高齢者の住み慣れた地域での暮らしを誰が支えるか

研究員 堀田 聰子

「おはようございます」朝7時、ヘルパーがハルさんの家にやってくる。「花柄にしましょうか?」今日の服を一緒に選ぶとオムツを替え、着替えて、ベッドから車椅子に移乗する。ヘルパーが熱いタオルを渡すと、ハルさんは自分で顔を拭き始める。「お天気になりそうですね」ヘルパーはハルさんと話しながら、レトルトのおかゆとお味噌汁、娘さん作りおきのおかずを手早く並べて朝食をセットして帰っていく。ハルさんの1日が始まった。

しばらくすると「おはようさん」ナツさんの声。ハルさんの食事が終わったことを確認して、ゆっくり2人でお茶をすする。30分もするとお皿を洗い、家じゅうのゴミをまとめ、「また来るね~」といって大きなゴミ袋を両手に出ていった。ナツさんはハルさんの幼なじみ。ゴミ出しの日は有償ボランティアとしてハルさんの家にやってくる。

もうすぐ10時。ヘルパー来訪。車椅子からベッドに移乗してオムツを替える。この間わずか10分足らず。

入れ替わりに今度は看護師が。「お変わりないですか?」体温・血圧を測りながら話しかける。褥瘡(じょくそう)の処置を終えると再び車椅子に戻る。

そろそろ正午。「こんにちは」ハルさんはお昼と夜、配食サービスを頼んでいる。今日のメインは筑前煮。テレビをつけ、ヘルパーから聞いた口腔体操をすると「いただきます」。

13時過ぎ。今日3回目のヘルパーだ。食後の薬を促すとオムツ交換。

その頃、隣町に住んでいる娘がやってきた。ハルさんを前にヘルパーに最近の様子を聞き、ヘルパーを見送ると、洗濯機をまわし始める。と、「今日は涼しいから一緒に」ハルさんを連れて近くのスーパーに。彼女は1週間に1~2度やってきてまとめて洗濯をし、生活用品や朝食の食材やレトルト、惣菜を買出し、いくつかおかずを準備する――。

ところ変わってアキさんの家。「かあさん、起きてるか?そろそろ着替えろよ」東京の息子から毎朝お決まりのモーニングコールだ。

アキさんはひとり暮らし。要介護者の状態にあわせて通い・訪問・泊まりのサービスを組み合わせて提供する「小規模多機能型居宅介護」を使って自宅での暮らしを続けている。

朝8時。フユさんが来た。アキさんと一緒に冷蔵庫を覗いてパンと牛乳、果物の朝食を整え、ときどき食べることを忘れそうになるアキさんに声をかけながら、デイサービスに行く準備をする。実はフユさんはご近所さん。ヘルパーの稼働が集中する朝、なじみの関係を生かしたケアをと、ケアマネジャーのアイデアでフユさんは職員として採用された。小規模多機能型居宅介護の介護職は無資格OK。68歳の介護職デビュー、週3回、アキさんの家だけで働いている。

「そろそろ行こうか」フユさんの誘いかけでアキさんは歩いてデイサービスへ。途中で行きつけの店に必ず立ち寄る。ここで水をもらって薬を飲むのだ。アキさんは、一時夕方になると荷物をまとめて出かけるようになり、心配した町内の人が、出かけるときはいつも店に寄る習慣を作っておけばいいのでは?と発案したのだった――。

ハルさんとアキさんの半日。さまざまな人やサービスが登場した。

私たちは誰でも年をとれば手助けが必要になる。必要とする手助け・したい手助けはなにか。したい生活・支えたい生活は、どのようなものか。そのなかで、介護保険および介護職が担うべき範囲はどこまでか。

24時間365日の安心は、介護保険だけでは得られない。「自助」を基本として「互助(家族・親族、近隣・仲間によるインフォーマルな支援)、「共助(介護保険・医療保険などシステム化された支援)」、「公助(選別的な社会福祉)」をどのように組み合わせ(役割分担)、社会全体のケアワーク(ケアの担い手)を質・量両面から充実させていけばよいのか――。

付記)現在、労働政策研究・研修機構では、「高齢者介護サービス提供体制充実に向けた調査研究」のなかで、ひとり暮らしの認知症の方々がどのようなケア・サポートを受けながら在宅での生活を継続しているかの調査を行なっており、調査結果は今年度中に取りまとめられる予定である。

(2011年9月9日掲載)