ニュータイプの日本の雇用システム ―長期雇用と成果主義―

副主任研究員 立道 信吾

主流は長期雇用+成果主義の「 New J 型」

高度経済成長から安定成長の時代を通じて、終身雇用(長期雇用)、年功主義、企業別労働組合が「日本的雇用慣行」の三種の神器と言われてきた。ところが、 1990 年代後半から日本企業の雇用システムは劇的な変貌を遂げようとしている。我々が 2004 年に実施したアンケート調査[1]のデータを用いて、長期雇用と成果主義という二つの軸によって、日本企業の雇用システムを分類すると、 (1) J型(長期雇用+非成果主義)、 (2) New J型(長期雇用+成果主義)、 (3) A型(非長期雇用+成果主義)、 (4) 衰退型(非長期雇用+非成果主義)の 4 類型になる。分布をみると(第 1 図参照)、 New J 型( 38% )、 J 型( 30% )、 A 型( 18% )、衰退型( 12% )であり、長期雇用に加えて、成果主義という新しい仕組みを取り入れた New J 型が雇用システムの主流となっている。ではこうした変化はいつから始まり、どうして起こったのであろうか。

日本企業の雇用システムの分化

日本企業の雇用システムの分化

New J 型の企業の内訳に注目すると、 2000 年以降に成果主義を導入した New J 移行型の企業は、全体の 26% に相当し、 1999 年以前から成果主義を導入していた New J 先進型( 12% )の企業よりも割合が高い。では New J 移行型と J 型がなぜ分化したのか。 J 型と比較したときの New J 移行型企業にみられる特徴を明らかにするために回帰分析を行った結果[2]、 (1) 正社員比率が相対的に低い企業(=非正社員比率の高い企業)、 (2) 非正社員や外部人材(派遣・請負)を活用してきた企業、 (3) 差別化戦略(新技術・新製品の開発、競合するサービスや製品との差別化)を重視してきた企業といった点が明らかになった。

すなわち、 New J 移行型は J 型に比べて対象者が少ない長期雇用という特徴を持っている。成果主義が適用されるのは正社員が中心であることをあわせて考えると、少数の人材を長期雇用し、優秀な人材に対してはさらに成果主義的処遇を通じて動機付けを行うといった「正社員少数精鋭主義」を採っていることになる。この結果、差別化戦略を実現するために必要な優秀な人材の確保が可能になっていると思われる。これをコスト削減面から補強するのが非正社員や外部人材の活用である。以上の施策や戦略が密接に絡み合ったり、シナジー効果を発揮することによって、MucDuffie (1995)[3]など一連の SHRM 研究で議論されているような “束” ( Bundle )もしくはシステムを形成していることが予想される。

働く人の機会を保障するために

New J 移行型にみられる“束”は、成果主義や長期の教育訓練投資などを通じて資源が集中して投下されるグループと、資源が投下されないグループを分別する〈装置〉として機能する。しかも、これら二つの人材グループは、相互補完的な関係はあっても、一部を除いて、機能的な代替関係にない。そのため、企業内においてはキャリア形成の上での機会(資源)の均等化が困難な状況にある。仮に、企業の外で機会の均等化を行うとしたら、政府や学校教育にその役割が期待されるだろう。だが、“束”もまた日本企業の雇用システムの過渡的な形態であるかもしれず、今後の変化については、継続的な実証研究を通じて明らかにする必要がある。企業の内と外の両面から、全ての働く人の機会を保障できるような社会を今後も模索し続けなければならない。

( 2006年 8 月 23日掲載)


[脚注]

  1. ^ 民間の信用調査機関の台帳に掲載の従業員数 200 人以上の企業 11,865 社に対して調査票を送付。回収数は 1,280 票。正社員数の平均値は 781 人。詳細な結果は、労働政策研究・研修機構 ( 2006 ) 『現代日本企業の人材マネジメント プロジェクト研究「企業の経営戦略と人事処遇制度等の総合的分析」中間とりまとめ』 . 労働政策研究報告書 No.61 等を参照されたい。
  2. ^ New J 移行型と J 型の 708 ケースを対象としたロジスティック回帰分析による。有意水準 5% 未満の独立変数に注目した。統計的に有意でなかった独立変数は、従業員数、産業、売上高、正社員一人当たり売上高、利益額、総資産(業績指標はいずれも 1999 年時点)の他、経営戦略ではコスト戦略、人事施策では、従業員全体に対する教育訓練、一部の選抜された社員に対する教育訓練であり、社員教育に関する施策は“束”の外側にあることがわかる。
  3. ^ Macduffie, J. P. 1995. Human Resource Bundles and Manufacturing Performance: Organizational Logic and Flexible Production Systems in the World Auto Industry. Industrial and Labor Relations Review, 48 (2) ; 197-221.