「報われない」職場とメンタルヘルス

調査員 米島康雄

先日、メンタルヘルス対策関連のセミナーを取材していた際、講師のある言葉にはっとさせられた。それはメンタルヘルスの不調を引き起こす要因のひとつとして、紹介された「報われない職場」だ。私はその時、知人から聞いたある職場の実態を思い出していた。

その知人はある公的な機関の管理部門で働いている。一部の民間企業のような極端な長時間労働が行われているわけではないが、それでも、近年、個人の業績が問われるようになり、時を同じくしてメンタルヘルスに不調を訴える者がぽつりぽつりと現れだした。彼の職場の職員数は150人程度。そんな小さな組織にもかかわらず、ここ数年の間に彼が知っているだけでも5人がうつなどで休職しているという。潜在的なメンタルヘルス不調者も含めれば、もっと数は多いのではないか。彼の職場では何が起こったのか。――

彼は自分の職場が「報われない職場」だと常々こぼしていた。理由を聞くと、彼は入社以来、上司から「きちんと」褒められた記憶がないからだという。例えば、上司との面談の場で「よくがんばった」と言われることはあるが、彼に言わせるとそれは形式的なものでしかなく、「きちんと」褒められたことにはならない。彼の考える「きちんと」褒めるとは部下の良い点や成果、そこに至るための努力や工夫などを把握した上で、具体的に評価することだからだ。だが、その職場では彼の上司に限らず、部下を適切に褒めることができる上司は少ないという。

さらに聞くと、彼の職場が「報われない」のは「褒め下手」な上司が多いことだけではない。彼の職場では組織のミッションが曖昧なため、職員が自分の役割を認識し、使命感を持って働くことが困難な状況にあるそうだ。仕事の方向性で迷うことが多く、上司に相談しても明確な答えが返ってこないことも珍しくない。彼の職場は業務が縦割りで行われることが多く、同僚との横の連携が少ないため、自分の行っている業務についてフィードバックを受ける機会も乏しいという。

こうした状況の中で働いていると、「自分の仕事のやり方が正しいかどうか悩むことが多くなり、仕事をやり遂げても達成感ややりがいを感じられなくなる。こんな小さな組織にもかかわらず、メンタルヘルス不調者が出てくるのは、直接的にではないにせよ、そのことも大いに関係しているのではないか。」それが彼の言い分だった。

確かに「報われない職場」というだけでは、メンタルヘルスの不調にはつながりにくいかもしれない。だが、「報われない」ことが長時間労働と結びつくと、メンタルヘルス不調の発症率が格段に高まるのだろう。

最後に、先日取材先で聞いた話を紹介したい。前述の知人の話とは逆に「報われる職場」すなわち、やりがいのある職場であれば、ある程度、仕事がきつくても不調を起こしづらいという。あなたの職場は大丈夫だろうか。

(2010年7月23日掲載)