インターネット調査法についての一問一答

JILPT情報管理課長 本多則惠

最近当機構が発表した『インターネット調査は社会調査に利用できるか―実験調査による検証結果』という報告書をもとに、社会調査でインターネット調査を利用する場合に知っておいていただきたいことを一問一答形式でご紹介します。 (報告書の関係箇所のページも記載しておりますので、詳しくはそちらをご覧ください。) 

Q: 「インターネット調査」ってどういう調査法ですか?

A: インターネット調査にはいろいろな種類がありますが、今回の研究では「調査会社が募集した回答モニターが、調査会社からの依頼に応じてインターネット上で調査に回答する」タイプの調査法(公募モニター型)を中心に検討しました。このタイプには「誰でもモニターに登録できる」「調査に回答すると謝礼がもらえる」という特徴があります。

<参考> 報告書No.17 p38~42 第II部 第3章 3.3 インターネット調査の登場と普及(PDF 1.1MB)

Q: なぜインターネット調査法について研究したんですか?

A: 社会調査では従来から訪問(面接/留置)調査法や郵送調査法が一般的ですが、どちらもかなりの費用と時間がかかりますし、徐々に回収率が低下しているという問題もあります。一方インターネット調査は「安く」「早く」実施できるので、社会調査で利用できればメリットが大きいのですが、モニターを使うなど従来型調査とは異質な面があるため、社会調査に適しているのかどうかについて、今回の研究で判断材料を得ようとしたものです。

<参考> 報告書No.17 p91 第III部 第7章 7.1 実験調査の目的(PDF 1.6MB)

Q: どういう実験調査をやったんですか? その結果は?

A: 当機構が以前に訪問面接調査法(調査対象者は住民基本台帳から無作為抽出)により実施した「勤労生活調査」と同じ質問を、"モニター型インターネット調査"4種類(うち3種は公募モニター、1種は非公募モニター)と"モニター型郵送調査"1種類(モニターは公募・非公募の混合)、計5種類の調査で同時に質問しました。

大まかに見ると5種の実験調査の結果はよく似ていました。訪問面接調査と比較すると、実験調査5種の回答者は訪問面接調査回答者よりも、属性では「高学歴」、「専門・技術職」、「非正規社員」が多く、意識では「平等社会よりも競争社会を志向する」、「生活に対する不満、社会に対する不公平感や健康・収入・老後生活に対する不安感が強い」といった特徴が見られました。

  従来型調査 実験調査
調査A 調査B 調査C 調査D 調査E
回答者はモニターか? 非モニター モニター
回答者の集め方 無作為抽出 公募 非公募 公募+非公募
データ収集方法 訪問面接 インターネット画面 書面(郵送)

<参考> 報告書No.17 p92~96 第III部 第7章 7.2 調査設計と分析方法(PDF 1.6MB)

<参考> 報告書No.17 p105~205 第III部 第8章 実験調査結果の分析(PDF 1.6MB)

<参考> 報告書No.17 p206~216 第III部 第10章 調査分析結果の要約(PDF 1.6MB)

Q: インターネット調査を訪問面接調査と比較していますが、訪問面接調査は正確なんでしょうか?

A: 今回比較対象とした訪問面接調査「勤労生活調査」は、調査対象者を住民基本台帳から無作為抽出しており、回収率も約 7割と高いので、統計学的にかなり高い精度が期待できるという点が最大の強みです。しかし若い人や一人暮らしの人などをつかまえにくい、質問によっては調査員には率直に答えにくいといった面もあり、訪問面接調査にも限界があることは事実です。

<参考> 報告書No.17 p27~34,p229~230 第II部

第3章 調査を取り巻く環境は急速に変化している<調査方法についての近年の動向>(PDF 1.1MB)

第11章 11.2.3 (3) 従来型調査の将来展望(PDF 1.6MB)

Q: インターネット調査と訪問面接調査の結果にはなぜ差が出るのでしょうか。

A: いろいろな要因が考えられ、今回の調査研究だけでは断言できませんが、「回答者の属性・心理的特性の違い」(インターネット調査と訪問面接調査では回答者の"タイプ"が異なること)や「データ収集方法の違い」(同じ人が、インターネット調査と訪問面接調査では違う回答をする可能性があること)が大きく影響しているのではないかと推測しています。

特に、インターネット/郵送、モニター公募/非公募という違いを超えて、5種類の「モニター型調査」に共通の特徴が見られたことから、「調査モニターになる人たち」には"リスクやチャンスに対する感度が高い"といった何らかの共通の「心理的特性」があるのではないかと想像されますが、この点についてはさらに検証が必要です。

<参考> 報告書No.17 p224~230 第III部

第11章 11.2.2 実験調査と従来型調査の意識調査の結果はなぜ異なるのか(PDF 1.6MB)

Q: インターネット調査はマーケティング・リサーチではよく使われているようですが、社会調査でも利用できますか?

A: 社会調査でインターネット調査を使う場合、調査の目的、調査対象、調査結果の利用方法・公表方法によって向き・不向きがありそうです。今回の調査研究結果を見る限り、少なくとも"各職業・各学歴の人たちからまんべんなく情報を得る必要がある調査"や"高い水準の代表性が求められる調査"には、インターネット調査は向かないといえると思います。

それ以外の場合でも、インターネット調査を利用する際には――他の調査法でもそうですが――、調査法の特性を織り込んで調査結果を利用・解釈することが必要です。そのためには今後、各種の調査法の特性についての情報が蓄積され、共有されていくことが望まれます。

<参考> 報告書No.17 p240 第IV部 第14章 社会調査の方法についての提言 (PDF 1.1MB)

Q: 今回の実験調査のデータを別の方法で分析してみたいんですが。

A: 実験調査 5種類の調査結果の個票データは、近日中に当機構のサイト上で公開する予定ですので、そのデータをダウンロードして分析していただくことが可能です。(なお、個票データには個人情報は含まれていません。)

調査研究の詳しい内容については、報告書等を当サイト内に掲載していますのでご覧ください。http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/017.html