資料シリーズ No.182
地域における高齢者の多様な活躍のヒアリング事例
―地方公共団体等の取組を中心に―
概要
研究の目的
急速に人口減少、高齢化が進みつつある我が国においては、高齢者が活躍できる環境の整備が喫緊の課題となっている。また、当機構の過去の調査研究から、高齢者が雇用以外の形態も含めて就業することは、生きがいや健康増進にもつながることが示唆されている。さらに政府においても、高齢者については雇用以外にも地域での社会参加を促していく方針を打ち出している。
当機構では上述の状況を踏まえ、高齢者の多様な活躍に関する全国の取組事例を収集し、その成果を広く情報共有すべく、ヒアリング調査を実施した。その際、高年齢者雇用安定法の改正により高齢者の多様な就業機会の確保のための協議会設置が可能となったことや、シルバー人材センターにおける派遣業務の業務拡大が行われたことも踏まえ、地方公共団体を中心にヒアリングを実施した。
研究の方法
ヒアリング対象は、東京都(板橋区を含む)、兵庫県・神戸市、島根県、愛媛県松山市、三重県名張市、秋田県仙北市、北海道当別町の7地域の事業主体である(図表1)。
ヒアリングの実施日時、調査対象となった事業主体、および主な調査内容は図表2の通りである。調査対象の選定基準は、(1)地方公共団体等が、高齢者が活躍する機会を積極的に提供していると考えられる地域、(2)高齢化が進行しつつあるか、将来的にその進行が見込まれている地域、のいずれかに該当することとした。
日時 |
調査対象 |
主な調査内容 |
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東京都 |
2016年5月11日 13:30~14:30 |
公益社団法人板橋区シルバー人材センター |
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2016年6月16日 15:00~17:00 |
公益財団法人東京しごと財団 |
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兵庫県・ |
2016年6月30日 14:00~15:00 |
兵庫県産業労働部政策労働局 しごと支援課 |
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2016年6月30日 15:00~16:00 |
兵庫県健康福祉部高齢社会局高齢対策課 |
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2016年6月30日 16:00~17:00 |
兵庫県産業労働部産業振興局新産業課 |
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2016年7月1日 10:00~12:00 |
神戸市市民参画推進局市民推進部 公益財団法人神戸いきいき勤労財団 公益財団法人神戸市シルバー人材センター |
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2016年7月1日 14:30~15:30 |
房王寺さくら会 |
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島根県 |
2016年7月7日 13:30~15:00 |
社会福祉法人島根県社会福祉協議会 |
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2016年7月7日 15:30~16:30 |
島根県商工労働部雇用政策課 公益社団法人島根県シルバー人材センター |
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2016年7月7日 16:30~17:30 |
島根県健康福祉部高齢者福祉課 |
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2016年7月8日 10:00~12:00 |
NPO法人たすけあい平田 |
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愛媛県松山市 |
2016年7月1日 9:00~10:00 |
愛媛県経済労働部産業雇用局政雇用課雇用対策室 |
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2016年7月1日 13:00~15:30 |
松山市産業経済部地域経済課 松山市保健福祉部高齢福祉課 公益社団法人松山市シルバー人材センター |
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三重県名張市 |
2016年7月4日 10:00~12:00 |
名張市産業部商工経済室 名張市福祉こども部医療福祉総務室 |
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2016年7月4日 13:30~15:30 |
公益社団法人名張市シルバー人材センター |
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2016年7月4日 15:30~17:00 |
社会福祉法人名張市社会福祉協議会 |
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秋田県仙北市 |
2016年7月5日 13:00~14:30 |
仙北市観光商工部商工課 仙北市桧木内地域高齢者の社会参加促協議会 |
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北海道当別町 |
2016年6月27日 10:00~11:45 |
社会福祉法人ゆうゆう |
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2016年6月27日 14:00~14:45 |
当別町企画部企画課総合企画係 同課都市計画係 当別町経済部商工課商工係 当別町福祉部福祉課介護サービス係 |
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主な事実発見
各章で得られた主な知見は下記の通りである。
第1章 東京都
東京都では、都全体の高齢者就労施策に携わっている東京しごと財団の事業、および、板橋区シルバー人材センターの事業について、内容、成果、課題等を報告している。最後に調査全体を総合考察し、(1)東京都は予算規模が大きいため独自の制度的対応を行いやすく、またその必要がある、(2)高齢者の雇用・就労の受け皿は大きいが、ミスマッチがある、(3)事業が大規模であるため就職後の状況の全体像を把握しにくい、の3点を、本事例の全体的特徴・課題であると指摘している。
第2章 兵庫県・神戸市
兵庫県及び神戸市では、兵庫県の様々な高齢者の起業支援(シニア起業家支援事業、高齢者コニュニティ・ビジネス離陸応援事業、高齢者起業支援事業)、房王寺さくら会(家事生活支援)、神戸市シルバー人材センターを取り上げている。この中で、兵庫県では、計画で74歳までを「現役世代人口」とし現役で多様な形態で働くことを推進しているほか、様々な高齢者の起業支援事業を行っている。神戸市シルバー人材センターでは、「出前託児サービス(ぴよぴよ隊)」等、地域のニーズに即した独自事業を実施している。
第3章 島根県
島根県では、ミドル・シニア仕事センター、シルバー人材センター、75歳現役証交付事業、新たな支え合いファンド、シマネスクくにびき学園、たすけあい制度事業(NPO法人たすけあい平田)を取り上げている。この中で、ミドル・シニア仕事センターでは、中高年齢者にターゲットを絞った求人募集、マッチングにより好調な実績に繋がっている。また、新たな支え合いファンドや、たすけあい制度事業(NPO法人たすけあい平田)は、介護保険事業の新たな総合事業への移行に関連する、高齢者の日常生活支援の取組を行っている。
第4章 愛媛県松山市
愛媛県松山市では、松山市シルバー人材センターが、地域人づくり事業を通じて、「セルフプロデュース事業」を実施している。同事業では、高齢者のホワイトカラー層を中心とした就業機会(起業を含む)の提供、UIJターン高齢者(移住者)に対する総合的生活支援等、様々な取組が行われている。さらに同センターは、松山市から業務委託を受けることで、より多くの就業機会を高齢者に提供している。松山市では、主に就業という形で、高齢者に活躍する場が提供されている。
第5章 三重県名張市
三重県名張市は、急激な高齢化と厳しい財政状況という問題に直面し、高齢者対策が大きな行政課題となっている。こうした状況の中で、同市が活路を見出したのは、地域住民(組織)との協働である。15の地域組織に予算と権限を委譲し、地域の住民が有償ボランティアとして、当該地域に居住する高齢者へのサービスを提供している。また同市では、6つの部署において、地域人づくり事業が展開され、就労や有償ボランティアという形で、高齢者に活躍する機会が提供されている。
第6章 秋田県仙北市
秋田県仙北市では、高齢化率がすでに40%を超えている同市桧木内地区において実施されたモデル事業について、市役所の担当者と住民代表の方にヒアリングを実施し、事業の成果と課題を報告している。調査全体の総括として、「地域住民の感情があらゆる取組の成否をわける要因となっている」こと、またそうした傾向は今回の調査対象地域に限らず、全国の高齢化率が深刻な小規模自治体にある程度普遍的に当てはまるであろうとの予測が示されている。
第7章 北海道当別町
北海道当別町では、社会福祉法人ゆうゆうに主に焦点を当て、同法人が掲げる「共生型」の理念、および多様な事業の内容と、そこでの高齢者の関わり方や活躍の様子を紹介している。本事例の総括として、「地方で高齢者の多様な働き方を促進するためには、高齢者だけに注目してはならない」という逆説的な教訓や、「若い起業家・経営者の先進的な取組が、若い世代を引き寄せ、雇用を生む」という好循環の加速が有効と考えられること等を指摘している。
今回のヒアリング調査の結果を大まかに整理すると、各事例の取組は下記の5種類に分類することができる。
- 労働需給マッチングの取組
⇒ 働きたい高齢者と、高齢者雇用を検討している企業のマッチングを行う。
該当例:東京都、島根県の事例 - 起業支援の取組
- 雇用機会創出の取組
⇒ 雇用の受け皿を増やすための事業を創出する。
該当例:愛媛県松山市、秋田県仙北市の事例 - シルバー人材センターを通じての就労機会拡大の取組
⇒ 各地方公共団体のシルバー人材センターを核として、就労機会を増やす。
該当例:兵庫県・神戸市、島根県、愛媛県松山市、三重県名張市の事例 - 住民主体の課題解決の取組
⇒ 行政、NPO、社会福祉法人、民間企業、ボランティア等が連携し、高齢者の日常生活支援等地域の課題の解決を目指す。その中で、地域の高齢者の活躍の場が生じる。
該当例:兵庫県・神戸市、島根県、三重県名張市、秋田県仙北市、北海道当別町の事例
⇒ 高齢者が自らの知識経験を活かし起業できるよう支援を行う。
該当例:兵庫県・神戸市、愛媛県松山市の事例
政策への貢献
人口減少、高齢化が進展している中で、高齢者の多様な形態での活躍を推進していくことは重要な課題である。各地方協団体や各地域の団体等の先進的な取組を紹介し、関係者と情報を共有していくことは、更なる高齢者の活躍の機会を拡大していくものと期待される。
本文
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:703KB)
- 序章 高齢者の多様な活躍の事例収集の趣旨、各章の概要等(PDF:1.5MB)
- 第1章 人口が集中する地域における高齢者就労支援の状況-東京都の事例(PDF:3.1MB)
- 第2章 高齢者の起業支援やシルバー人材センターの独自事業などの高齢者の多様な活躍の取組-兵庫県、神戸市の事例(PDF:2.1MB)
- 第3章 高齢者の日常生活支援とシルバー人材センターの可能性-島根県の事例(PDF:1.3MB)
- 第4章 ホワイトカラー高齢層の就労促進の取組と課題-愛媛県松山市の事例(PDF:1.7MB)
- 第5章 地域組織との連携と包括的な高齢者対策-名張市の事例(PDF:1.3MB)
- 第6章 世界で最も高齢化が進んだ地域における就労機会創出への挑戦-秋田県仙北市の事例(PDF:1.5MB)
- 第7章 共生型の地域創りの中で実現される高齢者の多様な働き方-北海道当別町の事例(PDF:1.8MB)
研究の区分
プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
サブテーマ「労働力需給構造の変化と雇用・労働プロジェクト」
研究期間
平成28年度
執筆担当者
- 田原 孝明
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
- 前浦 穂高
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- 鎌倉 哲史
- 労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー