資料シリーズNo.255
ものづくり中小企業における在職者訓練の役割と今後の方向性
~生産性向上支援訓練の活用事例からみる~

2022年3月31日

概要

研究の目的

日本経済の成長を支えてきたものづくり産業は、就業者数の減少や第4次産業革命を受け、人材確保・育成の面で厳しい状況に晒されている。日本経済を牽引してきたものづくり産業の人材育成力の低下は、中長期的な日本経済全体の競争力低下につながると考えられることから、ものづくり産業の能力開発を政策的に支援する必要性は増している。

そこで本研究では、ものづくり中小企業の人材育成を支援する中心的な政策である在職者訓練、とくに独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、JEED)が提供する生産性向上支援訓練に焦点をあて、次の目的のもと研究を行った。

  1. 生産性向上支援訓練はものづくり中小企業においてどのように活用されているか。
  2. 企業はなぜOJTや他のOff-JTではなく生産性向上支援訓練を利用するのか。
  3. どのような企業が生産性向上支援訓練を利用しているのか。
  4. 企業は生産性向上支援訓練に対してどのような要望を持っているのか。
  5. 生産性向上支援訓練の活用方法と、昨年度研究した、もう一つの在職者訓練である「能力開発セミナー」の活用方法にはどのような違いがあり、両訓練から構成される在職者訓練は、どのように企業の能力開発を支援しているか。
  6. 以上を踏まえて、在職者訓練は今後どのように強化・拡充していくべきかを検討する。

研究の方法

以上の研究目的に基づき、① 生産性向上支援訓練を提供するJEEDと、② 生産性向上支援訓練を受講したものづくり中小企業14社、③ 左記企業の受講を支援したJEEDの事業主相談員(以下、相談員)12名へのヒアリング調査を行った。

主な事実発見

第一に、生産性向上支援訓練がどのように活用されているかを明らかにするため、各社が「どの職種や職務階層の社員を(受講者)、どのように育成する目的で(受講目的)、生産性向上支援訓練を活用しているか」を基準に、生産性向上支援訓練の活用方法を分類し、「活用パターン」として抽出した。抽出された活用パターンと定義は図表1のとおりである。

  1. 役割理解パターンは、管理職や職場リーダー層の役割を明確化できていない企業において、その役割を明らかにし、関連するスキルを提供することで組織内のコミュニケーションを円滑にし、経営者と一般社員の意思統一が図れるよう支援している。
  2. 職場改善パターンは、生産性向上に取り組みたい企業において、業務改善のための様々な分析方法や手法を、自社の実態に合わせた形にカスタマイズして提供することで、受講企業が受講内容をすぐに実践し、業務改善に取り組めるよう支援している。

図表1 活用パターンの抽出と定義

図表1画像

第二に企業が「生産性向上支援訓練を利用する理由」をみると、中小企業が主な育成方法とするOJTでは、指導の内容や質にばらつきが生じるため、社員の理解や認識にも差が生まれるとの課題がある。こうした課題に対して生産性向上支援訓練は、社内で開催できることから、社員全員で正しい知識を共有でき、全社的に知識の均一化を図ることが出来る。

また他のOff-JTでない理由としても、社内で開催できることが主要な要因として挙げられた。社内開催によって、① 受講者が現場を離れる時間を短縮でき、生産への影響を抑えられる。さらに、② 一般的な社外研修のように受講者を選別することなく対象となる受講者全員で受講できるため、社内全体で正しい知識を学び、共通認識を形成することができる。

第三に、「企業特性と生産性向上支援訓練の実施との関係性」については、活用パターンと企業属性との間に明確な関連性を見いだせなかった。この点については、調査項目を再検討する必要がある。

第四に、「生産性向上支援訓練への要望」としては、多くの企業が要望なしとする一方、受講方法や受講人数の要件緩和等に関する要望が挙げられた。

第五に、「生産性向上支援訓練と能力開発セミナーの違い」は、図表2のように整理することができる。

「訓練内容」は、能力開発セミナーがものづくり関連の高度な技術を提供するのに対し、生産性向上支援訓練は組織マネジメントの円滑化や業務改善のためのノウハウを提供している。「対象者」は、いずれの訓練も、ものづくりに携わる勤続年数の浅い社員から職場リーダー、管理職までの全職務階層である。

「主な提供方法」については、能力開発セミナーがレディメイドコース、生産性向上支援訓練がオーダーコースである。前者はポリテクセンター等の実習場で開催され、コース内容や訓練時間等が予め決められているコースである。後者は自社会議室等で開催され、コース内容や訓練時間等を自社の要望に合わせてカスタマイズできるコースである。

「OJTとの関係」をみると、能力開発セミナーの場合はOJTで自社固有の技術を学んだのちに、能力開発セミナーでその基盤となる理論を幅広く学ぶことで、知識・技術の定着と向上を図っており、OJTと能力開発セミナーは補完的な関係にある。生産性向上支援訓練も同様で、OJTで日頃の業務に直結した仕事の仕方を学んだのちに、生産性向上支援訓練でその基盤となる理論を幅広く学ぶとともに、OJTによって生じる指導内容のばらつきを均す。このようにOJTとの関係においては、いずれの訓練もOJTと補完的な関係を築いている。

「他のOff-JTとの違い」(各訓練を利用する理由)をみると、能力開発セミナーは実習時間が長く実践的である点と、受講しやすい価格である点が挙げられている。これに対して生産性向上支援訓練は、社内で開催できるため正しい知識を受講者全員で共有し、社内で共通認識を形成できる点と、自社の実態に合った内容にカスタマイズできるため、より実践的な内容にできる点、受講しやすい価格である点が挙げられる。このことから両訓練は、実践的な内容である点と、受講しやすい価格である点で共通している。

図表2 能力開発セミナーと生産性向上支援訓練の比較

図表2画像

以上から在職者訓練は、ものづくりに携わるすべての職層に対応した訓練を提供しており、その内容はものづくり関連の高度な技術と、組織マネジメントの円滑化や業務改善のためのノウハウからなる。これら訓練は、OJTによる指導を補完する役割を担っており、実践的な内容である上、受講しやすい価格で提供されている点に特徴があるといえる。

第六の「在職者訓練の今後の方向性」は政策的インプリケーションでまとめている。

政策的インプリケーション

本研究からものづくり中小企業は人材育成に次の課題を抱えていることが明らかとなった。各課題に対して能力開発セミナーと生産性向上支援訓練は、どう対応しているのかを整理し、各訓練の今後の方向性をまとめる。

第一に、人材育成はOJTが中心であるが、指導者によって指導内容にばらつきが生じるため、社員の知識・技術にも差が生じる点である。この課題に対しては、いずれの訓練もOJTによる指導ののちに、その基盤となる理論を幅広く学ぶことで、知識・技能の定着と職場レベルでの知識・技能の均一化を支援している。

第二に、全社的な人材育成等を立案する人員や時間、ノウハウが不足している点である。この課題に対して、能力開発セミナーでは対応が難しいが、生産性向上支援訓練は、相談員が企業の人材育成上の悩みをヒアリングし、コースを提案することで、この課題に対応できている。したがって、今後は能力開発セミナーについても相談員のような存在が必要となると考えられる。あるいは既に一部の生産性センターでは始められているが、生産性向上支援訓練と能力開発セミナーの連携を強化し、総合的な訓練の提案を行える体制が求められる。

第三に、一般的な社外研修は受講料が高いため、受講対象者となる全員を受講させることが難しい点である。この課題に対しては、いずれの訓練も中小企業が受講しやすい価格で提供されており、当該課題に対応しているといえる。

第四に、社外での研修は、社員が現場を離れる時間が長くなり、生産へ影響が出る恐れがあるため、受講させることが難しい点である。能力開発セミナーはレディメイドでの受講が中心となるため、この課題への対応は難しい。この一方、生産性向上支援訓練はオーダーコースによって社内で研修を行うことができるため、受講者が職場を離れる時間を短縮し、生産への影響を抑えることができる。したがって生産性向上支援訓練については今後もオーダーコースを中心とした提供方法の強化が求められよう。これに関連し、オーダーコースでの受講をより強化するため、受講人数要件の緩和等について検討する必要がある。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する調査研究」
サブテーマ「職業能力開発インフラと生産性向上に向けた人材の育成に関する研究」

研究期間

令和3年度

研究担当者

関家 ちさと
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

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