フランスの「日曜労働解禁」

調査員 町田 敦子

年明け早々、調査でフランスを訪れた。まるで私たちの到着に合わせたかのように、ヨーロッパは何十年に一度という寒波に見舞われ、滞在中は、パリでも最高気温が氷点下という日が続いた。最近では滅多に見られないというパリの雪景色の中、至るところに「solde」の赤い文字が躍っていた。聞けば冬のセールが始まったのだという。パリでの生活が長い日本人の通訳者は、「年に2度のこのセール時だけは、フランスでも特別営業や営業時間の延長がある」と言っていた。その言葉に、昨秋から話題になっていた日曜労働解禁の議論を思い出した。

日曜労働の解禁は、金融・経済危機への対応策の一環として、昨年10月末にサルコジ大統領が打ち出した行動計画の一つ。しかし、キリスト教の伝統から「安息日である日曜には、労働をしない」ことを原則とするフランスの社会規範に関わる問題だけに、野党だけでなく与党内からも反対論が強かった。「働きたい人が、より働き、より稼ぐ」をスローガンに掲げる同大統領は、12月中旬、そうした与党内の反論を押し切り「報酬は2倍、希望者のみで拒否権も設定する」とした「日曜開店法案」を、半ば強引に国会に提出したものの、審議は難航した。

フランスでは、労働者は連続して週6日以上労働してはならず、日曜日を休息日とすることが、労働法典に明記されている。ただし、交通機関や病院、飲食業、報道機関、そして法定指定観光地域などは、例外措置として日曜日の営業が許可されている。こうした例外措置は180ほどあり、また、日曜日の営業許可に関する裁判が頻繁に行われているという。フランスの国立統計研究所(INSEE)によれば、日曜日にも働いている人は現在740万人ほどで、そのうち日曜日の労働が慣例化している人は340万人にのぼる。こうした現状から、「『日曜日は労働してはならない』という規定は現実からかけ離れているし、日曜日も店を開けば従業員の給与アップと購買力の向上に繋がる」というのがサルコジ大統領の主張だ。

これに対し、野党は「労働者の権利を侵害し、社会構造を狂わす悪法」と激しく攻撃、労組は「そもそも賃金がもっと高ければ、日曜日の労働など必要ない」と猛反発を示した。

そして教会だけでなく、与党内からも「キリスト教文化への挑戦」とする反対論が上がっていた。結局、法案提出後も与党内の意見がまとまらないまま年明けを迎え、当初1月15日に再開することになっていた法案審議は、「無期延期」が決定した。

この議論についてどう思うか尋ねてみたところ、パリ在住が長い件の通訳者は笑ってこう答えた。「この国では、『日曜日には店は開いていない』というのは当たり前のこと。例えば、日曜に電球が切れて部屋が真っ暗になっても、月曜の朝を待てばいいだけのこと。確かにフランスに来た当初は、『なんて不便で不親切な国なんだ!』と怒っていましたけど、今では慣れました。だから時々、日本に帰国すると、あまりにも日本が便利過ぎて、驚くというか、かえってなんだか違和感を覚えますね。」と。

日本ではいつの間にか、百貨店の毎月の定休日は消え、正月も2日から通常通りに営業し、「24時間営業」を掲げる店はもはや珍しくない。街は、そうした店が放つ煌々とした光で夜中でも眠りに就くことはない。ライバルに勝つため、「少しでも営業時間を長く」という経営者側に対し、利用者側の「便利さの追求」もとどまるところを知らない。長時間労働の解消や、ワーク・ライフ・バランスの実践などが叫ばれる今、この「便利さの追求」についても一度考え直してみることも必要なのかもしれない。

(2009年2月10日掲載)