資料シリーズ No.162
若者の地域移動―長期的動向とマッチングの変化―

平成27年10月8日

概要

研究の目的

若者の地方から都市への地域移動の実態について、長期的な動向とマッチングという観点から検討を行う。

研究の方法

社人研『人口移動調査』(2011)の二次利用・インタビュー調査の実施

主な事実発見

第1章では若者の地域移動について包括的に把握するために、国立社会保障・人口問題研究所が実施した『第7回 人口移動調査』(2011年実施)の二次利用を通じて、先行研究では十分に分析されてこなかった出身地O(origin)・進学地 E(education)・初職地 J( first job)の3時点の移動パターンの分析(以下、「O-E-Jパターン分析」という)を実施した。O-E-Jパターン分析によれば、先行世代に比べると現代の若者の「地方・地元定着」傾向が強まっている。特に高卒者で顕著だが、男性大卒者や女性の専門・短大・高専卒業者においても進学時に都市部に流出しなくなり、男性大卒者でも「地方・地元定着」やUターン割合が増加している。大学進学時や高卒就職時の地元定着は「学校基本調査」においても確認されるところであるが、高等教育進学者の就職時の地元定着・Uターン傾向が見出される。

図表1 世代・学歴別O-E-Jパターン分析(高卒男性のみ)

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図表2 世代・学歴別O-E-Jパターン分析(大学・大学院卒男性のみ)

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図表3 出身地・世代・学歴別O-E-Jパターン分析(出身地・地方の大学・大学院卒男性のみ)

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図表1は、高卒男性について、世代・学歴別O-E-Jパターン分析を行った結果を示しているが、若い世代ほど「地方・地元定着」の割合が高まる傾向が見られる。

図表2は、大学・大学院卒男性について、世代・学歴別O-E-Jパターン分析を行った結果を示しているが、「地方・進学時流出」が若い世代ほど減少し、「地方・Uターン」が微増している。

図表3は、地方出身の大学・大学院卒男性に限って、出身地・世代・学歴別O-E-Jパターン分析を行った結果を示しているが、「地方・進学時流出」が大きく減少し、「地方・地元定着」が増加する傾向が見られる。

第2章は、高卒者の地域移動について高校就職指導のマッチング機能に着目した分析を行った。第一に、高卒求人不足地域の高校就職指導は、高校生の地方地元定着が強まっているという背景のもと生徒の地域移動に対する水路付けを行っており、生徒が地域移動をする後押しをしていると見られた。第二に、どこからどこに移動するのかという地域移動のパターンは、マッチング機能(高校就職指導)の歴史的経緯に依存する部分が大きく、地域間の結びつきは安定している。第三に、出身地域がどこの都市と結びつくかによって、誰の移動を誘引するか、あるいはどんな仕事に就くことになるかが規定される。工業高校の事例に見られるように、専攻した学科に関連の深い職種よりは、高校が結びついている移動先地域によって就職先(産業や職種)が異なっていた。移動先地域は基本的に安定的であるため、移動先の産業構造によって需要(誰が移動するか、どんな仕事に就くか)が異なることになる。2010年代の地域移動も地域と職種という点でかなり限定された労働市場の中でマッチングがなされていることがうかがえるものの、高知から愛知への地域移動の増加のように、何らかのきっかけで新しい結びつきが生まれることもある。

第3章は、大学生の進学及び就職における地域移動の状況と大学の就職支援状況について、関係機関に対してインタビュー調査を実施した。大卒者の地域移動について、大学就職指導のマッチング機能に着目した分析を行った。今回対象となったのは国公立大学ということもあるだろうが、大学は基本的に就職活動を学生の「主体性」に任せており、就職地についての指導はほとんどない。また就職活動において親の影響が大きく、特に就職先地域について学生は親の希望を察知し地元就職を考えるようになるが、特にこの傾向は女子学生(とその保護者)に顕著であった。さらに進学のために地域移動をしておらず、地元就職を目指す学生は「視野が狭い」場合もあると大学は認識しており、キャリア教育で揺さぶりをかけるなど働きかけの必要性が認識されていた。なお、地方の学生は就職活動にお金と時間がかかり、「東京に出ようと思いながらも、経済的な側面で身動きが取れなくなって近場の就職をする」などやむなく地域に残る傾向もあった。

政策的インプリケーション

現代の若者個人の地域移動という視角から見た場合、都市部でも地方でも地元に定着する若者の割合が先行世代よりも増加し、若者の地域移動の選択肢や経路は限定的であるということを前提に労働政策が進められる必要があることが示唆された。この示唆は地域コミュニティの側からもっぱら若者の流出に焦点付ける現在の視点を補完するという点で、一定の貢献がある。

政策への貢献

雇用政策研究会への活用等。

本文

  1. 資料シリーズNo.162全文(PDF:3.7MB)

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研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「若年者の職業への円滑な移行に関する調査研究」

研究期間

平成25年度~平成27年度

執筆担当者

堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 主任研究員
喜始 照宣
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
中島 ゆり
長崎大学 准教授
金崎 幸子
労働政策研究・研修機構 研究所長
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 特任フェロー

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