労働組合に求められる役割

主任調査員 新井 栄三

当機構では、月刊誌『ビジネス・レーバ・トレンド』を発行しています。研究員・調査員が実施する調査研究の成果を紹介するとともに、調査員が日常的に収集している労働情報を載せる労働専門情報誌です。最新の6月号では、職場のいじめ・嫌がらせの特集と併せて、調査員が手分けして取材した2013春闘をレポートしました。

今春闘は、2月上旬、安倍首相が経営側に報酬の引き上げを要請。それに小売大手など内需系企業の一部が呼応して集中回答日前に年収アップを決めるなど、異例の展開となりました。製造大手は産業・企業ごとの業績等で一時金を中心に明暗が分かれ、後続の中小・中堅組合の交渉は不安を落とす形となりました。

このようななかで、ゴールデンウィーク明けまでの主要産別の動きを取材してみると、取り巻く環境は厳しいながらも、中小労組の地道な要求・交渉が実を結んでいるケースに少なからず遭遇しました。高年齢者雇用安定法や労働契約法の改正に対しても、構成単組の多くがその内容に沿った形で協議・決着しています。それら詳細については、弊誌6月号をお読みいただけたら幸いです。

さて、昨年度、研究部門が実施した労働時間に関する調査で、ある総合病院へのヒアリングに同行しました。看護師の柔軟な働き方について看護部長に話を伺ったところ、「私たちの職場は女性中心なので、誰かが育児や介護で休まねばならず、交代勤務のシフト変更の必要が生じると、『私も昔、それで大変だったから』『私も将来、そうなるから』といってくれるので、頭を悩ませることがない」と話していました。素晴らしい職場だと思うと同時に、価値観や雇用形態が多様化する一方のなかで、このような理解・共感を他の業種・職場にも求めることは、なかなか難しい気もしました。一般的には、まず自分一人で抱え込まずに理解を広げ、共感してくれる人を見つけることが必要なのでしょうし、もっと言えば、ここに労働組合の出番があるのだと思います。

単組の大きな役割は、そこで働く人の処遇向上のために会社に要求、交渉して労働条件の向上を勝ち取ることです。それは賃上げや人事制度の改善にとどまらず、諸制度の適切な運用や職場の安全衛生、セクハラ・パワハラなどの防止・解消など多岐に渡っています。育児や介護の休暇の利用状況をチェックして使いやすくする工夫を考えることもあるでしょうし、働く人がどういった悩みを抱えているかを把握し、その解消に動くことも大切です。もしも企業に組織再編や海外展開などの変化の可能性があるのなら、その動きに備えて事前に必要な対応を検討しておくことも含まれてくるでしょう。

労働組合がこのような取り組みを行うことは、企業経営にも決してマイナスではありません。連合はいま、「1,000万連合実現プラン」を策定して、連合未加盟の大手組合、中小未組織企業、下請け企業などの組織化に取り組もうとしています。「明日に架ける」と題する企業経営者向けのパンフレットを作成。経営者に向けて「時代はものわかりの良い経営者だけを求めてはいない」と明記したうえで、「労使があらゆる機会を通じ、話し合って問題の解決点を見いだしていこう」と呼びかけています。

労働者が働いていてトラブルに遭ってしまった時、やむを得ず一人で闘わざるを得ない状況に陥ることがあるかも知れません。ですが、基本はやはり集団的労使関係のなかで解決することを模索すべきです。また、労働組合には、組合員からはもちろん、組合員以外の人や会社側からも頼りにされる存在になってほしいと思うのです。

(2013年5月24日掲載)