人口と少子化

特任研究員 奥津眞里

日本の人口は多いのか、少ないのか。少子化で人口が減少をはじめ、労働力人口が将来は減少する、このままでは社会の活力が失われる…といわれる。社会の中で働く人の数が減れば、その社会の生産活動に影響するとの心配はもっともである。

だが今ひとつすっきりしない気分でいる。では、日本の人口の大きさはどのくらいが良いのかというはっきりした数値に触れることがないからである。当方を納得させてくれる「お言葉」が欲しいのである。いや、実は思っているだけでなく、周囲に質問をしたことが何回かある。仕事柄から周囲には社会現象と人間行動に関する科学分野の研究者が多数活動している。その環境でも、ずっと疑問は解けていない。

その一方で、クリアな数値を回答として挙げられたらもっと複雑な思いになるに違いない。人口は増える方がよいとか、今のままでよいとかと簡単にはいえない。若い年齢層を増加させつつ総量規制をするなどの選択は考えられないであろう。食料問題や国土の広さも考慮する必要がある。地球上で孤独な国として存在できないし、他の国の動きもある。そして、国民が自分と家族のために何を望み、そのためには何を耐えてよいと考えるかを大切にする視点が欲しい。ただし、国民の生き方を決めつけられるのは困る。本当に難しい。この問題の回答を手に入れられないでいることは健全だという思いもある。

日本の人口は約1億2,700万人、国別では世界10位である(WHO世界保健統計2010)。日本という国は、きわめて大雑把に言えば言語は一種類で足りるし、国内交通アクセスや通信システムはなかなかである。国内だけで1億人を相手に経済活動ができると考えると、それなりの生活は可能なので物質的な豊かさや経済活動のあり方を少々見直す覚悟があれば多少の人口減少や高齢化はよいのではないのかという考え方もありそうに思う。しかし、それには将来まで安全に豊かに暮らしていけるという保障はない。短期的にも国内外で国民生活に重大で深刻な打撃をあたえる事態が発生しないとは限らないという問題がある。

だからといって、少子化の原因を女性の出産・子育て意欲にのみ求めて、あっさりと、「出生率を上げよ!」というのは待って欲しい。若い男女への産めよ増やせよの圧力になりかねない。子は社会の宝だが、基本は!本質的には!両親となるカップルの相互の尊敬と暖かい交流の中で生まれ育まれる命ではないか。基本が大切に守られる仕組みを信頼したい。

家族の幸福を目指す善良なる国民の家庭に家族計画があるように国には人口計画がある。その計画と絡んで国民の生活様式を見直すことがあってよいと思う。そのとき、日本だけの経済的繁栄ではなく、国際協調と地球の平和に貢献する将来計画としての意味をもたせたいものだ。少子化と人口減少については短・中期的な経済発展や社会保障負担の軽減だけでなく、人類史の流れに耐えて国を守り、発展させるための戦略として考えてもらいたい。ここで、質疑応答。問:「考えてもらいたいって誰に?自分ではどうなの?」答:「みんなに。自分には手に負えそうもないし…」。ここで、どこからか「そんなことで適正規模がどうとかと発言するとは愚か者ッ」との声が響いてきそうなので、小さくなってペンを置きます。

(2011年2月25日掲載)