資料シリーズ No.105
大企業における女性管理職登用の実態と課題認識
―企業人事等担当者及び女性管理職インタビュー調査―

平成24年 3月30日

概要

研究の目的と方法

我が国の企業における女性管理職の少なさが指摘されて久しい。課長以上の管理職に占める女性の比率は2011年で7.3%に過ぎない。国際的にも日本は女性の登用の進まない国と見られており、2009年には、国連女子差別撤廃委員会から雇用の分野について政治分野等とともに女性の参画促進のための暫定的な特別措置の促進が勧告された。このこともあって、政府は、2015年までに課長以上の管理職に占める女性の割合を10%以上とするという数値目標を新たに設定し、2010年末に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画にも明示している。企業における女性管理職の登用についても、この目標の達成を目指し、取り組みの強化、加速が求められる。

そこで、本稿では、各産業における正社員数5,000人以上の大企業10社の人事等担当者を対象にインタビュー調査を実施し、事業展開の特徴、人事の基本方針やキャリアアップの仕組み、女性の採用や管理職登用の現状、ポジティブ・アクションの実施状況などを把握するほか、女性の管理職登用との関係で課題の存在が予想される育児休業等両立支援の利用と評価、昇進の関係、育児期等における就業意欲の変化、総合職や大卒以外の女性の管理職登用可能性や昇進意欲などの個別関心事項についても問いを設けて、人事等担当者としての所見の把握を行った。

あわせて、上記10社中2社については、部長クラスのライン管理職についている女性に対してもインタビューを実施し、そのパーソナル・ヒストリーを通じ上級管理職につくのに必要な業務経験、本人の資質や意欲、会社の育成方針などを探った。

主な事実発見

  • 人事の基本方針とキャリアアップの仕組み

各社とも、程度の差はあれ、学卒での採用を行い長期勤続を前提とした人事管理を行っていた。ただ、その中でも職能資格制度を維持する企業がある一方、勤続の要素を切り離し、職務や責任の範囲に応じた役職制度に基づく人事管理を行っている企業も目立った。キャリア・アップの仕組みとしては入社後一定期間は勤続年数による管理を行う企業も見られたが、かなり早い段階で昇進試験への合格や資格取得を昇進の要件とするようになる企業も見られた。管理職以上に昇進するには全ての企業で一定の評価結果を要件にしているほか、昇進試験を課している企業も多くみられた。コース別雇用管理を導入している企業は4社であった。

  • 女性社員の採用と管理職への登用

新規採用者(正社員・学卒)に占める女性社員の割合は、10%未満から60%程度までとさまざまであるが、5社では従業員全体に占める女性割合以上の割合で女性を採用しており、女性社員の割合を増加させる方向への努力がうかがわれた。管理職への女性の登用については、1社を除き部長職の女性が誕生しており、役員となった女性がいる企業も4社あった。一方で、各役職階層別の女性比率は企業により大きなばらつきがあったものの、最も初期的段階の役職である係長級でも全体に占める女性の割合は多くて20%であり、課長職以上の管理職に占める女性の割合を公表(又は把握)していない企業も多く、その割合が10%を超えているのは1社に過ぎなかった。

  • ポジティブ・アクションとしての取り組み

3社はポジティブ・アクションとしての取り組みは行っていないとし、残りの7社も、名称についてはポジティブ・アクションよりも、ダイバーシティや多様性の名を冠しての取り組みを行っていた。ポジティブ・アクションの取り組みを行っている企業は、ポジティブ・アクションに関する全社的な意思決定機関と推進の事務を行う専任組織の両方又は少なくとも推進の事務を行う専任組織を有していた。

ポジティブ・アクションとしての取組みを行っているとした企業の多くが、女性の能力を有効に活用し、経営の効率化を図るため、優秀な人材を確保するためといった理由を挙げていたが、特にトップの経営戦略との関係を強調する企業、グローバル企業としてSRIの動向との関係を指摘する企業もあった。取り組み開始時期については、1980年代、1990年代初めから、男女の均等とりあつかいを意識した取り組みをしていたとする企業もあったが、1997~9年の改正男女雇用機会均等法成立、施行を契機とした取り組みや、2000年前後の経営改革としての取り組みを本格的なスタートとする企業が目立った。

  • 育児休業等両立支援の仕組みと育児休業期間の評価・昇進

調査対象企業選定時にそのように設計したためもあって、全社が法を上回る育児休業制度を有していた。育児短時間勤務制度についても1社を除き法を上回る制度があり、うち4社が小学校卒業まで、5社が小学校3年終了までとなっていた。

育児休業中の評価は下がるか又はニュートラルとする企業が多いが、各社とも休みの前後で必要な評価期間を通算したり、考課査定を単年度で行ったり、休み中でも昇進試験の受験資格を与えたりする中で、育児休業自体によって昇進が大幅に遅れることが避けられるシステムになっている。しかし、法定以上の長い期間短時間勤務が可能な企業が大多数である中、長期の短時間勤務は昇進にいい影響を与えないと考える企業が多かった。

  • 女性の昇進意欲と子育ての関係

キャリア意識の高い女性社員は育児休業や育児短時間勤務を短期で切り上げ、元のペースに戻る場合が多いと説明する企業が多いが、女性の就業意識の多様性を強く認識している企業もあり、育児休業や短時間勤務を短期で切り上げない女性も多いようであった。長い間通常と異なるペースでの仕事をしている間に昇進への自信や意欲をなくしていく状況を懸念する企業も複数ある一方、そういう両立型あるいは家庭重視型の意識の女性にも、一定の期待役割を与え、キャリアアップを目指すよう励まそうとする企業の努力も複数の企業で見られる。しかしその努力が十分実を結んでいるかどうかは調査からはよくわからなかった。

  • 総合職・大卒以外の女性の活用方針

総合職以外、大卒以外の領域の女性社員の活用が企業経営の重要課題ととらえる企業もあり、そのような企業はコース別雇用管理制度の改定や、転換の実施によりキャリアアップの促進に努力している。ただし、必ずしも会社の期待通りモチベーションがあがらない場合もあるようであり、その事を課題として挙げる企業もあった。

  • 今後の女性管理職の増加の見通し

全ての企業で今後の女性管理職の増加についての予想や展望を持っていたが、特に部長等の上級管理職については時間がかかるとの見方を示す企業もあった。

  • 女性の管理職登用を進めるのにもっとも必要だと思うこと

保育所や学童保育の問題を挙げた企業が複数あり、そのほか中高年齢の男性管理職の意識やセクシュアルハラスメントの問題、学校教育の問題等様々な問題の解決が求められた。

政策的含意

政策への貢献

本稿では、これまで具体的には十分明らかにされてこなかった女性の管理職登用の隘路となり得る具体的事項について、企業の人事管理方針やキャリアアップの仕組みと絡めて明らかにしたものである。今後の実効ある女性活躍推進政策の進展に資する基礎資料の一つとして活用されることが期待される。

図表 女性管理職インタビューシートの内容

※図表をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)

図表 女性管理職インタビューシートの内容/資料シリーズNo.105

本文

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研究期間

平成23年度

執筆担当者

伊岐典子
労働政策研究・研修機構主席統括研究員
渡邊木綿子
労働政策研究・研修機構調査解析部調査員

入手方法等

入手方法

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