ディスカッションペーパー 21-04
コロナショックと非正規雇用者
―2020年夏までの状況を中心に―
概要
研究の目的
新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済への打撃(コロナショック)により非正規雇用者が仕事と生活において被った影響を明らかにし、今後の雇用ポートフォリオの動向も踏まえつつ、将来の類似の経済ショックに備えた含意を得ること。
研究の方法
官庁統計の集計、アンケート調査の個票分析。
主な事実発見
- コロナショックによる雇用調整は全体として労働時間の減少を中心とした雇用維持志向のものであったが、正規/非正規雇用の区分で見ると非正規雇用者の雇用が大きく減少していた。しかし自発的離職者、離職後に非労働力化する者も多かったことから、リーマンショック時のように失業者数が急増することはなかった。
- 特に5月を中心として、非正規雇用者ほど労働時間が減少しており(図表1)、それに伴って収入も減少し、それに伴って家計も赤字化していた。非正規雇用者は休業措置の下でも手当を支給されにくかったり、もともとの世帯年収が低かったりするため、僅かな労働時間減少が家計の赤字化に直結しやすい状況にあった(図表2は、非正規雇用者の月収減少が、労働時間の減少に加え、休業手当が支給されないこと等によりもたらされていたことを示している)。
- 非正規雇用者の方が生活満足度の低下幅が大きかった。そして生活満足度の低下幅の格差は、休業命令を受けた経験や、5月の月収減少などにより説明された。
- アフターコロナにおいて雇用ポートフォリオの形はすぐに大きくは変わらず、非正規雇用者が「雇用のバッファ」であることにも変化がないと予想された。
図表1 労働時間指数(コロナ前の通常週=100)の推移
図表2 月収指数(コロナ前の通常月=100)の規定要因(OLS)
政策的インプリケーション
雇用者全体の扱いについて言えば日本企業の対応は優等生的であったが、緊急雇用安定助成金の積極的な活用が望まれること、休業支援金・給付金についての一層の周知が求められること、低所得世帯へのセーフティネットの強化が必要であること、大きな経済ショックをできる限り回避することが肝要であること、などが導かれる。
政策への貢献
- 厚生労働省職業安定局にて成果を報告した。
- コロナ感染の収束に時間がかかり、非正規雇用者の雇用・就業が不安定な状況が続くと予想されるなか、非正規雇用者を含め弱い立場にある人々のセーフティネットのあり方に関する議論に貢献しうる。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「新型コロナウイルスによる経済、雇用・就業への影響、及び経済、雇用・労働対策とその効果についての分析に関する研究」
プロジェクト研究「人口・雇用構造の変化等に対応した労働・雇用政策のあり方に関する研究」
サブテーマ「非正規労働者の処遇と就業条件の改善に関する研究」
研究期間
令和2年度
研究担当者
- 高橋 康二
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
関連の研究成果
- JILPTリサーチアイ 第37回「労働時間の減少と賃金への影響──新型コロナ「第一波」を振り返って」(2020年6月18日掲載)
- 緊急コラム「正規・非正規雇用とコロナショック─回復しない非正規雇用、底堅い正規雇用(6月「労働力調査」から)─」(2020年8月4日掲載)
お問合せ先
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