職場の危機管理、家庭の危機管理

副統括研究員 渡邊 博顕

人間関係から天変地異まで、危機管理の重要性が指摘されているが、このコラムをご覧の方達の職場や家庭ではどうだろうか。

先日、台風18号が日本を縦断した。首都圏で風雨のピークは10月8日午前中ということだったが、窓の外の風雨は思ったほどひどくないようだったので、いつも通りに出勤することにした。

私はふだん地下鉄を利用して通勤しているので天候の影響は比較的小さい。出がけのラジオ放送によれば、路線によっては電車の運転を見合わせているという。とりあえず行けるところまで行こうと思い最寄りの駅に行くと、おそらくJRから振り替え輸送を利用する人たちだろう、改札もホームも人があふれている。超満員の電車を1本見送り、次の電車に乗った。普段は混雑するといっても新聞や本を読めるくらいなのだが、この日はまったく身動きがとれないほど込んでいた。JR線が止まっているとの車内放送が流れる。そのせいか、駅ホームはどこも非常に混雑しており、乗降車にも時間がかかる。電車内は冷房がはいっているにもかかわらず汗が流れるくらい暑かったが、意外なほど静かだった。

乗り換え駅のホームに降りるとすぐ大勢の人が携帯電話を操作しはじめた。勤め先や取引先に連絡したり、目的地への経路検索をしたりしているようだ。地下鉄の別の路線に乗り換えると、ここも満員。地下鉄からさらに私鉄に乗り換えた。ホームの向こうに止まったままのJRを横目に、電車が走り出した。この日、出社時間が普段より10分ほど遅かったことを除けば、仕事に関しては何も変わりなかった。

この台風による首都圏の鉄道の運休で300万人以上の人に影響があったという。稼働を停止した工場、休校にした学校もあったようだ。台風の影響で出勤できなかった人は皆さんの職場ではどれくらいいただろうか?その人達の仕事はどのように処理されたのだろうか。自然災害だけではなく、新型インフルエンザなども職場や家庭で対応が迫られているけれども、どうもピンと来ない。

自然災害を含めて起きてしまったクライシスに職場や家庭、そして個人はどう対応したか、寡聞にして断片的な情報しか知らない。阪神・淡路大震災、新潟・中越沖地震、岩手・宮城内陸地震では人的被害とともに産業への被害も大きかった。新潟・中越沖地震の時には自動車部品工場が被災し、自動車メーカーの多くが国内工場の操業を停止したことを思い出す。

いつどこで大規模な地震が起きてもおかしくないといわれているけれど、私が職場で壊滅的な地震に遭遇し、幸い無事であったとしよう。仕事関連のデータは職場のPCに保存してあるが、停電になれば使えない。職場から帰宅するにしても公共交通機関が利用できなければ、移動は徒歩となる。私の場合、職場から帰宅するには約20キロ歩かなければならない。平常時であれば4~5時間かかるだろう。しかし、それはあくまで地図の上での話。道路の損壊、二次災害、混雑が予想される。何時間かかるのか予想が出来ない。せめて職場から自宅まで歩けるようにしなければと思っている。

(2009年10月30日掲載)