資料シリーズNo.232
男性労働者の育児休業の取得に積極的に取り組む企業の事例
―ヒアリング調査―

2020年9月23日

概要

研究の目的

我が国の男性が家事・育児に費やす時間が他の先進国と比べてかなり低い水準であることなども踏まえると、女性が出産後も就業を継続でき、社会で活躍できるようにするためには、男性の育児・家事を促し、育児・家事の負担が女性に偏っている状況を変えていくことが必要である。

国は、男性の育児休業取得率について2020年までに13%、2025年に30%とする目標を掲げているが、現状は6.16%にとどまっており(2018年度)、男性の育児休業取得を強力に進めることが必要である。

こうした中、厚生労働省より、男性の育児休業の取得促進策を検討するに当たっての参考とするため、男性の育児休業の取得に積極的に取り組む企業の事例を収集するよう要請を受け、協力を承諾いただいた企業にヒアリング調査を行ったものである。

研究の方法

ヒアリング調査

主な事実発見

ヒアリング調査に協力いただいた13社について、次のような状況が見られた。それぞれの風土・文化を背景に、制度やソフト的な部分で工夫を凝らしている。

  1. 制度面での対応として、

    ①原則となる取得対象期間について、「子どもが3歳になるまで」あるいは「子どもが2歳になるまで」としている企業が多い。

    ②育児休業を有給にしている(有給期間は5日間~1ヶ月。そのほか失効年休等の活用が可能な企業もある。)企業が多く、無給としている企業でも、育児休業とは別の形で、育児を目的とした、あるいは育児にも活用できる男女共通の有給の制度を設けている。

  2. 育児休業の取得日数については、各企業が取得に関して掲げている目標や、育児休業を有給としている場合の有給日数、取得勧奨の際の具体的な勧奨内容、ほかの制度などによる影響もある。なお、多くの企業において有給期間による影響を挙げている。
  3. 男性の育児休業取得を促進する主な目的として、多くの企業が「女性社員の活躍推進」や「ダイバーシティの推進」「仕事と家庭の両立、ワーク・ライフ・バランス」を挙げている。
  4. ソフト面での対応として、各社がさまざまな工夫を凝らしているが、大きく分類すると、「トップからの発信」「個別の取得勧奨」「風土醸成・情報共有」、そのほか取得手続の簡素化、育児休業中の生活に向けたアドバイス・支援などである。「トップからの発信」「個別の取得勧奨」「風土醸成・情報共有」はほとんど企業において行っている。
  5. 「個別の取得勧奨」は、男性の育児休業取得促進を統括する部署から、男性本人やその直属の上司、所属長などへ働きかけを行う企業が多い。取得対象者となった男性を把握した際の勧奨はほとんどの企業で、また、その後なお未取得の場合の勧奨も多くの企業で行っている。未取得の場合の勧奨は、定期的に状況確認し、取得するまで勧奨を継続する企業、取得期限が近くなると勧奨方法を強化する企業などいろいろである。勧奨の内容や程度も、取得日数や取得時期について特にコメントしない企業、一定日数以上の取得や、一定の取得時期を推奨する企業、取得日数は短くてもいいのでまずは取得を優先している企業、勧奨の程度が特に高い企業など、多岐にわたる。
  6. 「風土醸成・情報共有」としては、「育児休業取得についての考え方の理解促進」「育児休業の取得計画の作成・情報共有」「取得状況等についての情報共有」「業務調整等職場のサポート」「取得を促す雰囲気づくり」「取得事例の紹介や制度の周知」「研修」などの取組が見られる。
  7. これらの取組の中でも、取得促進に当たって特に効果的なものとして、「経済的支援」「一定日数以上の取得勧奨」「トップによる発信」「男性の育児休業取得促進に関する考え方の理解促進」「目標の設定」「男性本人・上司等への働きかけ・勧奨」などが挙げられていたが、「男性本人・上司等への働きかけ・勧奨」や「経済的支援」「トップによる発信」を挙げる企業が多い。
  8. また、こうした取組による効果として、育児休業取得率の向上以外にも、「仕事の分担の見直し、仕事の属人化の排除、業務の見える化・標準化」など仕事の進め方の変化や、「助け合う風土やお互い様の意識の醸成」など風土の変化、人材確保に当たってのPR効果などを挙げる企業が多い。
  9. 風土醸成に当たっての課題・苦労した点としては、「事業所間・部門間の違いの解消」、「上司・管理職などの理解促進」、「男性本人の意識づけ」などである。

    一方、風土醸成がスムーズに進んだ点としては、「もともとの社内の風土・文化」、「トップによる発信、目標設定、全社的な取組」、「実際の効果の認知」、「取得者の増加による相乗効果」、「上司からの声かけ」、「早くから着手したこと」、「総合的な施策を進めたこと」などが挙げられている。特に、「トップによる発信、目標設定、全社的な取組」は、ほとんどの企業でスムーズな風土醸成につながったとしている。

  10. 風土醸成以外にも、取組推進に当たっての課題等として「業務調整・人員体制に係る課題・対応」「営業や現業部門などほかの職種・職場に比べて取得が困難な場合の対応」をはじめさまざまな事項が挙げられている。
  11. 今後の取組の基本方針として、「現在の取組の持続・定着」のほか、「取得率や取得日数の増加」「風土醸成」「企業文化や働き方の変革」「他社も含めた取組の拡大」などが挙げられている。

政策的インプリケーション

  1. 男性の育児休業取得促進に向けて、企業間での情報交換、情報共有は重要であり、効果的な取組などは広く共有することが望まれる。男性の育児休業取得促進に取り組む仲間を増やすことが重要で、自社だけ取り組んでいても意義・効果は限定的であり、取組が拡がり、社会全体が一緒に変わっていくことが必要と考えられる。国もさまざまな啓発資料やHP上などで情報提供を進めているが、提供する情報の充実を引き続き図っていくことが重要である。

    また、実際に取組を進めた効果として、仕事の進め方の見直しにつながったとする企業や、助け合う風土や「お互い様」という意識の醸成、コミュニケーションの活性化、チーム力の向上などを挙げる企業も多く、育児休業の取得は、休業前の準備、休業後の働き方など育児休業の前後を通じてメリットを生み出すものと捉えられている。また、取得者の増加による相乗効果により、風土醸成がスムーズに進んだとする企業もあり、取組を進め、取得者が増加することで風土醸成が進み、それがさらに取得者の増加につながるというサイクルが生まれるというのは大きな効果である。

    こうしたメリットや効果などを広く情報共有することも、取組の拡がりに必要であろう。

  2. 取得したい男性が取得できる環境整備のために、その障害を除去するべくサポートする制度・取組を検討し、実施していても、その制度・取組内容が、男性の取得行動に一定の影響を与えていると考えられる場合も少なくないという状況が見られた。また、取組を進めている中で、例えば半年、1年といった長期の取得者があまり増えていない企業も多かった。

    実際の取得状況を踏まえながら、当面は現行制度・取組の持続・定着を進めていくのか、見直しが必要なのか、その場合どこをどう見直すべきか等を見極めることが重要である。そのため、日頃から問題意識を持ちながら、取得状況や、取得対象の男性の希望・意見をはじめ、ほかの社員の考え、職場の状況なども把握しておくことが必要であろう。

  3. この男性の育児休業取得促進というテーマが、限定された一部の社員だけの話だと受け止められないようにすること、社員みんなの共感を得られることが重要であるとし、また、誰もが直面し得る介護という課題への対策とセットでアプローチするなどの工夫を凝らしている企業もあった。

    また、男性の育児休業取得促進策を単独のテーマとして進めるのではなく、総合的な施策を進める中でやっていくこと、例えばダイバーシティ、多様な働き方、働き方改革全般という中で動かしているとした企業もあった。

    実際、各社の取組の目的や効果などをみても、育児休業の対象となる男性のことだけにとどまらず、幅広い指摘がなされている。「お互い様」の意識醸成にもつながることだが、男性の育児休業の取得促進が、一部の男性のための対策にとどまるものではないということを、みんなが認識できることが重要であろう。

政策への貢献

今後、男性の育児休業の取得促進のための施策を検討するに当たって、活用される予定である。

本文

研究の区分

緊急調査

研究期間

令和元年度

研究担当者

藤澤 美穂
労働政策研究・研修機構統括研究員

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
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成果普及課 03-5903-6263 

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