自分の仕事について、きちんと子供と話したことがありますか?

主任調査員 郡司 正人

自分の仕事について、きちんと子供と話したことがありますか?お子さんは、あなたの仕事を説明することができますか?こんな質問をされたら、ドキッとする方も多いのでは。自分のことを考えても、連れ合いにさえちゃんと理解されていないかもなあなどと思う。たしかに、ほとんどのサラリーマンの仕事が、何々屋ですなどと一口で言い表すのは難しくなっているのは確かだが。まして、自分が職業につくまでのプロセス、どんなことを考えながら、何をして、どうして結局今の仕事に就いたかなんて、気恥ずかしさもあって、話したこともない。一番身近な親がこうでは、子供たちが働くということや社会に出ていくことに実感がもてなくなるのも当然だろう。中学校や高校など教育の場でも、働くことや職業について学ぶ機会は極めて少ない。子供たちが、将来に対して不安感を持っていらだち、時には社会不適応な状態に陥る場面も少なくないのは、こんな環境も一因だといっていいだろう。

働く人すべてが、子供たちにとってキーパーソンだという発想からスタートしたNPO「キーパーソン21」(朝山あつこ代表理事)は2001年から、会社社長から通訳、ミュージシャン、学者、小売業者など、さまざまな職業に就いている人たちから、働くことのすばらしさややりがいについて聞く出前授業を各地の学校で開いている。

朝山さんが活動をはじめたのは、長男の通う中学校の「学級崩壊」がきっかけだった。このときに考えたのが、やりがいを持って輝いて働いている大人たちの姿がきちんと子供たちの目に見えることの大切さだという。キーパーソンの話に触れることで、さまざまな生き方を知り、自分の人生を考え、将来に対する希望を持って、相互に支え合う社会の仕組を理解する。そんなプログラムがキーパーソン21の授業の特徴だ。

多くの子供たちが、将来の夢を持っているが、その夢に描かれる職業像はあまりにも単純。だから、「アニメが好き。でも、絵がうまくないからこの夢はダメ」というように、彼らは二者択一の選択肢しかイメージできない。この「好き」と「ダメ」の間には、本当はさまざまなオプションが存在するはずだ。出前授業の講師は、子供たちが自分に引きつけて考えやすいように、話しの中で子供の頃の夢に必ず触れ、どんなプロセスをたどって今の仕事に就いたのかを語る。「子供たちが、さまざまな職業を知ることによって、夢の実現の形や道筋に多くの選択肢が生まれ、将来を明るく感じ取れるようになったらいい」と朝山さんは考えている。例えば、サッカー選手になりたい子供の夢を実現する道は、単純に選手になるということだけでなく、新聞記者になって試合結果を知らせたり、チームの運営に係わることも、夢実現の一つの形だと考えられれば、夢を捨てる必要はなくなるということだ。

 人々の生活や心に近いところで、社会の隙間を埋めていくNPOの役割は、今や私たちが生活するうえで、なくてはならない存在にまで大きくなっている。これまで、この役割にもっとも近い領域で活動していたのは労働組合だったはずだが、内向きに縮こまってしまったかれらには、社会の現実に対して目を向ける気力さえないようだ。考えてみれば、労組役員の仕事をイメージできる子供なんてまずいないだろうな。大人でもいなかったりして。それじゃあ、さすがにまずい。と考える人が多いことを思わず祈ってしまう。

(2013年4月26日掲載)