街づくりとしての子育て支援

JILPT研究員 青木 章之介

コミュニティ・デヴェロップメントとしての子育て産業

これまで「街づくり」という意味での地域開発(コミュニティ・デヴェロップメント)政策がきちんと考えられたことは少なかったように思う。が昨今、街の景観づくり、地域エコ通貨、震災時の助け合いネットワーク、NPO法制化などが互いに刺激しあい、具体的なイメージが形成されつつある。

その中で保育所についてみてみたい。立地や組織形態の観点から見ると、市町村の公有財産の貸し付けによる私立保育所の運営は、大都市ではより多く実施されている(厚労省「地域児童福祉事業等調査」)。学校等(小・中学校、幼稚園)の目的外使用許可もある。

保育所の運営組織をみると(総務省「事業所・企業統計調査報告」)、地方公共団体(ほとんど市町村レベル)が事業所数で中心であり、民間では会社以外の法人(財団・社団、学校・宗教・医療法人、協同組合、NPOなど)が事業所数で中心となっている。個人業主、株式会社、有限会社もある。

ファミフレ・ブランドの価値

10年以上も前、大学の調査実習を担当した折り、学生の間で育児支援の問題が結構まじめに議論された。ちょうど大手企業が、企業附帯託児施設をファミリーフレンドリーとして雑誌などに紹介されていた時期で、女子学生が就職先として関心をもったためらしい。現在では、これに代わり「環境」が優良企業のブランドとなった。いずれ「環境」も消費者に対するアピール度は逓減していくだろう。こうしたものが継続して整うためには、消費者に向くだけでなく、企業の受注資格として例えばファミフレ度などが活用されてもよいはずだ。

「お父さんの地域デビュー」ということばがある。父親が働き方を見直し、地域の子育て活動に参加することを意味する。私事になるが、保育園の送り迎えは、1子、2子と足かけ9年ぐらい私(父親)が担当した。保護者会にも男一人で顔を出した。学童保育にもお世話になった。結局、顔は毎日合わせなくても「お母さんの子育てネットワーク」の方が最終的には機能して、「お父さんの地域デビュー」は単なるお手伝いに終わった感がある。しかし公立保育園で、衛生環境、対応、食事、広がる園庭と、満足度・安心度は高かった。1子の時は0歳児保育の空きがなく、3ヶ月ほど保育ママさん制度にお世話になった。時間が9時~3時までで、また隣駅まで電車で送り迎えをしなければならなかったので、少し大変であった。「子育て産業」の重要性を思い知ったといえる。

立地問題の一解決法としての「地域トラスト」

街の再開発にかかる障害の一つは、地権者の強い土地保有意向であり、再開発が実現したとしても、テナントは過大投資等に苦しむ。この解決法の一つが「地域トラスト」であり、地権者所有権を保持したままで、土地利用の柔軟化を図るものである。地域雇用の受皿、さらには多様なサービス業の苗床としての機能も期待されている。

保育サービス事業の立地の側面から考えてみると、とくに「駅前型」保育事業について有効な手段であるかもしれない。土地信託を契機に地域住民の参加がなされるから、受託法人としてNPOを設定し、立地条件として危険の少ない効率的な場所を保育サービス事業所として提供するような「居住地区型」保育サービスも考えられる。この点については今年度、実情把握を行う予定である。