「適職」と「天職」
―キャリアマトリックス開発プロジェクトメンバーから、学生のあなたへ―

研究員 久保村 達也

今、多くの人が心を寄せている高名なスピリチュアル・カウンセラーの江原啓之さんは、その著書[1]の中で、フリーターやニートに言及して、こんなメッセージを発信している。

『〈適職〉で働きながら〈天職〉と出会うチャンスを探せばいいのです。』

はたして、まだとても若くて可能性に満ち溢れたあなたには、「適職」と「天職」の違いが、一体どれだけの実感を伴って理解できるだろうか?

「適職」も「天職」も似たようなものだと思っていないだろうか?

辞書をみても、ほぼ同じ定義をしているものは多い[2]。しかし、両者の間にはとても大きくて、決定的な違いがある。

「適職」とは、文字どおり「自分に適している職業」のことだ。自分の興味・関心・ワークスタイル・知識・価値観・スキルなどと合致している職業をいう。「適職」はこれらの指標を緻密に分析すると理論的に導き出すことができる。「適職」は一つとは限らない。いや、むしろたくさんある。どんな人にでも・・・・たとえ「仕事なんてキライ、働きたくない」という人にだって、かならず「適職」はある。その気になれば、きっと「適職」につくことができる。

その点、「天職」はちがう。「天職」とは、実際の仕事の現場で様々な思いを抱えながら自分を鍛え、その中で苦労とよろこびを味わい、「これが自分の天職だ」と実感できた人、そういう境地に立つことができた人が、覚悟と誇りを持って使う言葉だ。とても感覚的なものだ。「天」という、たいそうな文字を冠に戴いているだけあって、言葉にとても重みがある。悟りの境地にまで踏み込んでいるから、生半可に使うことなんてできない。「天職」というものは、その人にとって、この世にたった1つしかないのだ。だから、生涯、この仕事にめぐりあえない人もいる。

誰だって「天職」にめぐりあう可能性を秘めている。

「天職」にめぐりあうまでのプロセスも様々だ。最近、話題になっている有名なアルトサックス奏者は、40歳になる前まで、ある大手自動車メーカーの技術者をやっていたそうだ。高名な声楽家を両親に持ち、音楽への情熱を心の奥底に抱えていた彼は、27歳からサックスを始め、会社と音楽活動を両立させて、ついに「天職」につくことができた。興味深いのは、今でも、彼は当時の会社のことを誇りに思っているということだ。技術職は彼にとって「適職」だった。「適職」でいきいきと働きながら自分を磨き、完全燃焼したからこそ、思い切って「天職」へ旅立つことができたのである。

しかし、ひとたび電車の中を見渡すと疲弊しきったビジネスマンで溢れている。自殺する人は年に3万人にのぼっている。「適職」でいきいきと働いている人なんて、そう多くはいないかもしれないと思わずにはいられない。自分を押し殺して、自分に向いていない仕事を黙々とやっている人は、きっといっぱいいる。

だからこそ、自分自身がどうしたら輝けるのかを考えたい。「適職」でいきいきと働くことができれば、おのずから「天職」の扉は開けてくる。ぜひ、一度「適職」というものについて真剣に考えてほしい。もし、あなたが若いうちから「適職」にめぐりあうことができれば、たった一度の人生において、ものすごく幸せなことなのだから。

「適職」にめぐりあう方法は人それぞれだ。

もし、考えることが苦手ならば、余計なことに思いをめぐらせず、どんな職業であれ、一度、とにかく働いてみるのもいいだろう。きっと何かを感じるはずだ。

今秋、一般公開を開始したキャリアマトリックス[3]は、そんな「適職」にめぐりあうまでの道程を、共に手をたずさえて歩んでくれる、控えめな案内人だ。衆目を集める派手さはないものの、そこには長年にわたって調査研究し、蓄積してきた診断ツールや職業情報のエッセンスを惜しげもなく盛り込んでおり、自分の気付いていなかった思いがけない一面や新たな可能性を示唆してくれるだろう。

キャリアマトリックスに触れてみて、少しでも自分に向いている仕事について、本気になって考えてほしいと心の底から思う。そして、「適職」にめぐりあい、いきいきと働き、自分を輝かせながら働くことの苦しみと喜びを存分に味わって、いつか自分なりの「天職」にめぐりあうことができたら、開発メンバーの一人として、これ以上の幸せはない。

( 2006年10 月 13日掲載)


[脚注]

  1. ^ 江原啓之(2006) 『苦難の乗り越え方』PARCO出版
  2. ^ 天職「その人の性質・能力にふさわしい職業」、適職「その人にふさわしい職業」(スーパー大辞林)
  3. ^ キャリアマトリックス ミラーサイト
    http://cmx.vrsys.net
    http://cmx.hrsys.net
    http://cmxn.vrsys.net