国内労働情報 14-12
労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査
―労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅱ)―

平成26年12月25日

概要

研究の目的

近年、企業の人事管理に関する意識の変化による人事管理の個別化・多様化とともに、労働者の就業形態や就業意識の多様化が進む中で、労働者が納得・安心して働くことができる環境づくりや今後の良好な労使関係の形成という観点から、労働契約法制の整備・拡充が求められている。労働契約をめぐる実態を明らかにし、基礎的データをとりまとめることで、今後の労働契約法制の論議の活性化に資することを目的として、企業アンケート調査を実施した。

研究の方法

調査方法は、郵送による調査票の配布・回収。常用労働者50人以上を雇用している全国の民間企業20,000 社(農林漁業除く)。調査実施時期は、2013年9月20日から10月10日。有効回収数:5,792件(有効回収率:29.0%)。

主な事実発見

  1. 正規従業員で勤務地や職種、労働時間が限定された雇用区分があるとする企業は、「職種限定社員」が13.7%、「短時間正社員」が10.7%、「勤務地限定社員」が8.7%となっている。これを正規従業員規模別にみると、規模が大きくなるほど、「勤務地限定社員」「職種限定社員」の雇用区分がある割合は高くなる(図表1)。これらの限定正社員の雇用区分の規定状況(複数回答)をみると、「就業規則」に規定している割合が45.3%で最も高い。
    図表1 正規従業員の雇用区分について(複数回答、単位=%)
    正規従業員規模 n 勤務地限定社員 職種限定社員 短時間正社員 いずれもない 無回答 限定社員あり
    5792 8.7 13.7 10.7 71.1 3.3 25.6
    100人未満 3675 6.2 12.4 10.4 73.4 3.6 23.0
    100人~300人未満 1568 10.0 14.5 11.9 69.8 2.5 27.7
    300人~1,000人未満 316 20.6 19.6 11.1 61.4 1.9 36.7
    1,000人以上 89 34.8 28.1 9.0 48.3 1.1 50.6

    ※「限定社員あり」は、「地域限定社員」「職種限定社員」「短時間正社員」のいずれかの雇用区分がある企業のこと。

  2. ここ5年間で労働条件の変更が「あった」とする割合は73.3%。労働条件を変更した項目を尋ねると、「高齢者の継続雇用制度関係」が69.9%でもっとも高く、次いで、「賃金関係」「育児休業制度・仕事と私生活の両立関連」「労働時間関係」などとなっている。労働条件の変更の手続きは、「就業規則(社内規程含む)を変更した」が92.6%と最も高い。ここ5年間において、就業規則の改訂に当たって、行政に対する届出に際して添付する意見書を得るために、過半数組合や従業員の過半数代表者の意見を聴いたかについては、「従業員の過半数を代表する者の意見を聴いた」が74.9%、「過半数組合の意見を聴いた」が12.6%となっている。
  3. ここ5年間において、過半数組合や従業員の過半数代表者(「過半数組合等」)から、就業規則の改訂案に対して、意見や希望が表明されたことがあるかを尋ねたところ、「就業規則の内容について意見が表明されたことがある」は23.8%、「就業規則自体については意見がなかったが、就業規則に規定のない労働条件や就業環境について希望が表明されたことがある」が11.3%だった。「特段の意見・希望が表明されたことはない」は62.6%となっている。正規従業員規模別にみると、「特段の意見・希望が表明されたことはない」の割合は規模が小さくなるほど高い。労働組合の有無別にみると、労働組合のある企業に比べ労働組合のない企業のほうが「特段の意見・希望が表明されたことはない」の割合が高い。1回の就業規則の改訂につき、過半数組合等の意見を聴くための協議を何回くらい行ったかを尋ねたところ、「1回のみ」が55.0%と半数を占め、これに「2回」(18.7%)を加えると約7割の企業が1回ないし2回で協議を終えていた。
  4. 転勤の対象者選定に当たって考慮する事情については、「本人の健康状態」をあげる割合が66.5%と最も高く、次いで「親等の介護」が60.9%、「単身赴任となること」が50.6%、「子供の教育」が46.2%、「配偶者の勤務」が36.0%などとなっている。正規従業員規模別にみると、規模が大きくなるほど「本人の健康状態」「親等の介護」の割合がおおむね高くなる。一方、規模が小さくなるほど「子供の教育」「配偶者の勤務」「自宅の購入」の割合が高い(図表2)。
    図表2 転勤の対象者選定に当たって考慮する事項(複数回答、単位=%)
    正規従業員規模 n 子供の教育 親等の介護 配偶者の勤務 本人の健康状態 自宅の購入 単身赴任となること その他 無回答
    2454 46.2 60.9 36.0 66.5 25.2 50.6 5.9 7.7
    100人未満 1165 47.4 58.1 38.6 64.0 26.4 48.7 6.9 9.6
    100人~300人未満 918 47.4 63.9 36.7 68.5 26.1 54.6 5.1 5.1
    300人~1,000人未満 237 42.6 65.4 28.3 73.4 21.9 52.3 3.0 5.5
    1,000人以上 79 30.4 65.8 20.3 72.2 11.4 39.2 5.1 10.1

    ※転勤のある企業(「正規従業員のほとんどが転勤をする可能性がある」「明示的な制度ではないが、正規従業員でも転勤をする者の範囲は限られている」「転勤はほとんどない」)を対象に集計。

  5. 出向の内定者への意向打診については、事前に意向打診を「する」とする企業が85.4%を占めている。事前に打診した本人の意向を、どの程度尊重するかについては、「同意がなければ行わない」とする企業割合が53.1%と最も高く、次いで「出向条件などできる配慮は行うが、同意が得られなくても出向させる」が31.5%となっており、「通知に重点があり同意が得られなくても出向させる」は6.3%とわずかである。
  6. 転籍内定者への意向打診については、事前に意向打診を「する」と回答した企業が91.4%を占め、「しない」とする企業は5.5%とわずかである。事前に打診した本人の意向を、どのように確認し、どの程度尊重するかについては、「口頭で同意を得る」とする企業が44.3%と最も高く、次いで「書面で同意を得る」とする企業が35.7%となっている。

政策的インプリケーション

過去5年間でみて、7割の企業が労働条件の変更を実施しており、ほとんどの企業がその手続として就業規則の変更を行っている。就業規則改訂のための意見聴取では、「従業員の過半数を代表する者の意見を聴いた」が7割を占めている。就業規則改訂の際の手続面で過半数代表者の選任方法等の基礎データを提供している。

政策への貢献

労働契約法制の労働条件の設定・変更や、配転・転勤・出向・転籍の人事制度の実態把握をしており、労働契約法施行以降の状況が把握可能である。

本文

  1. 国内労働情報14-12全文(PDF:2.0MB)

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

  1. 表紙・まえがき・調査実施者・目次(PDF:406KB)
  2. 第Ⅰ部 調査結果の概要(PDF:771KB)
  3. 第Ⅱ部 2013年調査と2004年調査の2 時点比較(PDF:615KB)
  4. 第Ⅲ部 資料(PDF:1.3MB)

研究の区分

定点観測的調査

調査期間

平成25年

執筆担当者

郡司 正人
労働政策研究・研修機構 調査・解析部次長
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構 調査・解析部主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.69)。

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