職業を数値化してみると

副統括研究員 松本真作

2年ほど前に、このコラムで「職場や仕事を数値化してみると」という記事を書かせていただいた。内容は職場や仕事をチェックリストにより数値化すると、面白い傾向や社会としてそうあるべきという傾向も見られるというものでした。

そこで、今回は「職業を数値化してみると」ということで書きたいと思います。そもそも職業の数値化が必要と最初に実感したのは研究所に入った30年程前のことです。研究所では適性検査の開発を担当する部門に配属されました。当時から職業適性検査は様々なものがあり、広く使われていました。配属された部門で、普及し始めたPCを使った適職探索のシステムの開発も始めました。ところが、問題は、職業の側の基準がないことでした。適性検査や適職探索のシステムは開発できるのですが、その検査の結果、どの職業が適しているといえるのかに関して、職業の側の基準、すなわち、それぞれの職業がどのような適性をどの程度必要かといった情報がありませんでした。この情報がないと、検査の結果から適している職業を提示することができません。職業情報として文字での解説等はあったのですが、文字の情報そのままでは職業との対応関係を示すことはできません。仕方なく、検査で測定される特性のモデル等から、適性と適職の対応表を作成したり、米国の基準等を参考に対応表等を作成していました。もっとも米国でも十分な数のデータに基づき適性と適職の関係を示していたわけではなく、この程度しかデータがないのかと思われることがしばしばありました。

それから三十数年が経ち、インターネットの普及とともに、数百万人のWebモニターが使えるようになりました。Webサイトとして情報収集システムを作ることによって、職業を細かく特定し、その職業に関して必要なスキルや知識等々を細かく数値化して情報収集できるようになりました。これにより、網羅的な何百の職業に関して、何万人ものデータを収集することができるようになりました。

このように網羅的な職業に関して、基準ともいえる数値化ができると、様々な応用が可能になります。まず、第一に、30年来の懸案であった検査等の結果から、どのような職業に適性があるかという対応をデータに基づき示せることです。第二に、職業と職業を比較することもできます。数値化されていない職業情報は解説等の文章ということになりますが、その文章を読んで似ているか似ていないか判断する、あるいは各人のイメージの中で似ているか似ていないかを判断することになります。これは判断する人の主観やイメージによるものといえます。職業が多面的に数値化されていれば、その数値によって職業を比較し、この面でこの程度、類似している、あるいは類似していないということを客観的に示すことができます。このことは例えば、転職を考えている人に、ある側面で類似している職業にはこのようなものがありますとデータに基づいて示すことができることにもなります。第三に、多面的に数値化した職業の各側面を統合し、職業と職業を全体として比較することによって、類似している順番に職業をリストアップすることもできます。求人の職種を限定してしまうと、中々、応募先が見つからないものです。客観的なデータに基づき、類似の職業を提示できれば、就職の可能性を広げることができます。以上以外にも職業を数値化し、職業毎の基準となる数値があると、様々な応用が可能になり、有益な情報を色々と提供することができます。求人求職やキャリアガイダンスにおいて基盤となる情報の一つといえます。また、文字での職業解説は、中々、学術的、科学的な研究にはならないのですが、職業を数値化すればそのデータをもとに多変量解析を行う等、様々な研究も可能になります。

このWebシステムでの職業に関する情報収集は今後も項目やカテゴリを検討したり、システム自体を改善し、より的確な情報収集ができるようにしていく必要がありますが、別の方向への発展も考えられます。今日、仕事の現場は激しく変化しています。新しい装置が導入され、仕事の仕方がまったく変わったとか、世界的な情勢変化で職場がガラっと変わったとか、このような例はいくらでもあります。リアルタイムで仕事の状況把握ができれば、現場で今、何が起こっているか、職場の今の実情はどうか、急に人手不足になっている職場はないか等々、求職者が知りたい現場の実態や求人企業にも役立つ情報を収集することができます。Webシステムによって網羅的に職業情報を収集できるようになりましたが、次のステップは、リアルタイムの情報収集と考えています。

(2012年8月3日掲載)