派遣労働はどの産業のものか

調査・解析部 情報統計担当部長 石原 典明

労働者数を産業別に集計する際、派遣労働者の産業を派遣先事業所のものにするか、派遣元事業所のもの注1)にするか。従事しているのは派遣先の事業であるから、派遣先の産業と考えるのが普通かもしれない。総務省「労働力調査」は、2012年以前は派遣元の産業で集計していたが、2013年1月分以降は派遣先の産業で集計するようになった。

これに関し、長年、頭に引っかかっていることがある。かつて派遣法ができた頃、私は事業所経由で行う賃金統計の調査に携わっていた。事業所の記入担当者に従業員の賃金を記入してもらう調査である。調査事業所では、受け入れている派遣労働者の賃金は本人に訊かない限りわからない。本人に訊いてもらうわけには行かないので、派遣労働者の賃金は、派遣元の事業所で記入してもらい、派遣元の産業で集計せざるを得ないことになる。派遣元に、派遣先ごとに派遣労働者分の調査票を作成してもらえれば、派遣先産業での集計も可能となるが、派遣元の負担が大きく現実には無理である。

そこで当時の上司に、「やむを得ず派遣元の産業で集計するのですね」と言ったところ、上司から予想外の反論があった。派遣労働者は派遣という形で派遣元の事業に携わっているから、派遣元の産業で集計するのも理に適うというのである。やむを得ずではなく、合理的である、というわけである。

そのときは腑に落ちなかった。派遣事業に従事していると言えるのは派遣会社の人であって、派遣されている人は違うのではないか、きっと言い訳のための理屈だろうとも思った。しかしその後、折に触れ考え、上司の思いを忖度すると(遅いので恥ずかしい限りであるが)、次のようなことであろうか。

派遣労働者の賃金は派遣元が払う。賃金は付加価値を分配したものである。ということは、派遣労働で作られる付加価値は、派遣元の事業のものということになる。派遣元の付加価値を作っているのであるから、派遣労働者の賃金も、派遣元の産業で集計すべきことになる。労働者数の統計も、賃金と併せて使うのであれば、派遣元の産業で集計すべきとなる。ちなみに、付加価値の集計である国民経済計算では、派遣労働は「対事業所サービス」と整理されている。産業連関表も同様である注2)

賃金は派遣元との関係で決まり、派遣元の付加価値が分配されたものである。賃金や賃金と併せて使う労働者数の統計は、派遣元の産業で集計することに理があるのではないか。労働者数を派遣元の産業で集計することにすると、派遣先の産業は派遣労働者を増やせば、同じ生産量を得るのに投入する労働の量が(統計上)少なくて済むことになり、おかしくなるのではないか?と考える向きもあるかもしれない。しかし、生産量を付加価値でとらえれば、派遣労働者を増やすと派遣元に払う派遣費用が増え、その分付加価値が減るので、この問題は生じないと思われる。

もちろん、派遣先の産業で集計した労働者数統計も、実際に働いている産業の状況がわかるという意味がある。労働安全衛生に関する統計など、派遣先も責を負う労働条件に関する統計であれば、派遣先の産業で集計する方がよいと考えられる。

結局、どちらの産業で集計するかは、統計の内容や用途をよくよく吟味の上、判断すべきことなのであろう。多様化時代の統計は扱いが複雑である。

  • 注1派遣元事業所の産業は日本標準産業分類にいう「労働者派遣業」とは限らない。例えば情報通信業の事業所が派遣元となる場合もあり得る。
  • 注2産業連関表では、産業は通常の統計調査のような事業所単位ではなくアクティビティ(生産活動)単位で考えられている。労働者派遣は「労働者派遣サービス」という一つのアクティビティとされる(例えば附帯表の一つ「雇用表」は、派遣労働者はすべて「労働者派遣サービス」に属するという考え方で作成される。)。

(2014年4月30日掲載)