢者の場合、心の「硬さ」に基づく支援システムが必要で、新たなツール開発に当たって、【1】ユーザーの入力=心の「硬さ」の尺度に関する評定【2】モデル=就業動機、心の「硬さ」、職業への取り組み尺度間の関連に関するモデルでユーザーの問題を推定【3】システム出力=モデル推定された問題に応じてコメントを表示――といった流れになる方法をとった。

新しい仕事に飛び込んでから知る隠れた能力もあるので、広く柔軟に考えるようアドバイスするシステムになっていると紹介した。

JILPTの長縄久生・主任研究員は、開発した中高年のための自己理解ツール集を報告した。中高年は非常に長い職業経験をもち、豊富な業務知識をもつ一方、新しい仕事を覚えることについては抵抗感もあるため、経験を生かすことが第一になると指摘。そこで、ツールには職業経験を職務として把握するための適性検査として、【1】管理機能行動目録(具体的な問題解決場面での行動を考えて職務遂行能力を評価)【2】作業記憶(情報の処理と貯蓄を同時に行うワーキングメモリーのテストで、注意の制御能力の老化度を評価)【3】短期記憶(短期記憶のテストで記憶の老化度を評価)【4】心の硬さ尺度(心の硬さの質と程度を測定)――の4つを盛り込んだ。こうしたテストを通じて、求職者側の問題解決につながるような利用を期待していると締めくくった。

室山晴美・JILPT主任研究員はこの3月に最終版が完成した「キャリア・インサイトMC」について報告した。このソフトは、将来のキャリア・プランを作成することを支援するためのツールであるCACGs (コンピュータを使ったキャリア・ガイダンス・システム)をコンセプトに開発。求職者が自己理解、自己評価を行い、適性にあった職業情報を調べ、キャリア・プランを作成するといった職業選択に向けた一連のステップを、自らパソコンを操作しながら経験できる。

もともとは、01年に開発されて、すでにハローワークなどで広く活用されている18~34歳の若年求職者向け「キャリア・インサイト」をベースに、調査や試行実験などを実施しシステム開発を進め、完成にこぎつけた。これまでは、ハローワークなどの公的な職業相談機関での限定配布だったが、10月から一般販売も開始。活用範囲が広がることに期待している。



第2部 分科会 INDEX
  page6 第1分科会 「地域雇用における公共職業安定所のマッチング機能の強化」
  page7 第2分科会 「中小企業における労使コミュニケーションと労働条件決定システム」
  page8 第3分科会 「職業情報提供の最前線と政策的展開」
  page9 第4分科会 「育児と仕事の両立」
  page10 第5分科会 「非正社員からのキャリアと能力形成」
  page11 第6分科会 「変容する雇用システムの実態」
(現在表示ページ) page12 第7分科会 「中高年齢者のためのキャリア・ガイダンス─ツールの開発と活用を通して」
  page13 第8分科会 「勤労者生活の質の向上のために─均衡処遇とワークライフバランス」

第1部 シンポジウムへ (page 1 - 5)