キャリアマトリックス公開から2年

副統括研究員  松本 真作

キャリアマトリックスとは 2006年9月に一般公開を開始した総合的な職業情報サイトである[1]。キャリアマトリックスでは約 500の職業に関して仕事の内容や就職経路、その後のキャリア、労働条件の特徴、職業を多面的に数値化した「職業プロフィール」等を職場の写真とともに提供しており、提供している情報の量と豊富さにおいて、世界的にみても最大級のサイトといえる。ある新聞の表現を借りれば「ネットに職の百科事典」ということになる。仕事の内容、すなわち職業情報として、的確な情報をサイトから提供し、これによって労働市場における効果的な求人求職、キャリア形成等を支援しようとするものである。

サイトへのアクセス数は伸び続けており、一般公開直後を除くと、前年同月比で常に前年を上回り、特にここ数カ月は毎月、過去最高を更新している[2]。画面や内容に大きな変更がないにもかかわらず、毎月のアクセスが増え続けるのは異例のことと、この分野に詳しい専門家に言われている。しかしながら、周知が徹底し、職業やキャリアに関する事典代わりに使われれば、もっとアクセスは伸びても不思議ではない。現状は先進的な関係者が、このサイトがあることを認識し、相談やキャリアガイダンスの場面、また、授業等で使い始めているところと見られる。

キャリアマトリックスのコア機能の一つとして情報収集機能がある。従来、職業情報は関係団体を訪問し、収集してきた。キャリアマトリックスの開発においても、これまでに約 600箇所の関係団体を訪問している。そして、今回、この訪問調査と並行して、これまで収集できなかった情報を集めるために、「Web職務調査システム」を開発し、情報収集を行っている。これまでにWebモニター300万名弱に対して、就いている職業を聞き、その職業が情報収集中のものであれば、仕事内容や職業の諸特性の評価をしてもらい、最新の情報を集めてきた。職業に関してこれほど幅広く情報収集したことはかつてない。Web職務調査はスピーディに広範囲な情報が収集できるものとして、これまでにない新たな方法を確立したことになる。

もう一つの情報収集機能として、膨大にあるアクセスを統計的に分析することによっても色々なことがわかる。現在でもアクセスを集計し、「職業アクセスランキング」として、過去一週間で閲覧された職業のランキングをトップ画面右上に表示している。これ以外にも、入力から様々な回答の分布や傾向を調べることができる。当然ながら、個別の回答を見るわけではなく、回答を集計した結果をみるものであり、「職業アクセスランキング」のように利用者へのフィードバックも考えている。ある断面の情報ではあるが、利用者の全体的な傾向がリアルタイムに把握できることは、求職者にとっても、企業にとっても、またその仲立ちとなる機関や専門家にとっても、有益な情報ということができる。

システムのもう一つのコアとなる機能が共通言語、共通基準の提供である。個人が仕事を探す場合、自分が得意なこと、好きなこと、したいことから仕事を探す。この得意なこと、好きなこと、したいことを各人バラバラに記述していたのでは収拾がつかないことになる。企業が人を採用する場合もどのような能力のある人を採用するかということになるが、このどのような能力という部分もそれぞれが自由記述したのでは無秩序に情報が増大することになる。興味、価値観、スキル、知識、仕事の環境、等々を記述する、求職者と求人企業、またその仲立ちとなる機関や専門家等が使用する共通言語が必要となる。ところがこれまで日本においては、このような共通言語の開発と普及が行われてこなかった。キャリアマトリックスには興味、価値観、スキル、知識、仕事の環境等を数値で示す「職業プロフィール」があるが、この部分が共通言語、共通基準として機能することを期待している。

キャリアマトリックスは今秋、機能と内容を充実させた新バージョンを公開する予定である。関連分野のインフラとして、一層活用していただくことを願っている。

(2008年 8月 6日掲載)


[脚注]

  1. ^ キャリアマトリックスのアドレスは http://cmx.vrsys.net と http://cmx.hrsys.net であり、負荷分散と情報の安定提供のため相互にミラーサイトとして、同じ内容を提供している。
  2. ^ ここでのアクセスとはページビューである。2006年9月に一般公開を開始したところ、新聞各紙やインターネットの情報サイトで取り上げられ、通常の2、3倍のアクセスとなった。