グローバリゼーションのゆくえ

JILPT研究員 中村 良二

世界を駆け巡るモノ、カネ、情報

日本企業が海外へと進出する、そして、海外企業が日本へと乗り込んでくる、そうした状況がごくあたりまえのこととなって、もう実に長い時間が流れている。

「日本企業と外資系企業との差異」といった言い方をすることがあるが、ふと考えてみれば、世界的に名前を知られる日本企業の中で、まったく外資が入っていない企業は、どれくらいあるのだろうか。モノ、カネ、情報がものすごい勢いで、世界中を駆け巡る。そのスピードはさらに速くなることこそあれ、逆はないであろう。それでもなお、ごく普通の人は、ごく普通に、およそコミュニティの範囲で生活を続けているのであり、いつも国境を越えて動き回っているのは、ほんのごく僅かな人たちである。

急速に変化する中国

2001年11月、中国のWTO加盟が認められた。基本的には、13億人の市場がすべての企業に開放されたのである。やはりわが社もと考えた企業も、現在考えている企業も、少なくはないであろう。およそ3万社ほどのわが国企業が中国へと進出している。

ある調査によれば、中国に限らず、日本企業が海外へと向かったのは、「国際的な生産・流通網構築」や「現地市場の開拓」を目指したためである。そうした中で、中国に進出した理由は「労働力の確保・利用」と「日本への逆輸入」が際だって高い。製造業を念頭におくならば、ごく当然のことであろう。ただ、中国もやはり想像をはるかに超えるスピードで変わり続けている。

労使関係が重要課題に

沿岸部を見れば、安いはずの労働者の賃金は、急速に上昇しつつある。著名な社会学者である陸学芸氏らによる近年の研究は、控えめながら、中国が急速に階層分化しつつあることを明らかにした。以前であれば、こうした研究が公表されることなどあり得なかった。

そして、日本企業の関連で特にこれから重要となるのは、中国における労使関係の問題である。中国には「工会」という労働組合に似た組織があり、しばしば「組合」と翻訳されてきたが、これは誤りである。労使対立がないはずの社会では、組合など存在し得なかった。党の下部組織である「工会」が、日中合弁企業の経営に対してどういった影響を及ぼし、中国的労使関係の中で真に従業員の利益代表となり得るのであろうか。労使関係とコーポレートガバナンス、これは、経営にいろいろと関わってくる地方政府と共に、今後の日本企業にとって、最重要課題の一つとなろう。

中国企業による買収も

両面印刷に関する非常に優れた技術を持ってはいたが経営破綻してしまった日本企業が、中国企業に買収された。改革・開放体制で着々と力を蓄えた中国企業は、わが国企業を買収することが可能となったのである。傑出した例であることは承知の上であるが、わが国企業の海外進出だけに注目していればそれで事足れりという時代でなくなったこともまた事実であろう。

国境を簡単に越えるキギョウと、そうは簡単に越えられない普通のヒトが、中国で、そしてわが国で同居する時代がやってきた。グローバリゼーションの進行は不可避であろうが、誰のためにどれくらいいいことなのか、答えはそう簡単には出そうもない。