新卒採用のしくみが動くとき

人材育成部門 統括研究員 金崎 幸子

日々緑が深まる季節、4月入社の新人もそろそろ緊張がほどけ、それぞれの職場になじんできた頃でしょうか。

この2~3年、新卒者の就職には若干の明るさが見えます。厚生労働省が5月16日に発表した今春新卒者の就職状況のデータをみると、3月末現在の高校生の就職内定率は前年同期より0.6ポイント上昇して98.2%1)、4月1日現在の大学卒業者の就職内定率も前年同期より0.5ポイント上昇して94.4%となっています2)。このまま来春に向けても環境の改善が続き、就職活動を続ける既卒者はもとより、これから活動の山場を迎える多くの学生が、職業人生への助走段階で消耗しきってしまうことなく、元気に新たなステージへの移行を果たせるようにと願うところです。

新規大卒者の採用スケジュールも、現在の3年生からは少し変わることになっています。現在の4年生までは、3年次の12月から企業の説明会やエントリーの受付などの広報活動、4月から面接などの採用選考活動というスケジュールで、内々定の最初の山は例年5月頃にありました。現在の3年生からは広報活動が3年次の3月1日以降、採用選考活動は卒業年度の8月1日以降に開始されることとなっています3)

大学生の採用活動のスケジュールは、あくまで経済団体における申し合わせレベルであることから、実効性を疑問視する声もあり、また、短期化により、かえって活動が大変になるのではという意見もあります。しかしながら、今回、政府からの要請を受けて企業の自主的申し合わせが動かされたという形でありながら、あまり大きな反発がなかったように感じられるのは、ここ数年の大卒採用・就職活動のあり方について、このままでよいと思っていた関係者がほとんどいなかったからでしょう。1年以上にもわたる長期の就職活動やネットを通した大量エントリーによって学生も企業も疲弊していくしくみに、多くの人が問題を感じ、見直しのきっかけを待っていたのではないでしょうか。

新卒の採用・就職のしくみが動くのは、時代の潮目が変わるときです。

近年の最大の節目は、企業側の申し入れにより1997年度から就職協定が廃止されたときだったと思います。当時、行政の担当者として廃止に至る経緯を見聞した限りでは、「守れない協定には意味がない」という企業側の通告に(守れないのはもっぱら企業側だったのですが)、押し切られた大学側の困惑は大きいものがありました。この時に顕在化した新卒労働市場の「買い手」と「売り手」の力関係は、景気動向による変動はありつつ、その後も基調としては変化していないと言えるでしょう。

「就職協定の廃止」というのは一つの象徴的な出来事でしたが、この時期以降、産業界にも教育現場にも大きな変化が続きました。協定廃止の協議では終始強気であった企業側でも、97年の金融・証券の破綻を皮切りに、当時の就職人気企業の多くが姿を変えました。大学もアカデミズムだけでは生き残れないという意識改革を迫られ、競うようにキャリアセンターを設立し、就職支援の充実を図るようになりました。変化の構造的背景として、97年から98年にかけて、新卒就職者における大卒者と高卒者の数が逆転したことも見逃せません。

雇用の制度やしくみは実体の変化に押されて動き、しくみの変更がさらに実体を動かします。新卒採用に関する今回の見直しは、大きな枠組みの変更を引き起こすようなものではないかもしれませんが、折しも、社会のさまざまな面で、見直し・改革機運が急速な盛り上がりを見せている時期でもあります。この先の成り行きに注目したいと思います。

(2014年5月30日掲載)