基調報告:第26回労働政策フォーラム
JILPT研究フォーラム2007
「労働市場の構造変化と多様な働き方への対応」
(2007年9月7日)

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基調報告 正社員・非正社員の雇用区分を越えて

JILPT主任研究員 小倉一哉

小倉一哉主任研究員(写真)

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労働市場が過去10~20年の間に大きく変わったが、最大の変化は、正規労働の相対的な減少と非正規労働の増加だ。今や雇用労働者の3分の1が非正規労働者であり、増加した要因として、企業が総額人件費の削減を目的に、非正規労働の活用を進めたことは間違いなく、研究でも実証されている。

しかし、非正規労働者と一概に言っても、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、請負社員、個人業務委託等多様である。つまり、正規・非正規という2分法ではなく、その中身を見る必要があると同時に、正社員の中にも多様性が生じてきている。例えば、勤務地限定社員などが出てきているし、在宅勤務でも、完全な在宅の人から、週1回、月1回の在宅勤務といったバリエーションもある。さらに育児、介護の事情などで、短時間勤務をしている正社員もいるなど、多様化している。こうした多様な雇用区分が生まれる中、人材管理、人事労務管理もその多様性に合わせていかなければいけない。

非正社員の代表的な特徴は有期契約であることだが、21世紀職業財団の調査では、正社員と同じ仕事をしているパートタイム労働者がいると答えた事業主は42.5%にのぼり、正社員と同じ仕事をしている有期契約社員が相当数いることがわかる。非正社員が正社員と同じような仕事をすることを「基幹労働力化」と言うが、その程度に合わせた均等・均衡処遇が必要になるのは当然のことで、正社員と同じ働きをしているのに処遇が異なったままでいいはずがない。

正社員登用制度は、均等・均衡処遇のひとつの手段である。そのメリットは、非正社員の満足度を高め、定着性を上げることにあるが、本人の希望が前提であることと、オープンな制度であることが留意すべきポイントだ。転換制度や社員登用制度を導入している会社と、非正社員の能力開発への満足度について計量分析したところ、転換制度があると満足度が下がるという結果が出た。これは、転換制度があるだけでは不十分で、制度内容を周知したり、登用基準を明確にするなど、きちんと運用しなければ、却って非正社員の満足度を下げてしまうというのが一つの解釈である。

最近、企業の人事管理で重要なのは外部人材の活用である。特に生産現場では、外部人材の活用方針によって派遣がいいのか請負が適当なのか判断される。

人材ビジネス会社にどこまで委ねるかによって以下4つのパターンに分けられる。 (1) 外部人材の採用と配置まで委ねる場合、 (2) 上記(1)+外部人材の労務管理の基礎まで委ねる場合、 (3) 上記(2)+基本的なものづくりの管理まで委ねる場合、 (4) 上記(3)+生産性や品質管理などすべてを委ねる場合。

これらのケースのうち、 (1) と (2) は派遣契約の方が適当で、 (3) と (4) は請負契約が適当という区別は、外部人材を活用する上で基本的なことである。なお、派遣労働や請負については、法制度的な制約があるので、外部人材の活用方針と併せて考慮しなければならない。

☆派遣か請負か?

  • (1) 人材ビジネス会社:採用と配置 ユーザー企業:その他すべて
  • (2) 人材ビジネス会社:(1)+労務管理の基礎 ユーザー企業:基本的なものづくりの管理
  • (3) 人材ビジネス会社:(2)+基本的なものづくりの管理
  • (4) 人材ビジネス会社:(3)+生産性・品質管理

(1)と(2)の場合:派遣契約が適当/(3)と(4)の場合:請負契約が適当

どこまで人材ビジネス会社に委ねるかを熟慮しなければならない。その上で、法制度的な制約を考える必要がある。

また、派遣労働の問題点として、ユーザー企業は人材が選べず、派遣会社は業務上の能力開発を担えないことが指摘される。したがって、派遣元とユーザー企業の連携が重要になってくる。

一方、正社員にも多様性が現われている。たとえば短時間正社員。育児・介護だけでなく、最近はメンタルヘルスも深刻な問題になっているので、復職した後のソフトランディングとして短時間勤務という選択肢がある。また、勤務地限定社員は、転居を伴う転勤がなく、全国転勤のある社員とは処遇等に差がある。全国転勤を経験することで形成されるキャリアと、地域限定のキャリアとでは違ってくるだろうから、そうした人たちのキャリア形成をどう考えていくのかという視点も大切だ。

さらに、在宅勤務、テレワーク、モバイルワークと言われる働き方もある。こうした勤務形態の課題として、企業側の業務遂行管理と評価方法、そして働く側の意識、つまり仕事と家事等の生活の峻別をどうつけるかという点が挙げられる。

他方、副業や兼業をしている正社員もいるだろう。場合によっては、会社の外でキャリアを形成するというケースもあるので、積極的にとらえてもいいのではないか。ただ、現状では、本業に影響しないように、就業規則で禁止している企業が依然として多い。

最後に、課題を6点挙げる。第1は、自社内の業務と外部化が可能な業務の切り分けを適正に行うこと。第2に、自社内の業務に正社員、有期契約社員、外部社員をどのように配置するかを考慮すること。第3に、直接雇用の有期契約社員のための能力開発、均等・均衡処遇等の工夫をすること。第4は、外部人材活用における法律上の制約を考慮し、人材ビジネス会社と連携していくこと。第5は、外部人材を活用する際の現場管理者の教育。第6は、正社員の多様な働き方のニーズへの対応。パネルでは、このような視点に立ってディスカッションできればと思う。



第1部 シンポジウム INDEX
(現在表示ページ) page1 基調報告 「正社員・非正社員の雇用区分を越えて」
  page2 報告(1) 「これからの人材マネジメントの課題」
  page3 報告(2) 「「多様な働き方」への道筋」
  page4 報告(3) 「人材活用上の誤解と課題─雇用区分を越えて」
  page5 パネルディスカッション 「正社員・非正社員の雇用区分を越えて」

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