資料シリーズNo.275
OHBYカード改訂版に伴う背景データの分析
―OHBYカードにみる成人の職業興味の特徴―

2024年3月13日

概要

研究の目的

2007年に公表したOHBYカードは48職業という限られた情報だが、PC等が利用できない環境でも最低限の職業情報に接することができる職業情報ツールとして開発された。OHBYカードはそれ自体の普及もさることながら、日本における職業カードソート技法の普及においても一定の役割を果たした。一方で、OHBYカードは公表後、既に17年を経ており、掲載されている絵や写真、職業情報、職業名等の改訂の要望が各方面から聞かれるようになっていた。

そこで、今般、4分の1程度の職業を入れ替えて、絵や写真をすべて統一感のあるイラストに差し替え、職業情報の内容も刷新することとした。その際、改訂にあたっては幾つかの検討を行う必要が生じた。

特に本研究では、① OHBYカード記載の個別職業に対する興味の属性別の特徴の検討、② OHBYカードの広い意味での信頼性と妥当性の検討、③ OHBYカードに見る成人の職業興味の特徴の三点を検討することを目的とした。なお、その過程で成人(大学生を含む)の職業興味に関する知見も得られたため、本研究ではそれもとりまとめた。

研究の方法

① 調査対象
インターネット上のモニター800名。内訳は、大学生(200名)、20代(大学生を除く200名)、30代(200名)、40代(200名)。各年代ともに性別を半数ずつとした。
② 調査方法等
調査会社のモニターを利用したWebモニター調査
③ 主な調査項目
  • OHBYカード試作版の評定
  • OHBYカード試作版評定後の自由記述
  • 職業興味領域の単純選択
  • 既存の職業興味尺度(job tagの職業興味検査)
  • キャリア意識(キャリア成熟度尺度、職業生活に対するキャリア満足感)
  • フェイスシート(性別、年齢、最終学歴、雇用形態、業務内容、年収等)
④ 目標回答数
上記800名の調査対象者数を収集した時点で調査を終了した。
⑤ 有効回答数
目標回答数どおり800名。
⑥ 実施時期
令和5年10~11月(10月27日調査開始、11月3日調査終了)

主な事実発見

  1. OHBYカードのイラストを「選択する(やりたい)」「どちらとも言えない」「選択しない(やりたくない)」で評定を求めた結果、①「選択する」と評定された上位10職業に「芸術的」職業が多いことが示された。従来から中高生などの若者は「芸術的」を選択する割合が多いことが知られていたが、今回、大学生・成人でも同様であることが確認された。また、②「選択する」の%より「選択しない」の%の方が大きい(≒「やりたい」職業より「やりたくない」職業が多い)ことが示された。これも従来から「選択しない」職業の方が多く、「選択する」職業は少ないことが知られていたが、改めて確認された。さらに、③「選択しない」上位10職業に「社会的」職業が多かった。「看護師」「運転手」「教員」「保育士」など、通常、子どもに人気が高い職業が含まれる「社会的」職業が「選択しない」に多く入ったのが、従来の結果では見られない傾向であった。ただし、こうした傾向が、成人独特の傾向か最近の傾向かについては今後の検討を要する。

    図表1 各職業に対して「選択する」と回答した割合(%の大きい順に並べ替え)

    各職業に対して「選択する」「選択しない」と回答した割合を%の大きい順に表に示した。その結果、「選択する」では「芸術的」な職業、「選択しない」では「社会的」な職業が多かった。
    職業名 タイプ %
    舞台美術スタッフ 芸術的 282 35.3
    イラストレーター 芸術的 277 34.6
    和菓子職人 現実的 269 33.6
    バイオテクノロジー研究者 研究的 267 33.4
    インダストリアルデザイナー 芸術的 259 32.4
    航空管制官 慣習的 259 32.4
    薬剤師 研究的 254 31.8
    ファッションデザイナー 芸術的 226 28.2
    ソフトウエア開発 研究的 226 28.2
    アートディレクター 芸術的 223 27.9
  2. OHBYカードは、職業レディネステストやVPIと同様、ホランドの6類型(RIASEC)で職業興味を示すが、6類型以外にも「DPT」「DPTI」等の様々な「職業興味の構造モデル」がある。因子分析(最尤法プロマックス回転)を行った結果をもとに第1因子と第2因子をプロットした結果、OHBYカードのイラスト(選択する)には「DPTモデル」が観察されることが示された。改訂版OHBYカードの48職業は6類型に分けられる他、大まかにはDPT(Data-People-Thing;データ-人-物)の3グループに分類されることが示された。

    図表2 各職業に対する興味(「やりたい」という回答)の因子分析結果から第1因子と第2因子をプロットした図

    各職業に対する興味(「やりたい」という回答)の因子分析結果から第1因子と第2因子をプロットした結果、DATA-PEPOLE-THING(データ-人-物)の3つのグループに分類された。

  3. 客観的キャリアの指標として「収入」、主観的キャリアの指標として「満足感」を被説明変数とした重回帰分析を行った。その結果、収入に正の影響を与える変数は「年代」「慣習的興味」「企業的興味」、負の影響を与える変数は「性別」「芸術的興味」であった。「慣習的興味」「企業的興味」は「正規雇用か否か」にも影響を与えており、正規雇用と結びつきやすいためだと考察される。また、満足感に正の影響を与える変数は「年代」「社会的興味」、負の影響を与える変数は「芸術的興味」であった。概して「社会的興味」に該当する職業は、ケア(介護、保育、教育)の仕事が多く、社会貢献的な満足感が得られる可能性が高いためと推察される。

    図表3 各興味領域が最近1年間の税込み個人年収及び職業生活やキャリアへの満足感に与える影響(重回帰分析)

    各興味領域が最近1年間の税込み個人年収及び職業生活やキャリアへの満足感に与える影響を重回帰分析で検討した。その結果、収入に正の影響を与える職業興味は「慣習的興味」「企業的興味」、負の影響を与える職業興味は「性別」「芸術的興味」であった。
      最近1年間の
    税込み個人年収
    職業生活や
    キャリアへの満足感
      β sig. β sig.
    年代 0.311 *** -0.138 ***
    性別 -0.292 *** -0.029  
    芸術的 -0.122 * -0.123 *
    慣習的 0.146 ** 0.056  
    企業的 0.122 * 0.083  
    研究的 0.027   -0.019  
    現実的 0.018   0.038  
    社会的 -0.032   0.187 **
    調整済みR2 0.209 *** 0.078 ***

    ※重回帰分析。性別はダミー変数0=男性、1=女性。βは標準編回帰係数。sig.は有意水準。***p<.001 **p<.01 *p<.05。

政策的インプリケーション

職業興味に関する基礎的な研究は、現在、日本の大学・研究機関等でまとまった形で行われることは少なくなっている。一方で、そうした研究は、職業安定機関における職業相談・職業指導、各領域のキャリアコンサルティングで活用が推奨される各種ツールの理論背景となっている。そのため、今後も引き続き職業興味に関する研究を行うことが望まれる。

同様に、職業興味以外も含めた各種キャリアガイダンスツール全般の開発及びそれに向けた基礎研究も、まとまった形で行われることは少ない。しかしながら、日本の職業相談・職業指導・キャリアコンサルティングではよく活用される。そのため、今後も引き続き、ツール開発及び関連する基礎的な研究を行うことが望まれる。

特に、従来、国または公的機関が行ってきたキャリアガイダンスツールの研究が縮小傾向にあるのは、日本のみならず他の先進国でも一般的な傾向であり、「キャリアガイダンスの民営化(privatisation)」の典型的な現象として指摘される。国内のキャリア形成支援施策における「ツール」の意義・意味を議論し、官民の適切なバランスでキャリアガイダンスツールの維持を検討する必要があると言えよう。

政策への貢献

ハローワーク等をはじめとする職業安定機関及びキャリア形成・学び直し支援センター等の就労支援機関他、需給調整領域、企業領域、学校領域、地域福祉領域等におけるキャリアコンサルタントその他のOHBYカード使用に際して、その背景情報を提供する。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究」

研究期間

令和5年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 副統括研究員

関連の研究成果

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。