資料シリーズNo.263
COVID-19下における非正規雇用者の雇用管理と労働条件
―接客サービスを行う非正規雇用者を中心に―
概要
研究の目的
コロナ下における非正規雇用者の雇用管理と労働条件の実態を明らかにする。
研究の方法
ヒアリング調査
主な事実発見
本稿の分析課題は、① 事業縮小時における非正規雇用者の数量調整、② 非正規雇用者が労働条件変更を受け入れたかどうか(労働条件の変更を受け入れるか、離職をするか)、③ 事業再開又は通常の事業運営状態に戻す際の非正規雇用者の数量調整、④ 労働組合の取り組みの4点である。調査対象は、図表1のスーパーA社、百貨店B社、シティホテルC社、飲食サービスD社の4社と、図表2のパートタイマー10名である。
図表1 調査対象企業の対応
企業 | 営業時間短縮 | 休業 | 店舗閉店 | 雇用調整助成金の活用 |
---|---|---|---|---|
スーパーA社 | 〇 | × | × | × |
百貨店B社 | 〇 | 〇 | × | 〇 |
シティホテルC社 | 〇 | 〇 | × | 〇 |
飲食サービスD社 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
出所:インタビュー調査より執筆者作成。
注1.〇は「あり」、×は「なし」を意味する。
注2.本稿の営業時間短縮には、営業時間はそのままで従業員の労働時間を短縮するケースも含む。
1.事業縮小時における非正規雇用者の数量調整
事業縮小時では、調査対象企業は、パートタイマーの解雇を行わず、労働時間調整(休業と営業時間短縮)と店舗閉店を行った。労働時間調整の方法は企業によって異なるものの、同一企業内では、基本的に全てのパートタイマーに共通した対応が採られた。
休業は、B社、C社、D社の3社で実施された。この3社は雇用調整助成金を活用し、非正規雇用者の休業期間中の賃金を保障した。営業時間短縮の具体的な対応方法を見ると、A社は、勤務日数を維持したまま、1日の労働時間で調整を行った。B社とC社は、1日の労働時間を維持したまま、勤務日数を削減して労働時間を調整した。D社では、パートタイマーの多くは1日の労働時間と勤務日数の両方で調整を行った。
店舗閉店はD社で行われた。D社は、閉店対象となった店舗の従業員に対して、労働条件を維持したまま自社の近隣店舗に異動するよう打診をしたが、多くのパートタイマーは離職を選択した。
2.非正規雇用者の労働条件変更を受け入れたかどうか
労働条件変更を打診されたパートタイマー6名の反応を見ると、3つのパターンが見られた。1つ目は、労働条件の変更を納得して受け入れたパターン、2つ目は、労働条件の変更に納得していないが仕方なく受け入れたパターン、3つ目は、労働条件の変更に納得しているわけではないが、不満もなく受け入れたパターンである。
次に、離職を選択したパートタイマーの反応を見る。労働条件の変更を打診されたパートタイマーに離職者が出たのはC社とD社である。パートタイマーの反応は、生活苦などからやむを得ず離職を選択したパターンと、そうした事情もなく離職を選択したパターンの2つに分かれた。同じ離職という行動でも、労働条件変更の反応に違いが見られた。
図表2 パートタイマーへの労働条件変更の打診の有無と反応
所属 | 労働条件変更の打診の有無 | 労働条件変更の受け入れの有無 | |
---|---|---|---|
パートタイマーa | スーパーA社 | × | - |
パートタイマーb | スーパーA社 | × | - |
パートタイマーc | スーパーA社 | × | - |
パートタイマーd | スーパーA社 | ○ | ○ |
パートタイマーe | シティホテルC社 | ○ | ○ |
パートタイマーf | シティホテルC社 | ○ | ○ |
パートタイマーg | 飲食サービスD社 | × | - |
パートタイマーh | 飲食サービスD社 | ○ | ○ |
パートタイマーi | 飲食サービスD社 | ○ | ○ |
パートタイマーj | 飲食サービスD社 | ○ | ○ |
出所:各パートタイマーへのヒアリング調査より執筆者作成。
注1.○は「あり」、×は「なし」を示す。
注2.B社については、非正規雇用者の調査を実施していない。
3.事業再開又は通常の事業運営状態に戻す際の非正規雇用者の数量調整
C社とD社では、労働時間の調整を行った際に離職を選択したパートタイマーが出た。そのため両社では、事業再開又は通常の事業運営状態に戻す際に、下記の2つの問題が見られた。
第1に、事業回復に伴う業務量の増加に応じた人材確保の問題である。D社はパートタイマーを十分確保できなかったために、コロナ前の営業時間に戻す体制を組めず、やむを得ず営業時間短縮を続けていた。C社では、勤務日数の削減を打診した際に、パートタイマーの2割程度が離職を選択した。C社の業務量はコロナ前の状況に戻りつつあったため、人材確保が問題となった。
第2に、D社の一部の店舗において、パートタイマーに混乱が生じた。事業再開又は通常の事業運営状態に戻す際に、フリーターが優先的にシフトに入る一方で、学生アルバイトはなかなかシフトに入れないという状況が発生した。加えて、店長が営業時間短縮の説明を十分行わなかったこともあり、一部の店舗では、学生アルバイトを中心にパートタイマーに混乱が生じた。
4.労働組合の取り組み
本稿の調査対象企業のうち、労働組合があるのは3社(A社・B社・D社)である。この3社の労働組合はパートタイマーを組織化している。3社の労働組合の取り組みを見ると、パートタイマーの雇用や労働条件の維持に貢献している。A社では、パートタイマーの雇用維持を前提に、パートタイマーと契約している労働時間を維持するよう労使合意していた。B社は、従業員の雇用と労働条件の維持が大原則という下で、パートタイマーの雇用や労働条件を維持している。D社では店舗閉鎖が行われたが、組合は閉店の対象となった店舗の従業員への説明と新しい仕事の斡旋を会社に要求した。D社労組は、その場に立ち会うとともに、新しい仕事が斡旋されたかどうかの確認も行っている。また、D社労組は、事業再開又は通常の事業運営状態に戻す際に、特定のパートタイマーが優先的にシフトに入ることが無いよう会社に要請を行っている。
政策的インプリケーション
本稿の政策的インプリケーションは、パートタイマーの離職への対応、集団的労使関係の機能の2点である。
1.パートタイマーの離職への対応
パートタイマーの離職への対応については、本稿の調査結果から、① 責任者が十分説明すること、② 一定水準の労働条件を確保することの2点を指摘している。労働条件の変更を受け入れたパートタイマーには、責任者から十分な説明を受けたという共通点が見られた。ただし、責任者が十分な説明を行っても、パートタイマーに労働条件の変更を受け入れてもらえるとは限らない。離職を選択したパートタイマーには、生活苦などからやむを得ず離職を選択した者が含まれていたからである。見方を変えれば、このようなパートタイマーにより良い労働条件を提示すれば、離職することはなかったと考えられる。そのため、労働条件を変更する際に、一定水準の労働条件をどのように設定するかが問われる。その際に大事なことは、企業が一方的に労働条件を設定するのではなく、労働者の意見を踏まえて決定することである。企業と労働者が労働条件の変更について話し合うことで、労使双方が受容しやすい労働条件を設定しやすくなると考えられる。
2.集団的労使関係の機能
調査対象企業のうち、労働組合があるのはA社、B社、D社の3社である。調査対象企業では、主に以下の4つの機能が見られた。
第1に、非正規雇用者の雇用と労働条件維持への貢献である。3社の組合は、非正規雇用者の雇用と労働条件の維持を会社に求めた。会社は雇用調整助成金を活用するなどして、非正規雇用者の雇用と労働条件の維持に努めた。
第2に、B社の組織内の公平性への対応である。B社では、第1波(2020年4月上旬から2020年5月下旬、以下同じ)と第4波(2021年4月下旬から2021年6月中旬、以下同じ)の休業の際に、一部の売場のみ営業を行ったため、出勤する従業員と休業する従業員が生まれた。第1波の際には、出勤した従業員の感染リスク対応のために、通勤と勤務に対して特殊勤務手当を支給した。第4波の際には、出勤した従業員と休業した従業員との間で、休業日(特例休暇)の取得日数に格差が生じた。B社は、従業員間に生じた不公平感を解消するために、休業日の取得日数の格差是正に取り組んでいる。
第3に、コロナ対応である。これには、A社の一時金支給と感染予防への貢献が該当する。一時金には、特別感謝金と感染症対策補助金がある。特別感謝金は全従業員に報いるための慰労金であり、感染症対策補助金は従業員本人と家族の感染予防ための補助金である。これらの一時金は、組合の要求を受けて会社が支給を決定した。感染予防への貢献については、会社が設置した感染対策本部に組合役員が参加して組合員の意見を発言するとともに、A社の労使はマスクや消毒液を配布するなどの対応も行っている。
第4に、D社の適切な店舗運営への貢献である。D社労組は、正社員の労働時間の適正化を会社に申し入れている。正社員の労働時間の適正化には、店長のサービス残業の抑制と所定労働時間の達成という意味がある。組合の申し入れには、店長の労働時間の適正化を通じて、適切な店舗運営を実現するという意味がある。D社は組合と同じ考え方を持っており、労働時間のデータを基に確認を行い、問題があれば是正するなどしている。
政策への貢献
労働政策の効果的、効率的な推進(ハローワーク等現場活用を含む)に活用予定。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等の人事管理に関する調査研究」
研究期間
令和3年度
執筆担当者
- 前浦 穂高
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
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