資料シリーズ No.194
諸外国における教育訓練制度
―アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス―

平成29年3月31日

概要

研究の目的

アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4カ国を対象に、公的教育訓練制度とその実施状況について情報収集を行う。

研究の方法

文献、政府資料等に基づき、調査を実施した。

主な事実発見

  • 各国における教育訓練政策の状況からは、職業訓練の位置づけの多様性が改めて確認された。特にアメリカと欧州各国の間には、主な対象者や訓練を通じて獲得される技能に関する了解に違いがあると考えられる。
  • アメリカでは、制度の形成過程において、低所得者や低スキルの者、マイノリティ、求職者といった層への支援策としての訓練の提供が主眼とされてきた。近年は、対象層の拡大が図られているものの、依然としてこうした層の支援が優先課題に位置づけられている。各地域には、職業訓練のみならず、求職者と雇用主のマッチングやキャリアガイダンスなども含むサービス提供の中心を担う公的な委員会組織が設置され(過半数を企業からの委員が構成)、関係組織とのパートナーシップにより、連邦政府の予算で訓練を含む各種サービスが実施される。訓練の成果を測定する指標は、雇用に結びついた度合いにその重点が置かれる。また、若年者については、学校教育における職業教育の役割が大きいが、学校外で提供される職業訓練プログラムは、やはり社会的に不利な状況にある者に対象が限定される。
  • 一方、欧州では、資格制度を基盤として、職業訓練を通じて獲得される技能が重視される傾向にあり、若年層から成人まで、広範な層による参加がうかがえる。ただし、ここでもその状況は各国で異なる。たとえばドイツでは、中世の徒弟制度を起源とする職業訓練が、政府や労使などの関係者による連携を通じて発展してきた。教育課程における早期の段階で分岐点が設けられ、職業的なコースに進む者には、いわゆる「デュアルシステム」(実地訓練と学習を併行して行う)を中核として、長期にわたる訓練が提供される。訓練の修了資格は、就職やより高度な職業訓練に進むための要件とされ、社会的な認知度は高いといえる。全国あるいは州レベルで、政労使の参加による委員会組織が、技能需要に即した教育訓練の内容や職種別の資格の更新を担っている。
  • フランスでも、職業資格が技能に関する指標として非常に重視されており、その有無や等級が、就職の可否や労働条件を左右しうる。国が管轄する職業資格の取得を目的とした多様なレベルの職業訓練課程が、義務教育修了後の各段階に対応する形で地域圏(自治体)によって運営されており、主に国民教育省の管轄する教育機関がその提供を担う。また、主に学校を離れた在職者や失業者・求職者に対して提供される継続職業教育訓練は、労使の設置する公的機関あるいは国、地域圏が担い、企業や訓練機関等が提供している。なお、国民には勤続年数に応じて一定の時間数の職業訓練の受講が権利として保証されており、その蓄積や利用の状況は、職業訓練個人口座の制度によって管理されている。
  • 他方、イギリスでも従来は、資格制度を基盤とした教育訓練政策が実施されてきた。低資格層を中心に、公的補助により資格取得が促進され、またより柔軟な資格の開発や取得を可能とする資格制度の再編が図られた。しかし、新たな制度はその有効性に疑問符が付され、結果として導入からわずか数年で廃止された。職業資格と雇用主の技能需要の乖離や、取得のための制度の複雑さに関する批判は根強く、近年の制度改革においては、むしろ資格の位置付けは後退している。雇用主の技能需要をより直接的に反映できる訓練の手法として、アプレンティスシップ(企業における見習い訓練)の拡充が掲げられ、またその財源として、4月からは負担金制度が導入される。頻繁な制度改革により、未だ試行錯誤が続いている状況にあるといえる。

政策的インプリケーション

職業訓練の位置づけや性質の違いが、各国の今後の人材の需給にどのような影響を及ぼすのか、継続的に観察する必要がある。

政策への貢献

職業能力開発施策の企画立案に資する基礎資料となることが想定される。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

研究期間

平成28年度

研究担当者

早川 佐知子
広島国際大学 医療経営学部医療経営学科講師
樋口 英夫
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
飯田 恵子
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
北澤 謙
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐

関連の研究成果

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