資料シリーズNo.304
東南アジア諸国の職業能力評価制度Ⅱ
―カンボジア、タイ、ミャンマー、インドネシア、ベトナム―

2026年7月8日

概要

研究の目的

技能実習生の送り出しの主要国であるカンボジア、タイ、ミャンマー、インドネシアおよびベトナムにおける職業能力評価制度について、特に技能労働者を対象とする制度を中心に、教育資格および職業資格制度や技能評価制度の現状と動向を明らかにする。併せて、ASEAN加盟国間をはじめとする諸外国との職業資格の相互承認に関する取り組みの進捗状況を明らかにする。

研究の方法

現地調査および文献調査

主な事実発見

技能実習の主要な送り出し国であるインドネシア、ベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマーにおける公的職業資格を明らかにすることを目的として調査を行った。調査の結果、明らかになった各国の制度概要は以下の通りである。

  1. カンボジア
  2. カンボジアの国家教育資格枠組み(NQF) であるカンボジア資格枠組み(CQF)は、前期中等教育卒業のレベル1から博士課程修了のレベル8まで8段階で設定されている。学習到達度を説明する記述子(descriptors)は、「知識」「認知能力」「精神運動能力」「対人スキルと責任感」「コミュニケーションスキル、情報技術および数値処理能力」といった項目について、レベル1からレベル8までを段階評価する形をとっている。

    カンボジアにおいては、公的職業資格自体を策定してはおらず、職業能力の認定に特化した試験作成や認定試験を実施する機関はないものと考えられる。学校教育の一環として行われている職業訓練校の職種ごとのカリキュラムを修了することによって付与される修了証が公的職業資格に相当する。職業技術教育訓練(Technical and Vocational Education and Training:TVET)でカリキュラムが設置されている職種数は約147である 。CQFのレベル1に当たる前期中等教育卒業相当の「職業訓練修了証」と、レベル2から4に当たる後期中等教育の3学年に相当する「技術職業資格」の1から3の修了証がある。

    学校教育とTVETをスキル・ブリッジ・プログラムが橋渡して連携させる形をとっており、制度上では後期中等教育(高等学校)卒業に相当するグレード12のTVETを修了すれば、一般の大学の入学資格を取得できる仕組みになっている。大学・大学院の課程に相当するTVETも設けられており、仕組みとして学校教育と職業訓練が一体化していると考えられる。政府の説明資料によると、学士、修士、博士の各高等教育課程に相当する技術職業教育の課程を修了した者は、それぞれの学位を取得できるものとされている。ただし、実態としては、大学側は一般の高等学校修了を入学資格としており、一般教育とTVETの橋渡しは行われていないという見解もあるため課題がないわけではない。

    職業資格の相互承認についてはタイの制度概要でも記されているが、「れんが積み」と「左官工事」の2つの職種に関する技能認証の基準に関して両国が合意した。この2つの職種に関して、タイのレベル1とカンボジアのレベル2に関する能力基準と評価を含むすべての技能認証構成要素が技術的に同等であることが確認された。

  3. タイ

    タイのNQF(National Qualification Framework)は教育資格を8つのレベルに区分している。タイの職業教育は、前期中等教育までの義務教育の後、後期中等教育における3年間の「後期中等職業学校」、大学やカレッジでの2年間の技術/職業教育課程、および2年間の上級の技術/職業教育課程がある。

    国家職業資格については労働省技能開発局(Department of Skills Development(DSD))が所管し、6レベルに区分した国家技能基準(National Skill Standards(NSS))に基づき、286職種が策定されている。また、専門職については、NQFに即して8レベルに区分した専門資格枠組み(Professional Qualification Framework(PQF))に基づき、首相直下の機関であるタイ専門家資格認定研究所(Thailand Professional Qualification Institute (TPQI))が50分野で1,103職種に関する資格検定制度を策定している。NSSは主にレベル1~3、TPQIによる資格検定制度は主にレベル4~6(NSSレベルの2~4に相当)を中心にそれぞれ資格証明書が発行されている。20職種についてはNSSとPQFの両方の資格を相互承認する仕組みを設けている。

    なお、労働者の技能向上を促進するため、NSSの286職種のうち141職種を対象とする技能別最低賃金制度がある。賃金委員会が告示する141職種を対象として、おおよそレベル1から3のNSS資格保有者に対して、一般の最低賃金より高い水準を設定する仕組みを設けている。

    職業資格の相互承認については、日本との情報処理技術者(ITパスポート、基本情報技術者、応用情報技術者)資格の相互承認や、ミャンマー、ラオス、カンボジアとの建設(れんが積み・左官)、建築用電気配線、縫製という各職種についての技能相互承認(MRS)に向けた取り組みを進めている。タイ・カンボジア間では2023年2月、建設分野(れんが積み・左官)において、タイNSSのレベル1とカンボジアの技能職業資格修了証Certification 2が同等であることが確認された。

  4. ミャンマー

    ミャンマーの国家教育資格枠組み(MNQF)は8段階で設定されており、ASEAN資格参照枠組み(ASEAN Qualifications Reference Framework:AQRF)に準拠する形で策定され、2022年5月に発行された。TVETは、前期中等教育修了者が進学する政府技術高校や、後期中等教育修了者が進学する政府技術短大や技術大学など高等教育において実施されているが、初等教育を卒業または中退した者を対象とする職業訓練学校のカリキュラムも用意されている。

    職業能力評価制度は、「工業・農業・職業教育法(1972年制定)」と「雇用および技能向上法(2013年制定)」に基づいて2007年に設立・運営されている国家技能基準局(NSSA)が職業資格(技能基準)を策定する取り組みが進められている。Certificateのレベル1からレベル4まで、「半熟練」「熟練」「高度な熟練」「監督者」という国家技能資格枠組み(National Skills Qualification Framework:NSQF)が定められている。

    職業資格は、優先する約175の職種について技能基準の策定が進められており、今回の文献調査で判明した限りでは、52から88職種について、主にレベル1からレベル2の策定が完了している模様である。職業資格(技能基準)は諸外国からの支援に基づいて整備が進められている。今回の文献調査で確認できた職業資格(技能基準)は、2018年および2023年にドイツやスイス、日本の国際支援によって作成されたものであり、直近の職業資格を入手することはできなかった。なお、2021年のクーデター以後、国際支援が停止されており、今後も引き続き職業資格の策定は滞ることが予想される。

  5. インドネシア

    インドネシアとベトナムについては、2024年度に実施した文献調査で把握できなかった事項を現地で調査した結果である。

    2024年度に行った文献調査によって、インドネシア国家職業資格基準(Standar Kompetensi Kerja Nasional Indonesia:SKKNI)による職業資格の能力を示す技能を定義づける能力ユニットは把握できていたが、レベル評価の方法については文献調査では明らかになっていなかった。現地での聴き取り調査の結果、SKKNIに掲載された能力ユニットをモジュール化し、インドネシア国家教育資格枠組み(Kerangka Kualifikasi Nasional Indonesia:KKNI)のレベル評価を参照して、それぞれの職種のSKKNIの能力ユニットの数と内容、範囲によってレベル(職種ごとにレベルの数は異なる)を定義づけする形をとっていることがわかった。

    また、職業資格の活用度の目安となる資格取得者数の統計数値を労働力省の聴き取り調査で得ることができた(本報告書第4章、図表4-8参照)。企業におけるSKKNIの認知度、活用度については、日系経営者団体による調査で14%程度の企業で活用されている。活用している企業では人事部門、製造部門等全社的に活用し、人事評価に反映させている事例がある一方で、全く知らない、全く活用していないという企業が数多くを占めることがわかった。現地調査では2社の企業に聴き取り調査を行い、認知度や活用度が低いことが判明した。ただし、認知している企業では、基本制度として日本の技能検定を参考に社内資格を策定しているが、技能検定の「試験科目とその範囲」はインドネシア現地企業における社内資格と類似性があり、SKKNIも参考にしていることがわかった。また、社内資格の認定に、SKKNI資格保有の有無を勘案している企業も見受けられた。

    資格の相互承認について、労働力省での聴き取り調査の結果、学校教育の面で教育資格の相互承認の取り組みは進んでいるが、職業資格との連携は、ほとんど取り組まれていないものと考えられる。

  6. ベトナム

    中央省庁の再編に伴い職業訓練行政が2025年3月に旧労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)から教育訓練省(MOET)に移管され、雇用法や職業訓練法の改正と下位法令の整備が進められている。そのため、職業資格認定の実務が滞っており、技能検定試験はコロナ禍後、ほとんどの職種で試験が実施されていないことが現地調査でわかった。

    また、公的職業資格制度の企業における認知度、活用度については、極めて低いことがわかった。現状では鉱山労働などごく一部の職種に限られる。労働者にとって、就業に必要な職種が限られるため取得する必要性が極めて低い。そのため、日系企業ではもっぱら社内資格制度に基づく人事労務管理が行われている。

    文献調査では、NOSS(国家職業技能基準)、国家職業技能資格枠組み(NSQF)とベトナムの国家資格枠組み(VQF)の対応関係を定めた法規は確認できなかったが、VQFとNOSSの記述子は類似しているため、定義上、双方の技能レベル1~5の間に相関関係、互換性がみられるとしていた。しかし、現地聴き取り調査では、両者の調和はまだ取れておらず、相互の照合もできていないとの回答を得た。VQFとNOSSの等級、NSQFに関連性はなく、別の物であるとのことである。ただし、新たな政令等により、両フレームワークを統合する方向で進められている。

    その一方で、ある職業訓練機関では、NSQFのレベル3は、VQFに基づく学校教育制度においてカレッジ卒にあたるレベル5に相当するという回答を得た。つまり、カレッジを卒業していれば、NSQFに基づく国家技能検定の合格者に付与される国家職業技能証明書を取得する必要性がないため、資格取得のインセンティブを欠く一因となっているという。

    教育資格の相互承認については、一定の進捗が確認できる。AQRFの参照プロセスの一環としてベトナム政府が、ASEAN事務局のAQRF委員会に提出した参照レポートが、2025年10月24日に同委員会によって承認された。だが、現地聴き取り調査では、参照レポートの承認について話題に挙がることはなく、職業資格に関する他のASEAN加盟国との相互承認は進んでいないと思われる。

  7. 6カ国の制度概要

    2024年度調査(資料シリーズNo.292)では、インドネシア、ベトナム、フィリピンを対象として文献調査を行い、2カ年にわたり実施した調査の対象はASEAN加盟国のうち6カ国になる。その調査結果を示したのが下記の図表である。認定されている職業資格数、職業資格のレベル数、教育資格(NQF)と職業資格(NVQ等)の関係性を示した。6カ国において公的職業資格認定数は、少ない国では数十だが、多い国では千以上が認定されている。職業資格のレベルは、教育資格のレベルに沿ってレベル1から5のレベルを中心に設定されている場合が多く、その中で各国が設けているレベルの幅は、主に2~5段階となっている。

図表 ASEAN加盟国の職業資格とNQFとの関係性および各国の職業資格のレベルの範囲

  カンボジア タイ ミャンマー インドネシア ベトナム フィリピン
職業資格のレベル数 4段階  PQF(首相府):8段階(主に3~6)
NSS(労働省):6段階(実質3段階)
4段階  9段階(8段階)*  5段階  5段階 
NQFと職業資格の関係性 密接に連携
NQFの1~4 
密接に連携
PQF:NQFの1~8
NSS:NQFの3~8
密接に連携
NQFの1~4(ただし、諸説あり)
参照してレベル別
NQFの1~9を参照(主に2~7)
関係性(連携)なし
NQFの1~5に相当 
連携
NQFの1~5 

*KKNIは9段階、AQRF参照後8段階

(PQF) (NSS)

職種数 約147 PQF:1,103
NSS:286
52~88(175) 938(1,222) 96 530

政策的インプリケーション

  • ASEAN加盟国の公的職業資格制度は、諸外国や国際機関の協力によって構築されている場合が多い。複数の国からの支援で公的職業資格が成り立っている場合、パッチワークのようにそれぞれの資格の職種間の関係性が希薄になる場合がある。また、諸外国などから取り入れた制度であると、現地の職場の実情に合致しないために活用度や認知度が低くなる可能性もある。
  • ASEAN加盟国の職業資格の相互承認を検討する場合、教育資格との関係性を踏まえる必要がある。
    職業資格の相互承認の手続きの難易度は、その国の一般教育と職業技術教育に関する制度の関係性や位置づけによって大きく異なると考えられる。両者が密接に連携していれば相互承認の手続きは比較的容易だが、密接に連携しておらず、縦割り行政等の理由により何ら関係性が見られない場合には、事前の国内手続きを完了するまでにかなりの時間を要し、対外的な相互承認の手続きはそれだけ長期化する可能性があると考えられる。

政策への貢献

  • 厚生労働省・技能評価システム(技能競技大会・技能検定)を通じた技能移転事業(外国人労働者の技能評価・活用に関する調査検討)の第2回検討委員会(2026年1月7日)で資料配付
  • 育成就労制度の実施にあたって、日本で就労を終えた外国人労働者が帰国後、日本で習得した技能等を活用できるよう支援する仕組みを検討すること、また、外国人労働者が帰国後のキャリア形成を経て、特定技能の在留資格を取得して再び日本で就労することが期待されている。そのために、諸外国の取組状況等を踏まえ、育成される技能の見える化等を推進するための方策の検討に活用される予定
  • 技能評価システム移転促進事業(SESPP)について、対象国のニーズに合致した技能移転事業の実施計画案(対象国・対象職種・レベル等)策定の参考資料として活用される予定

本文

研究の区分

情報収集

研究期間

令和7~8年度

調査・執筆担当者

(執筆順、肩書きは2026年3月現在)

北澤 謙
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
石井 和広
労働政策研究・研修機構 主任調査員

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