「雇用循環」の現段階

JILPT主席統括研究員 浅尾 裕

景気循環の系をなす「雇用循環」についてみてみたい。

人間は多様な生き物であり、少なくとも相反するといってもいいだろう二つの傾向を同時に併せ持っている。陽と陰、躁と鬱、強気と弱気(ブルとベア)、交感神経と副交感神経、ジギルとハイド、サドとマゾ、などなどである。こうした相反するといってもいい二つの傾向が強くあると、物事は安定せず、行ったり来たり、つまり循環を表すことになる。ケインズと同時代を生きた経済学者であるハロッド卿の『景気循環論』(東洋経済新報社刊)を昔読んだとき、冒頭に「人間的要因」という章がありワクワクしながら読んだものの、こうした話がまったく出てこなくてがっかりしたことを思い出す。私は、景気循環には上記のような根源的な原因があるので、技術革新がどんなに進もうと、決してなくならないと考えている。

「なると」のウズ

景気循環では四つの局面を論じることが多い、その際横軸に在庫、縦軸に生産をとったグラフ(前年同期比)を書いて表すのが便利である。少なくとも製造業について描けば、比較的きれいなグラフとなり、「の」の字を描くことが多い。ちょうど四国の名産「なると」のかまぼこの模様のようになる。

この着想を借りて、私はときどき「雇用循環」として「なると」のウズを描いてみている。このコラムの執筆を機に、現下の景気回復期における「雇用循環」のグラフをチョコチョコと描いてみたので紹介したい。

(1) 所定外労働時間と常用雇用

もっともオーソドックスなのが、厚生労働省「毎月勤労統計調査」のデータを使って、横軸に常用雇用、縦軸に所定外労働時間をとったグラフである(図1)。実は製造業だけで描けばもっと綺麗なグラフになるのではあるが、それではミス・リーディングになる危険があるので、敢えて調査産業計のものを掲出した。少し見にくいかも知れないが、我慢してみていただきたい。期間は、平成 13年第Ⅰ四半期から同16年第Ⅱ四半期までである(以下同じ。)。

図1によれば、平成 14年には「所定外時間増&雇用減」の局面にあったものが、15年に入って「所定外時間増&雇用増」の局面に移り、平成 16年第Ⅱ四半期にははっきりと「雇用増」の局面に入ったといえそうである。

(2) 雇用者数と完全失業率

図2は、総務省統計局「労働力調査」データにより、横軸に完全失業率、縦軸に雇用者数をとったものである。詳細な読み込みは読者にお任せするが、平成 15年後半あたりから「雇用増・失業減」の局面に入ったといえようか。

(3) 一般雇用とパートタイマー雇用

図3は、まだまだ試作の域を出るものではないが、「毎月勤労統計調査」のデータを使って、横軸に一般雇用、縦軸にパートタイマー雇用をとったグラフである。平成 16年に入ってパートばかりでなく一般雇用にも「動意が見られる」とでもいえようか。

今後の推移に注目

注意しなければならないのは、上記のような分析は「あったこと」を記述するもの以上のものではないということである。これらの図から直接に今後を占うことはできない。今後はやはり種々のデータを丁寧にフォローしていくほかはないであろう。ただし、そうしたフォローをする際、頭を整理するのに少しは役立つのではないだろうか。