資料シリーズ No.214
労働法の人的適用対象の比較法的考察

2019年3月29日

概要

研究の目的

「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)において、雇用類似の働き方については、順次実態を把握し、雇用類似の働き方に関する保護等の在り方について、法的保護の必要性を含めて中長期的に検討するとされている。このような状況下で、JILPTでは厚生労働省の要請を受け、諸外国における労働法の人的適用対象のあり方に関する比較法的研究を行った。

研究の方法

文献サーベイ

主な事実発見

  • イギリスの労働者性の判断基準は、コモンローにおいて使用者責任の有無を決定するために発展してきた基準であり、現在でも指揮命令の欠如が労働者性(雇用契約性)を否定するとされている。一方1960年代以来、当該労務供給者が自己の計算において事業を行う者といえるかという経済的実態の観点も考慮して総合的に判断されるようになった。1980年代には、継続性のない一回的・単発的な労務供給契約による労務供給者(casual worker)の労働者性が否定されることとなり、これが後に「就労者」概念を生み出すこととなる。1990年代には、労務供給者が自身の労務を提供することが労働者性の必要条件とされ、実務では代替者による労務供給を認める旨の契約条項を入れることにより当該労務供給者の労働者性を否定することを狙う例が見られる。

    なお1997年労働党政権以降、主として上記労働者性を否定されたcasual workerを包摂するために設けられた概念が就労者(worker)であり、その要件は契約者自身による労務供給と契約の相手方が専門職の依頼人や当該人によって営まれる事業の顧客でないことである。なお近年のギグ・エコノミーに対応して、2017年のテイラー報告書は就労者概念を依存的契約者に変え、その判断においては自身による労務供給は重視せず、指揮命令基準をより重視すべきと提言している。

  • フランスでは、破棄院の判例により指示、統制、制裁という3要素によって労働契約の性質決定の有無を判断するという手法が維持されている。労働契約の性質決定に当っては、法的関係としての「法的従属」ではなく、事実としての「従属的地位」が基準となっている。経済的依存は、労働契約の基準としては退けられているが、従属の証明に寄与する考慮要素ではある。他方、組織への組み込みを基準とする考え方は明確に退けられている。

    一方、立法により雇用類似の働き方について労働法の適用領域を拡大する規定が存在し、一定の職業の契約を労働契約と同一視するものとして、家内労働者、外交商業代理人、新聞記者、興業役者があり、一定の就労者に対し労働法典の一定部分の適用を認めるものとして、労働者でない支配人等について労働時間や賃金、解雇に関する規定が適用される。近年の新たな就労形態としては、疑似派遣型独立労働者やプラットフォーム型就労者があり、後者については2016年の労働法改革により保護するためのいくつかの規定が設けられた。

  • アメリカでは、コモンローに由来するコントロールテストと、公正労働基準法で用いられている経済的実態テストがある。現在では経済的実態テストが用いられる根拠法令は公正労働基準法のみであり、大多数の立法においてはコントロールテストで労働者か否かが決せられている。なお、差別禁止法における労働者性判断に際しては、両者をミックスしたハイブリッドテストが用いられるケースもある。さらに、州労災補償法においては、就業者が行う職務が使用者の事業の不可欠な一部をなしているか否かによって就業者を労災保証法上の労働者であるかを判断する業務相関性テストを用いる州がある。

    現在、プラットフォーム・ビジネスにおける働き方に含まれる独立契約者や請負といった非労働者に係る問題への対処として、就業者の誤分類を是正しようという動きがある。すなわち、本来であれば法的には労働者として扱われてしかるべき就業者が非労働者として分類されてしまうために、労働者として扱われていれば給与から源泉徴収される連邦保険税を政府は徴収し損ねてしまい、税収確保が困難になるという現実的な問題への対処である。また、州や地方自治体レベルで非労働者に係る条例を定める動きもある。

政策的インプリケーション

各国とも、判例法理に基づく従来の労働者性の判断基準を維持しつつ、近年のプラットフォーム就労に対応すべく新たな立法の試みや誤分類是正の動きが見られ、類似の状況にある日本にも参考になる点が少なくない。

政策への貢献

厚生労働省をはじめ、今後の雇用類似の働き方に係る政策論議に活用されることが期待される。

本文

研究の区分

緊急調査「諸外国における雇用類似の働き方に係る法制度」

研究期間

平成29年度~平成30年度

執筆担当者

濱口 桂一郎
労働政策研究・研修機構 研究所長
岩永 昌晃
京都産業大学法学部准教授
細川 良
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
池添 弘邦
労働政策研究・研修機構 主任研究員

関連の研究成果

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