適性検査の開発と役割をめぐって

主任研究員 室山 晴美

最近、携帯電話を使って、職業適性(興味)を簡単に調べられるツールを作った。「適性発見ナビ」という名称で、厚生労働省がこの春に公開した就職支援のための携帯サイト「キャリモバ.jp」で参照できるサービスの一つとして組み込まれている。2100年の宇宙都市を舞台としたストーリーの中で、主人公になったつもりで質問に回答していくと、最後に自分の職業興味のタイプが示されるという流れになっている。ただ、適性検査というイメージでみると、「適性発見ナビ」については、‘これで適性がわかるの?’と思われる方も多いだろう。

実は、このような作りにしたのには理由がある。携帯サイトは、いつ、どこでも、誰でも参照することができ、その分、伝えたい情報を多くの人に広く提供するには非常に優れた媒体である。一方、診断や評価というニュアンスを含む心理検査は、通常、検査に習熟した専門家が適切な環境で実施することが条件となる。携帯サイトやWEBサイトのように、時間、場所、人を選ばない環境で検査が使われる場合には、信頼性が確保できるかという点も気になるが、特に、利用者に与える影響が心配だ。自分の希望と違う結果が示されて大きなショックを受ける利用者が現れる可能性がないとも限らない。

このようなリスクを避けるため、「適性発見ナビ」は、測定という点での信頼性の高さを検証した上で、できるだけ‘心理検査らしくないツール’として開発する方針をとった。最後の結果の表示についても、あえて詳細なプロフィールや具体的な職業名の表示はやめて、「こんな仕事が向いている」程度のコメントの表示にとどめている。

本来、心理検査とは、個人の特性を正確に測定し、多くの人と比べた時の個人のレベルを客観的に位置づける目的で使われる専門的な道具である。標準化という大規模なデータに基づく統計的な手続きを経て作られ、測定の精度を保証するために、実施条件は厳しく、結果の扱いも慎重に行う必要がある。一方で、現場は、必ずしも精密な測定の道具としてのツールだけを求めているわけではない。特に、職業相談に関しては、適性を正確に測定して適職が示されたとしてもその仕事に就けるとは限らないので、あくまでも結果は、自己理解、参考資料として扱われることが多い。また、若者向けには、職業意識を高めたり、適性に目を向けるきっかけ作りとしてのツールが求められることもある。そこで、検査の開発者は、精密な心理検査から意識啓発のための検査まで、利用場面や目的に合った様々なレベルでのツールを適切に提供する方法を考えることになる。検査の精度を確保しつつも、扱いやすく、リスクの少ない検査を作るために行う調整は、非常に難しく葛藤の伴う作業である。

冒頭に紹介した「適性発見ナビ」もこのような葛藤の中から生まれたツールである。最終的には、自分の適性を考えるヒントを示すツールとしてのコンセプトに落ち着いた。携帯サイトを使ってみてもっと詳しい適性を知りたいと感じた方は、心理検査を行ったり、適性相談を受けられる就職支援機関をぜひ利用していただきたいと思う。

(2009年6月12日掲載)